21話 お引越し
「しっこしでつーっ」
あ、噛んだ…
正確には「引っ越しです」だ。
王様に出した手紙がどうなったかはクラウにしかわからないけれど、とりあえずリンスター家は今住んでいる屋敷をノルディークのもう一人の使い魔であるグリフィンのグリさん(名前を覚えられなかったのであだ名)にお任せし、王都へと旅立つことになった。
パパンの情報では戦争も白の塔の介入で終わりそうで、今、続々と騎士や兵士が王都へ帰還しているらしい。
パパンは私が戦争を止める何かをやらかしたのだとわかっているらしく、仕方ない子だなというような目で頭を撫でられた。
戦争が終わるのはいいことだよ。うん。
そういうわけで、そろそろ王都の学校も動き出すだろうと見て、私達は引っ越しをすることになったのだ。
兄様は今まで寮暮らしだったのだけど、これからは新しい家から学校に通えるとなって喜んでいる。
ちなみにこの引越し資金、どこから捻出されているかというと。
わたくし、シャナ・リンスター、塔の主になりまして、その財産も継いだので大金持ちになりましたー!
向かうところ敵なしのセレブです。
何しろ塔の主と言えば皆引き籠ってしまって、持っている財産や土地の権利など、さまざまなものを抱え込むだけ抱え込んで使わないのだ。
おかげで塔から国宝的価値のある骨董品が出てきたり、隠れたところに古いお札が出てきたり(へそくりをしてみたかった主がいたらしい)、とにかく一国の主以上の財産が置いてあって、小市民の私は唖然とした。
無駄に使う気はないけれど、とりあえず生活するだけは使わせてもらうことにして、王都に屋敷を買い、移り住むことにしたのだ。
「パパンッ、メイドしゃん、メイドしゃん雇ってねっ」
バラ色の王都生活に今から興奮しきり。
ずらりと並んだメイド服と執事服の若い男女を想像し…
じゅるり…おぉ、今からヨダレが止まりませんな。
「こらこら、散財はしないと誓ったばかりだろう?」
パパンに妄想を止められました。
一応お金の管理はパパンになっておりますが、パパンでは不安なので、今はノルディークがやってくれている。パパンは決定を下す側だ。
「でも父様、王都に屋敷を構えるなら使用人は必要だよ。でないと馬鹿にされます」
馬鹿にされたことがあるのか、兄様がほんの少し暗い顔でパパンに訴える。
誰だ、兄様にこんな憂い顔をさせたのはっ!
「バカになんて当家がさせません。父上だってそう言います」
続いて自信たっぷりに胸を張るのはシェール。
彼は自分の父親が無事だとパパンから聞いてから血色がよく、つやつやだ。
今回王都に引っ越す私達と共に王都に帰還すると決めたようである。
「ありがとうシェール。しかし、使用人か…」
パパンが使用人を渋るのは当然だ。この屋敷には塔の関係者が3人もいる。いつどこで誰が何を聞いて、あることないこと広めるかわかったものではない。
当然塔に関する事柄は注意を払い、結界を張ったりしてから話すようにしているが、人が増えれば危険度は増すというものだ。
「ギルドで何とかしてもらいましょうか? 契約違反すれば即刻ギルドから除名、ギルドよりの制裁ありとか書いてもらえば、覚悟を決めた人が集まると思うわ」
さすがは元冒険者なママン。変わった方向からのアプローチだ。しかし、その言い方だと気になることがあるのだけど…
「ぎりゅどって怖いの?」
目をくりっとさせて傍に立つノルディークを窺えば、彼は古い記憶をさかのぼっているのだろう、少し思案した後、苦笑した。
「そういえば、ギルドの制裁は半分死人になると聞いたことがありますね」
何ゆえに?
首を傾げていると、どうやらノルディークも詳しい内容は知らないようだ。まぁ、引き籠った塔の主達がそういったことに詳しいとは思ってなかったけどさ…。
これではギルドがほんとに怖いかどうかはわからないなぁと悩んでいると、シェールがギルド情報を続けてくれた。
「制裁の詳しいことは一切明かされてない。けど、除名でどうなるかは明白だ。どこの機関も、ギルドを除名されるような信用のない奴は雇わない。そういうやつは土地を移るしか生きて行く術がないんだ」
荒くれ者の多いギルドだが、裏を返せば、見た目や性格、地位や学歴、生い立ちによって、他では仕事に就くことができない人々の、いわば最後の砦のようなものということだ。
確かにそこを外されれば他に行くところなんてないだろう。
そんなことを、シェールから引き継いでママンが教えてくれた。
ギルド、意外と侮りがたし…
「そうだなぁ…ちょっと考えてみるか」
パパンの気持ちが動いたようです。
私はきらんっと目を輝かせると、再び期待に胸を膨らませ、馬車に乗り込んだ。
「ではでは、早く行くでしゅよっ」
王都へは馬車二台で向かいます。
一台目にパパンとママン、それと着替え類なんかを乗せ、二台目に私達子供達が乗り込みます。
ちなみに、馬車は4人乗りなので、子供用の馬車では、私がノルディークのお膝、姉様のお膝、兄様のお膝と、それぞれのお膝を占拠することになった。
シェールには乗らないよ。敵だもの。
し・ふ・く~。むふっ
と思ったら、一回目の休憩で姉様がパパン達の馬車に移ってしまった。
「シェールのせいでしゅ」
「人のせいにするなチビ」
むきゃ~っと叫ぶ私。
「シャナッ、暴れないっ」
暴れ出す私を止める兄様とノルディーク。
その後二台目の馬車の旅はとても騒がしいものになったのは言うまでもない。
王都に辿り着いた頃には、二台目に乗っていた全員がぐったりしていたのだった。




