20話 手紙の行方
召集の手紙を出した黒の主目線です。
バササササッ
鷹の羽ばたく音を耳にして、男は窓を押し開く。
ここは人里より遠く離れた森の中、常にうっすらと森を覆い尽くす霧が人を寄せ付けぬ迷いの地。その中央に、人の目には映らずまっすぐそびえ建つのは不気味な黒い塔である。
黒の塔――――
赤、青、緑、白、黒の5色の中で、最も孤独な地にあるその塔の主は、誰よりも強い精神を持ち、塔のリーダー的役目を担っている。
とはいえ、もともとあまり塔同士が関わることはないため、今回のような赤の暴走や、白の違反がなければリーダーとして動くことはないのだが…。
窓を開けると、人の半身はあろうかという大きな鷹が窓枠に足をかけてとまり、主が手をかざすと、そのままシュルリと姿を紙切れに変えた。
全部で3枚。
今回白の約定違反についての会議する為、招集を促した返事が戻ってきたのだ。
窓を閉めて部屋に戻り、椅子に腰かけて手にした返事を読む。
青の塔の主は年老いた老婆だ。
彼女は長い人生の中でも今回の赤の暴走にひどく胸を痛め、人とのかかわりが少なすぎるのも問題だと言っていたが、黒の主である男は以前それを鼻で笑った。
私は人が嫌いだ。
随分昔に滅びた王家の第一王子だった自分は、人の醜い部分をいくつも見てきた。だから、青の言う人と関わるべきという言葉は受け付けなかった。
そして、やはり今回の返事にも青は少しは人と関わるべきだと説いている。
人と関わるべきだという部分は全て避けて読み、召集の返答を見れば是だ。
まぁ、否を唱える者はいないだろうが。
次に読んだのは緑の塔の主からの返事。
こちらは人好きで毎日のように町や村へ行き、どこどこの娘に赤ん坊が生まれただの、新種の野菜ができただのと聞いてもいないのに手紙を書いてくる。
今回の手紙にもヤギが生まれて名付け親になっただのと近況が書かれていた。
どうでもいい…
近況の部分はさらっと飛ばし、召集の返答を見ればぜひうちでと書かれている。
召集の場所はまだ決めていないのでどこでもいいのだが、緑の塔はやめておこうと固く誓った。
残りの一つは白の塔。
この塔の主は青の塔に続く長生きである上に、五色の塔のうち最強の力を誇る。
子供の姿でいつもにこにこしていて腹の下では何を考えているかわからない男だ。
赤の主の暴走時、赤の力はそれほどでなくとも、厄介な魔法をいくつも使う彼の粛清を当然のように白に頼み、それは成されたが、粛清を成した後の戦争介入はいただけない。
赤の力が何か悪影響を及ぼしたのではないかと緊急招集に至ったのだが…。
返信に戦争介入の経緯でも書いてあればまだ問題ない、自覚して行ったということだからだ。
もし、それが書かれておらず、何も変わりはないと言った内容だとしたらぞっとする。
最強の力に、我等で勝てるか…?
白がおかしくなった時のことを考えてしまい、首を横に振ってまだ決まったわけではないと白の返事を見た。
『今人生の瀬戸際なので行けません』
「は?」
思わず声が出た。
見間違いだろうかともう一度見ても、返答の紙に書かれているのはその一行のみ。
しかも、字が汚い。
まるで子供のいたずらのような文字に、その紙を前に腕を組んで唸る。
暗号か?
そこから1時間ほど格闘したが暗号だとしてもその糸口となるヒントは見つからず、諦める。
水で出す?
ちゃんとした文字は何か仕掛けを解かないと読めないとか、そういうことだろうかと最初は数滴水を落としてみたが何の文字も出てこない。
あぶり出し?
一番確率が高いのはそれだろうかと炎の魔法で紙をあぶると、ぼっと音を立てて紙が・・・・
燃え落ちた
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
その日、黒の塔周辺では、黒の塔の主が主となって初めての怒りの叫びが響き渡ったのだった…。
ノルディークはぶるっと身震いした…
シャナ「風邪でしゅかノルしゃん?」
ノル「う~ん、なんでしょうね。悪寒が…」
シャナ「風邪は移すのが一番でしゅよっ。さぁ!むちゅぅぅぅぅっと」
唇を尖らせシャナが襲いかかる!
しかし、シャナの唇はべちっとノルディークの手に防がれた。
ノル「悪寒はこれの前触れかな…?」
シャナ「ちっけいなっ!」
シャナがやらかしていることにまだ気が付いていないノルディークです。




