2話 転生したようですね
高木佐奈《たかぎさな》36歳。ごくごく普通のどこにでもいる日本人。
だったはずなんだけどな…、ついさっきまで。
覚えているのは昨日パートの仕事から帰ってきて、ビールをかっくらい、お風呂に入って気持ちよ~くなったところでお布団に入ったってところまでだ。
どこにでも転がっていそうな一風景だよね。ここまでは。
で、目が覚めたらこうなっていたと…
「目が覚めたわっ、あなたっ、あなたっ」
色白、金髪碧眼の美女のドアップに驚きすぎて目をまん丸にした私に、美女は大喜びして離れていった。
何が起きたのかと見上げる天井は、親が残してくれた一軒家の木目シールの張られた天井ではなく、白いコンクリートのような天井だ。
当然見知らぬ天井ということなんだけれども…
ここどこ?
首を動かそうにも、なぜか頭が重くてうまくいかない。
私、事故にでもあったろうか?
とりあえず目だけで周りを確認すれば、気のせいですかね、私、囲いのある赤ちゃんベッドのようなベッドに寝かされてますよ。
そして、ここはヨーロッパ?という感じの調度品が部屋に並んでいるのが見えました。
ま・さ・か
だらだらと冷や汗が噴き出すのを感じながら寝たままでいると、ばたばたと響く騒がしい足音。
そして、グイッと勢いよく体が引っ張られ、私は見知らぬ男の人に抱き上げられていた。それも、言うなれば、高い高~いというやつで…。
「おはよう僕の天使っ」
・・・・・
ハッ…36年間言われたことのない言葉に脳内がフリーズしてたっ。
いくら男の人とはいえ、50キロ近くある私の体をやすやすと腕だけで持ち上げられるはずもなく、見下ろしてみた自分の体は…
赤ん坊でした。
私…まさか…漫画や小説で言う所の転生をした…とか?
ま・さ・か・ねぇ~?
とりあえずもう一回気絶という名の睡眠をとることにしましたよ…。
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…間違いなく現実でした。
目が覚めたら目の前にママンのおっぱいとかマジ勘弁してください。
そしてそれを吸えとっっ、何の羞恥プレイ!?
悶える事数秒。
腹の虫には勝てませんでした。
まぁね、私、基本ご飯大好きっ子でしたからね。餓えるのは嫌なんです!
「げぷっ」
背中をトントン叩かれてげっぷしたところでこの世界のパパンが私を抱っこします。
ママンもパパンも超絶美形なのはテンプレですかね。ママンは金髪碧眼の超絶美女。どちらかと言えば儚げな妖精のような美しさを持っている。
パパンはこげ茶色の髪と瞳の精悍な男性。細身に見えますが、抱っこしてもらった感じではあの服の下は鍛えられた肉体があると思います。
細マッチョとかそういう感じですかね。
ああん、服の下の裸体が見てみたい~。筋肉は萌だ!正義だ!愛だー!
!…いかんいかん、マイパパに萌えては痛い子だわ。
そんなパパンもママンもどちらも若い! こういっちゃなんだが、かつての私より若いよね? 20代前半かなぁ?
で、私には生まれたての私の上に歳の離れた兄と姉がいる。
一体パパンとママンは最初の兄をいくつで生んだんだ! というその兄の年は8歳。ママンに似た金髪碧眼の美少年。将来が楽しみ。
姉は6歳。亜麻色の髪と、白い瞳。目がとても悪く、ほとんど見えない彼女の姿はまさに絵に描いた美少女。その頼りなげな姿がいずれ多くの男達を虜にすること間違いなしだ。
でも大丈夫、私が余計な害虫から守ってあげるからね!
そんな二人も丁度勉強の時間が終わったらしく、バタバタと部屋にやってきてかわるがわる私を抱っこしていく。
存分に愛でてくださいっ。私はあなた方で目の保養をするからっっ。
「うぶぶぶぶぶぶ~(うへへへへへへ~)」
赤ん坊でありながら変態親父のような気分で笑うと、なぜか兄がびくっとして一瞬私を落としそうになった。
「こらっ、危ないだろうっ」
慌ててパパンが私を支えてくれ、兄がぎこちなく謝る。そしてぶるっと身を震わせて…
「なんか寒気が…」
そんな兄に母は優しく額を突き合わせて首を傾げた。
「風邪かしら? あったかくした方がいいわね」
あらららら、お兄ちゃま大変。風邪ひかないでね。
自分が原因とはもちろんつゆほども思っていない私は「あぶぶ~」と兄を気づかったのだった。
そんなこんなで私の異世界(変態)ライフが始まったのです!
あ…ところで、私のニューネームは何でしょうね?