19話 手紙
パパンのアレはきっと私に都合の悪い話を聞かせないための罠だったに違いない・・・。
3日前のお尻ペンペンを思い出し、むすーっと口を尖らせて部屋のベッドの上でそういう結論に至ったのにはワケがある。
昨日、学園入学の許可がパパンからおりたのだが、そこには多くの条件があった。その条件というものは特に変わった事柄ではなく、入学するのは魔法科だとか、入学試験を受けなければならないだとか。
3歳児がこの学科がいいだの試験は無理だのは言わないはずなので、そこはいいのだけれど、その後がいけない。
「極力魔力は封じる方向でセレンに頼んだからね」
セレン、というのはノルディークのこと。塔関係者はノルディークのことをセレンと呼ぶ人が多いらしい。…て、話が脱線したわ。
そう! 魔力を封じると言ったの!
チート生活満喫はどこへ!
「それから、レオノーラも女学校に通うからね」
姉様も、も、てことは当然私も女学校行きてことになり…計画していた美少年ズ捕獲大作戦が水の泡に~!?
すでにその旨をしたためた入学願書が昨日のうちに出されたらしい。
パパンの巧妙な罠だとしか思えないっ。
何とかして阻止せねばと悶々と考えて現在に至る。
だって、女学校よ? 大事な姉様が入ったら
「まぁ、可愛い子猫ちゃん。目が見えないなんてなんて可哀想。私が可愛がってあげるから安心して。げへへへへ~」
なんてことが起きるに違いない! 姉さま美人だものっ。儚げだものっ。
女学校というのははたから見れば女性ばかりで清楚や可憐と言われるけれど、中身は教室で胡坐かいたり猥談したり・・・恥や外聞を捨てた猛獣の育成所なのよっ!
女子高に通った私が言うんだから間違いないわ!
というわけで、いかにして女学校を回避するか…。
う~んと唸っていると、ふと私の視界に人の足が見え、私は顔を上げた。
「あ、クラウ。おはようごじゃいましゅ」
私の部屋のベットの横に、ノルディークの使い魔、黒に近い紺の髪と赤い瞳のクラウが奇妙な表情で立っていた。
「なんでしゅか?」
実はクラウには塔の管理をお願いしてある。
基本的な管理は魔法で行われるが、塔の中の自給自足システムという名の農園の管理と、外部からの連絡などの受け取りは誰かが塔で行わなければならないのだ。
それを現在私やノルディークの代わりに行っているのがクラウである。
クラウ自身は私の使い魔じゃないけれど、ノルディークが私の契約者、狼なので自然と協力してくれるようになったようだ。
「幼児がゲへへへって…」
なんと、先程のセリフは口に出ていたらしい。
「気のせいでしゅよ。クラウ寝ぼけたんじゃないでしゅか?」
秘儀、すっとぼけを炸裂させ、私はぴょこりとベッドから起き上がった。
「それよりどうちました?。ノルしゃんでなくわたちの所へ来るのはめじゅらしいでしゅ」
「あ…あぁ、塔に召集の手紙が来ていたので持ってきた。と言ってもお前にわかるかどうか…」
何やら紋章の描かれた青い封蝋のされた手紙をクラウが取り出すと、私はそれをしゅばっと奪い取り、ばりっと勢いよく開いて目を通した。
「お前はまだ小さいから主に渡して」
塔同士の手紙は、ある程度秘密を持つため、封蝋の色で大体の内容が把握できるようになっている。
青い封蝋は召集を示すものなので、それにイエスかノーかを示して出せばいいだけだ。
「返事を書けばいいだけでしゅから問題無いでしゅよ」
手紙の内容は先日の戦争介入についての申し開きと、これに関する会議を開きたく、塔関係者は出席するようにというまさに召集の手紙だった。
私は部屋の小さな机の前に座ると、ペンを片手にすらすらと返事を書き始めた。
手紙の裏に返事を書き、魔法を付与すれば勝手に塔の差出人の元へ行くから便利だ。
「よちっ」
私は3歳児が書くつたないながらも頑張った文字を見やり頷く。すると、後ろからクラウが覗き込んで目を丸くした。
「それで…ほんとにいいのか?」
「いいでしゅよ。伝われば…。 ! そうでしゅよ!手紙という手があったでしゅよ! クラウちょっと協力してくだしゃいっ」
私は手紙で、誰も逆らえない人に動いてもらうことを思いついたのだ。
その人ならば塔の主の命令は受けるだろうし、パパンも恩があるから逆らえない!
「あの人が動けば女子高の話はなくなりましゅからね~」
むふっとほほ笑み、さっそく机の前でああでもないこうでもないと考えながらある人に手紙をしたため、クラウに渡す。
「命令でしゅっと渡してくだしゃい」
「・・・・いいのか?」
訝るクラウに、私は胸を張る。
「これは必要悪というのでしゅよ」
必要悪の意味が違おうがなんだろうが、女学校入学を阻止できれば良いのだ!
私のハーレムのために、さぁ、働いてもらいましょうか
王様!
シャナの中では パパン>塔の主>王様 の権力順になってます。
(怒らせてはいけない人順とも言う)
実際は 塔の主>王様>パパン です
塔の主の守護者である魔狼の皆さんは、世間一般的な権力は王様より下ですが、王様にへりくだることはありません。
ちなみに、この国の王様はパパンの恩人で友人ですので、パパンは友人として逆らえないということをシャナは知ってます。
シャナ「パパンより権力がなくても、友情の力がありましゅから、命じてもらいましゅー!」
実際の権力順と間違った権力順を頭に入れておりますシャナですが、こういう理由で命じてもらうようです。




