17話 パパン帰還
「学園に入園するお話はお父様が帰ってきてからね」
ママンに言い含められ、パパンを待つこと幾星霜…実際は1週間ほどだったけれど、ようやく家の門が開き、パパンが玄関から帰ってきましたー!
「おきゃえりなしゃいー!。とぉうっ!」
パパンのお腹にワシっと抱きつき、そのままぶら下がれば、パパンが落ちそうになる私を抱え直してくれました。
「ただいま私の天使! シャナのおかげでいろいろ助かったよ」
よもや戦争を止めたのが私であるとは思っていないはずなので、なんのことかはわからないけれど、助かったというのなら助けたのでしょう。
「ごほーびにお土産くだしゃい」
パパンのボサボサの髪をツンツン引っ張りながらねだれば、パパンが伸びたヒゲで私の頬を擦った。
「痛いでしゅよとーちゃま」
ペチペチ顔をたたいて距離を取れば、パパンが不満そうに唇を尖らせた。
姿は少しくたびれてワイルドなのに、それはもったいないっっ。
「ご不満でしゅか?」
「ご不満だねぇ。パパンと呼んでくれないのかい?」
そんなことで口を尖らせてすねていたのか・・・。
仕方ない。ここは仕事帰りのパパンをねぎらう意味で、とびっきりのを見せて差し上げようじゃないの。
きゅむっとパパンの首筋に抱きつき、にっこり微笑む。
「おかえりなしゃい、パパン。あいちてる」
「うおぉぉぉぉっ、可愛いシャナ~っ ただいま~!」
パパン壊れました。残念です。そしてヒゲが痛い・・・。
すりすりと頬をすり寄せられてむむ~っと顔をしかめていると、ニコニコと微笑むママンが玄関に現れた。
この時間はいつもなら書斎の掃除をしているはずなので、少し出迎えが遅れたらしい。
愛しい人を出迎えたはずなのに、その愛しい人は妻そっちのけで子供と戯れていたためにどうやら不機嫌のようである。
ママン怖い・・・。
触らぬママンに祟りなし。ということで私はパパンから離れ、ママンと共に来た姉様の後ろに隠れた。
「おかえりなさいあなた」
にこりと微笑むママンを見て、パパンの表情がふんわりと柔らかくなる。
仲がいいんだよね。この二人。
「ただいまイネス」
二人がそっと抱き合い、頬にキスをし合うと、私は早速パパンにノルディークを紹介するため、兄様とシェールと共に現れたノルディークに駆け寄ってその手を引いた。
ノルディークは塔の主としてパパンのことを知っているのだろう。どこか困ったような表情を浮かべ、私はそれににまっと答えた。
サプラ~イズの時間です。
「パパン。お友達が増えましゅた」
「そうかっ。君は一体どこの…!!」
ノルディークを見た瞬間、パパンは硬直したのだった…。
衝撃が強すぎましたかね?
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部屋を移し、まず最初にパパンは滞在中のシェールにヘイム公爵の無事を伝える。まだ帰っては来れないけれど、近々兵を纏めて帰還するそうだ。
あからさまにほっとした表情を浮かべたシェールに、家族全員がにっこりほほ笑んだ。
それはともかく、問題はこっち。
「あ~。一応聞きたいのだが、名前は」
パパンは歯切れが悪い。
塔の関係者として、自分の家族といえど真実が話せないからだろう。
「ノルディーク・セレンディアです」
がっくりとパパンは項垂れ、「そうだよな、本人だよな、間違えようないもんな」とぶつぶつつぶやいている。
「イネス、すまないが子供達を連れて部屋を出てくれるか?彼と話がしたい」
しばらく俯いていたパパンは、訝る兄様達を見ないようにしてママンにお願いする。
こういう態度をとるときは何かあるのをママンは知っているので、子供達に全員に部屋を移りましょうと促した。
もちろん私もだ。
だが
「すみません、シャナにはここにいてもらいたいのです。例の件を詳しく話したいので」
例の件とは学園入園の件だ。私の魔力暴走の度合いが詳しくわかるのは高位の魔道士であるノルディークだけなので、塔の話をする為、例の件を詳しくということにして私を残したのだ。
「ノル君、大丈夫?」
「えぇ、ありがとうございますイネスさん」
私はすでにノルディークの膝の上だ。
ママンの大丈夫は「その子扱える?」という意味もあるが、そこはあえて気づかないふりをする。
「いや、しかし、シャナは」
「すみませんリンスター伯爵。彼女がここにいる必要があるのです」
そういうと、私とノルディークは見詰め合い、頷きあった。
さぁ、塔の関係者会議と私の入園ゴリ押し会議の始まりです!