143話 シャナ・・・投下?
「そもそもでしゅねぇ」
べしべしと立ち上がろうとするレイゼンの頭を千歳飴で叩き、さらに膝に力を入れようとするその膝裏を突いて膝カックンさせる。
痛くはしておりませんよ。きっと体は入れ物でしょうから、レイゼンの息子、カエン達のためにも痛くはしておりませんとも。
しかし、彼が立ち上がらない様にあらゆる場所を叩いたり突いたりは続けるので、見た目は別の意味で痛いかも?
「人の魂で生き延びようって言うのが駄目なのでしゅよ」
何やら背後の廊下側で魔物と戦っているらしい老人顔の羊が、私の言葉を受けて「ぐはぁっ!」とダメージを負ったようだが…まぁ、彼等にも反省していただこう。原因は彼等なのだし。
「その上本来の目的を忘れるとはどういうことでしゅか。恥を知りなしゃい、恥をっ。消えたソフィアちゃんが怒ってましゅよっ」
ぴくっと反応したのは偽物のソフィアと、エロ顔魔族だ。
「ソフィア?」
エロ顔魔族は、ほんの少し目を泳がせ、目の前の偽物ソフィアを見やる。
偽物ソフィアはそんなエロ顔魔族の視線を受けると、私を睨んでいた目を和らげ、彼に向けて心配ないとでもいうように微笑んだ。
ひょっとして、エロ顔魔族にはまだ理性がある? そして、おそらく中にあるだろう婚約者の魂は騙されている?
ということは、ここはエロ顔魔族から攻略しますかね。
「あ~、えぇと、エロガオちゃん。名前は忘れましゅたが、エロガオちゃんはそこのソフィアちゃんが偽物だと知っておりましゅか?」
エロ顔魔族は全く反応がなかったが、私がじぃぃっと見つめることで、自分がエロガオと呼ばれていることにようやく気が付いたらしい。
「そんな名前ではない」
「名前は覚えてないのでしゅよ。ザ・・・ザなんとかしゃん」
「ザルツだ」
あぁ、そうそう、そんな名前でした。
うんうんと頷き、私は続ける。
「その名前はその体の名前でしゅかね? それともソフィアちゃんが言っていた研究馬鹿の名前でしゅかね」
チラリと偽物ソフィアを見れば、彼女は首を傾げている。
こちらのソフィアに本物のソフィアの記憶はないらしい。だが、エロ顔魔族の方にはその記憶が残っているのか、彼は息を飲んだ。
「何故…?」
ナゼと聞きますか…。
ふぅとため息を吐き、呆れる私は床をダシダシと踏む。
「本物のソフィアちゃんに聞いたからでしゅよっ。今度はこちらの質問でしゅ。チミは誰でしゅか?」
ふ…チミって…、チミって、なんだか酔いどれオヤジっぽいではありませんか。
どうでもいいところで私は微妙なショックを受けつつ、エロ顔魔族を見つめた。
彼は他の魔族のように、濁った瞳でぼんやりとしながら何やらつぶやいている。
「俺…、俺は?」
魔力干渉…は以前エロちっすで試して反応がなかったので、中にマーブル魂が入っているので間違いないと思う。となると…その魂を引きずり出さないといけないわけだけれど。
「アルシャ~ン、先代の記憶ないでしゅかぁ?」
私達の様子を見ながら警戒しているアルディスは、私に声をかけられて眉根を寄せた。
きっと何のことかと思ったのだろう。
「これの中のマーブル魂を取り出したいのでしゅ」
もちろんレイゼンの中のもだが、彼の場合はおそらく一筋縄ではいかないだろう。赤の塔の主が命がけで弾いた様な魂だ。
「・・・・先代の記憶は読めない。狂ったのが原因でバラバラになっているんだ」
「ん~、困りましゅたねぇ」
せめてレイゼンが私の千歳飴攻撃から逃れて立ち上がる前にこちらを封じてしまいたいのだが。
と、のんびり悩んでいると、突然目の前に銀のきらめきが走った。
剣だ!
ひょっと息を吸い込むと同時に、グイッと首根っこを掴まれ、ぽ~んと私は宙を舞った。
空中から見たのは、ノルディークとソフィアの戦いだ。
そして、私が空中へ飛んだことにより、千歳飴攻撃が出来なくなり、レイゼンが立ち上がる。
くそぅ、偽ソフィアめ。ちょっと胸ばいんで腰がきゅっとくびれてお尻がボインッなナイスバディだからといって、せっかくのチャンスを潰した報いは受けてもらいますよ。
と、その前に。
「誰かキャッチでしゅ~っ」
空中から腕を伸ばすと、すかさずハーンが私を抱きとめた。
「ナ~イスキャッチ。むふ」
上下逆さまだけどね。
「で、どうするんだ?」
ぐいっと体を起こされ、私は床に降ろされる。
レイゼンは起き上がり、エロ顔魔族の肩に触れて何やら囁いたので、おそらく混乱は修正されてしまったことだろう。
なかなかうまくいかないものだ。
「先に…魔族の方を助けましゅか…」
ちらっと自分達を取り囲む魔族を見れば、ずっと虚ろな目をしてゆらゆら揺れている筋肉集団。
「助けなくても問題なかろうに」
ファルグはヤル気満々だ。
「あんたの部下だろうが」
アルさんの言葉はもっともで、同意して頷くと、ファルグは目を細めた。
「敵に操られるような部下は持った覚えはない」
その辺は魔族の考え方なのだろうか? 一般的で平凡な平和主義人間としては理解に苦しむけれど。
ちらと広間の入り口を見れば、城内の魔物と戦うシャンティの姿が見える。彼女は視線に気が付いたのか、ちらっとこちらを見て手を振り、ついでに上を指さした。
さすがはシャンティさん。準備は万端ですね。
私は頷いた。
「やっちゃってクダしゃい!」
私が叫ぶと、広間の二階…楽団が隠れるはずのバルコニー部分からわっと何か小さいなものが降ってくる。
「吸い取る君10号だ! 噛むから気をつけろよ!」
バルコニーに身を乗り出し、木箱をひっくり返したのは我が悪友、そばかすオリンと筋肉アルフレッド。
実は、二人が城側で吸い取る君を準備しているということを、学園からここに来る前にシャンティから聞いていたのだ。
魂には効かずとも、魔力を抑えることができれば!
と、空から降ってくるものを見つめた私の視界に入ってきたモノは…。
「美形でしゅ」
「美形でしゅ」
「美形でしゅ」
ひたすらその言葉を話す・・・・手のひらサイズの・・・。
「シャナ?」
「美形でしゅ!」
手のひらサイズの私が降ってきた!
その口は極限まで開き、鋭い牙を覗かせ、がぽっと魔族の頭に噛みついた!
魔族の禿げ頭にミニシャナが生える!
「・・・・シュールでしゅね」
「こういっちゃなんだが、哀れだな、魔族」
ハーンも魔族達を憐れむように目を細め、アルディスがぼそりと告げた。
「あの禿げ頭に歯形が付くな」
うむ…激しいのが私の愛…。
「て、誰でしゅかー! あんな変なものを作ったのは~!」
一言物申すぞ!




