12話 疑いと暴走
シャナ妄想モード暴走します。そして一部出血あり。
苦手な方はお避け下さい。
我が君って言われた…。なんかちょっとかっこ良くないですか私~!?
にへら~っと思わず顔が崩れていくのを、はっと我に返って元に戻し、そして再びにへら~っと崩れていくを繰り返して、これではイカンと必死に眉間にしわを寄せてみた。
おかげで顔がガチガチに緊張し、手の甲から顔を上げたノルディークが思い切りドン引きした!
「あ、お気になさらじゅ」
と言っても気になるだろうけど。
「え・・と大丈夫?」
心配までされてしまったっ。
でも、その心配そうにのぞきこむお顔もなかなかにそそりますね。いっそガバリと襲いかかって「良いではないか~っ」「あ~れ~っ」と…
はっ、やばいやばい。3歳児がおかしな妄想をするところでしたっ(もうしてる)。
「あの…」
なんと! 両手がすでに彼の上着にかかっていたよ! 妄想マジック?
ひとしきりワタワタし、両手を万歳して奇異な顔で見られ、仕方なくその両手は後ろへと回しました。
気分的にはピュッピュカピュ~ッと口笛吹いてやり過ごしたいところですが、やってしまったことは仕方がないっ。
ここは必殺、話を逸らす!
「我が君って何でしゅか?」
ここはやっぱり…僕はあなたの物です。好きにしてくださいとか、そういうお姉さま(自分のこと)が大喜びしそうなことなのかしら?
むふっと思わず笑いが漏れてしまい、必死に隠します。
「君に塔の継承をした時点で、元々の塔の主は死に至るはずです」
物騒な言葉に私の心もスッと落ち着きました。
過去、この継承の儀式で命が助かった元塔の守護者というのは存在しない。それは、全ての知識と力を譲るためで、それを成した時、元塔の守護者は文字通り全ての力を失って滅び去るものなのだ。
けれど、そこは褒めて下さい。私はやりましたよ!
あの継承のすぐ後、虫の息の彼をぼこると同時に私が継承した力の一部を注ぎ込み、塔の守護者の仮の守護者、要するにパパンのような魔狼と呼ばれる超人な人々に近い人間を生み出したのです!
「ふぇんりゅりゅはわたちの一生のパートナーでしゅから、わたちのダーリンがなるのでしゅ。これは譲れましぇん。でしゅから、ノルしゃんは…う~ん…狼しゃんでしゅね」
魔狼は絶対いつか現れる私の旦那様になってもらいます。魔狼と塔の守護者は一生を共にするもののようですから。
魔狼でなくて私を守るもの、しかも使い魔とはまた違う彼のことは、狼と呼ぶことにして、愛人候補にキープしておくのです。
塔に引き籠っていたのでいかようにも私色に染められる彼は私の若紫ですからね。むふふふふ。
「命を救ってもらい、さらに力の契約も。君、いや、あなたは僕の主です。ですからわが君と」
おぉ、そういえばわが君について質問しておりましたね。
なるほど、そこは解決です。ですが、わが君呼びは照れるので変更を願い出ましょうか。
「シャナと呼んでくだしゃい。ところで、大人のしゅがたにはなれましゅか?」
全てにおいてそこが肝心です!
むふーむふーっと鼻息荒く目を輝かせて見つめると、彼はクスリとほほ笑んだ。
「大人の方が好きですか?」
「愛人にしゅるなら大人のしゅがたも確認しぇねばっ」
ぐっと拳を握ったところで、ぽかんと口を開けて驚いた顔をされました。
何か変な事言ったかな…?
・・・・・
・・・・
うあああ~! 言ったよ! 私思いっきり愛人宣言してたよ!
ざあああっと一気に青ざめました。
まだ好感度が低いうちに自ら好感度を下げるとは何事かーっ
ノルディークはそんな私を見てぷっと吹き出すと、頭を撫でてくれた。
お? 危機脱出? 子供の戯言だと思ってくれた?
「聞きたいことがあります」
「なぁに?」
すっと彼の目が細まり、一気に部屋の温度が低くなる。
美少年はすぅっとその姿を揺らがせ、その姿がぶれなくなると、そこにいたのは、白い髪に、アイスブルーの瞳の20歳前後の美青年!
その手にはいつの間にやらナイフが握られ、私の首筋にひやりと当てられていた。
が!
ただ今私、美形の愛人をロックオンしまして、ナイフなんて目に入っておりません!
「君は一体何者…ちょっっ!?」
私は首筋に当てられた刃物と質問など丸無視して、大人バージョンノルディークに腕を伸ばすと、その首に抱き着き、さっそく上着のボタンをすぱぱぱぱっと外してやりました。
3歳児にしてボタンがすばやく外せる(暴走しているときのみ)スーパーお子ちゃまなのですよ、私は。
いざっ! 筋・肉・観・賞!
ノルディークは細マッチョ系ね。お腹はかなり引き締まっていて、やはり鎖骨がキレイっっ。
吸い付きた~いっ。
ぴとっとノルディークのお肌の上に手をつくと、ぱたぱた赤い滴が垂れます。
綺麗なお肌の上に赤い滴って無粋ですね。なんですかこの赤い滴は。
ごしごしと服の袖で拭うと、ノルディークが目を丸くして私を見つめていた。驚きすぎて声もないかのように、赤い血の付いたナイフを片手にハクハクと口を開け閉めしている。
ん? 血?
そういえば先程首に違和感…と自分の首に手を触れたところで私も口をカパーッと開けて声にならない悲鳴をあげますっ。
首から血~!
「ちっちっちぬっ。3しゃいでちぬっ」
パニックでおろおろワタワタ。
私がパニックを起こしたことではっと我に返ったノルディークはナイフをすっと消すと、そのままパニックで暴れる私を抱き込み、首筋に唇を当てた。
こ、これはこれで幸せ死ぬ~!
ぷぴっと鼻血を吹き、私はそのまま彼の胸の上に、血が足りないからなのかそれとも幸せすぎてメロメロなのか、とにかくクタリと寄りかかるのだった。




