11話 ラブフラグ
「ところで、なじぇシェールがいるのでしゅか?」
現在シェールの父ヘイム公爵フリードリヒは行方不明。
お父様が探しに行ったからきっと大丈夫だと思いますが(根拠はない)、その身を案じていても兄様と同じく家を守るのが次期当主としてのあり方なのではないかと思うのだけど?
「リンスター伯が父を探しに行かれたと聞いたので来たのだ。家のことは家令に任せてある」
家令! 金持ち貴族にはそんなものまでいたのね!
だから自由に動けるわけだ。
我が家は家族オンリーなので兄様がしっかりするしかないけど。
「父…? ヘイム公爵が何処かへ?」
ノルディークが不思議そうに尋ねた。
塔の建つ国の上層部の人間の名前と顔は覚えているといったところかな? 王族の動きが気になるとかそういうことかもしれないけど。
「父を知っているのか?」
「えぇ、昔お会いしたことがあります。とても利発そうな子ど」
何を言い出すっ
油断しているノルディークの腹に私は突進。頭突きをかますと、彼はゴフッと咳き込み、私は兄様に捕獲された。
「ごめん。妹がっ」
「い、いえっ、今のは僕が間違っていたので」
ごほごほと咳き込むノルディークは少々うっかり屋さんかもしれない。所々墓穴を掘るような発言が混ざっているのに気が付かないのかね?
う~ん。これも人付き合いが少なかった弊害かもしれないなぁ。
とりあえずフォロ-がわりに現状の説明をしておく。
「ヘイムこ~しゃくは行方ふめーでしゅ。とーちゃまが迎えに行きましゅた」
「行方不明?」
ノルディークは怪訝な表情を浮かべる。
まぁ、国のもっとも王位に近かった人が行方不明なんて言う話は首を傾げたくなるのもわかる。
普通は戦争が起きてもああいう位の高い人は後ろに構えて前線に出ていったりしないものだからね。
「戦地でな。父は最前線に立たれている」
シェールの顔に暗い表情が浮かぶ。心配しているのだろう。
「シェール様。ヘイム公爵なら大丈夫です」
姉様がけな気にシェールを励まし、兄様が頷く。
ついでの確認とばかりにこちらにもシェールの視線が来たので、胸を張ってふんっと鼻息荒く答えてやりましたともっ。
「うちのとーちゃまなら必ず見つけましゅよ」
守護塔の魔法使いの守護者だからね。自信はありますともよー。
「戦争…そうか、そんなところまで飛び火してしまったんだね」
ノルディークがぽそりと告げたのは塔側の裏事情でしょう。
その辺りの記憶は掘り起こしておりません。何やらきな臭い感じがするし、なによりいやんな予感がひしひし伝わってくるので、あとで言葉で確認することにしましょう。
「その話は後にちて~、ノルしゃん。ご飯にちましゅ? お風呂にちましゅ? それともあたち~っ?」
くふくふ笑いながら尋ねます。
これぞ新婚の旦那様が聞かれたい定番のセリフ!
台詞を言うのは黒髪黒目の美少女シャナちゃんことこの私!
イイ男ならここはノリでも『私』と答えるべきところっ
顔はにっこり微笑みを浮かべながら、瞳はギラギラと輝き、ノルディークをロックオン。
さぁこい、最初の恋愛フラグっ
「じゃあ食事にしろ」
声は背後から聞こえてきました。
ばっと振り返り、私は涙目で叫んだ。
「にゃんでシェールが答えるのー!」
新婚(違うけど)のラブフラグをぽきりと折られて猛抗議をかけると、シェールはしらっとした顔で答えた。
「朝食をくってないから腹が減ったんだ。それより、食事と風呂はわかるが、なんでお前?」
ふっ・・・11歳の子供にはまだこの新婚の定番は理解できないわね。
もちろん大人な私は、意味深な視線をちらっとノルディークに向けた。しかし、ノルディークは首を傾げておりました。
くっ…通じてない…。
ベッドの上でガクリと項垂れます。
しかし、めげるのはまだ早い!
塔の住人は仙人のような生活をしてきたからきっと精神が恋愛や欲望からはかけ離れているのよ。
でも大丈夫。必ずやより良い方向に育ててあげるからっ。
発動。光源氏計画!
ぐっと拳を握って決意を固めたところで、はたと我に返った。
「しょーいえばかーちゃまはどこでしゅか?」
自分も朝ご飯を食べていないことを思い出し、ぐぐぐぐぐぅ~とお腹が鳴ったのできょろきょろと周りを見回せば、兄様が苦笑しながら私を抱き上げ頭を撫でてくれるので、いつも通りすりすりとすり寄ります。
「母様はクラウさんと一緒に町に買い物に行ったよ。すぐに帰ってくると思うけど、待てないなら簡単なものを作ってこようか」
貧乏貴族なだけあって我が家の兄様と姉様は大抵のことはやれるのだ。
私は何度も挑戦しようとしてなぜかいつも引き止められる。こう見えても一人暮らしが長いんだから(転生前は)料理ぐらいできるのに。
ちなみに得意料理は酒の肴と3分クッキング!
この3分クッキングは早業料理ってことじゃなく、実はカップ麺のこと。
お湯を入れたら3分でできるから、3分クッキング~。て、この世界にカップ麺はないか…。
カップめんを思い出していたらまたもやぐぐぅ~っと腹が鳴り、兄様と姉様が笑った。
「じゃあ何か軽いものを作るよ。シャナはここでノルディークさんが無理しないように見張り」
「おまかしぇをっ」
ベッドに降ろされた私はびしっと手を額に当てて敬礼した。だが、首を傾げられた。軍隊式敬礼は通じなかったようだ…。
「エル、僕もやってみたい」
シェールが興味津々に兄様についていき、姉様がその後ろから静かに二人の後をついていった。
・・・・・
・・・
二人きり!
きらーんっと再び目を光らせてノルディークを振り返れば、彼は真剣な表情をして私の手を取り、その甲にそっと口付けると告げた。
「命を救ってくれてありがとう。私は白の塔元守護者、ノルディーク・セレンディア。我が君に忠誠を」
おぉっ。何かイベント始まりましたよ?




