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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
始まり編
1/160

プロローグ 全てが始まった

のっけから残酷な描写ありですご注意ください。


注:基本ほのぼのマヌケファンタジーです シリアス少な目です

一日一話更新予定です

「こんな…何故…」


 白い衣に白い髪、まだ少年のような姿の彼は、目の前の光景を夢かと何度も疑いながら見まわした。


 


 それは世界に激震が走った日。


 世界を支える神の使徒と呼ばれる者の反逆の日。



 世界の何処かに(そび)え建つという不可視の塔、その守護者たる者の反逆は、他の塔の守護者にも伝えられ、見た目が少年ながら、塔の主達の中で最年長の主に最も近い年齢の彼にも当然連絡がきた。


 議会の招集がなされ、下された決断は守護者の抹殺。


 世界を支え、理を守る守護者の暴走は世界を恐怖に(おとし)める。ゆえに、早急なる処分をというのが守護塔に関わる全ての者の総意であった。


 その役目を負ったのが少年の姿である彼であり、守護塔最強の守り人である。


 彼はもう何百年も生きていた。その間奪った命は何万を超えるし、己が清廉潔白でないことも知っている。 

 だが、目の前の光景はそんな彼の目にも異常に映った。



「殺しても、足りないんだよ」


 そういって振り返ったのは赤い髪のかつての守護塔の主である青年。

 彼は、まるで涙のように返り血を顔から滴らせ、にやりと笑みを浮かべる。

 

 その足元に転がるのは戦争でも起きたのかというほどの(おびただ)しい死体の山。

 

 血の海に転がるのは、兵士や騎士など討伐の為に動いた軍隊だけではない。

 無力な子供、力ない老人や女、恐怖に顔を歪めたごく普通の町の人々。


 守護塔の守り人の守るべきものがそこに、まるで物か何かのように転がされ、虫の息でも残っていようものなら男に踏みつぶされてその命を散らしていく。

 

 ありえない光景に少年は長い人生の中で初めて本気の怒りを(あらわ)にした。




 3日3晩続いた戦いは、少年の勝利で終止符を打つことになったが、代償は大きく、守護塔の最強の守護者の命と引き換えだった。

 

 少年の命の炎は、後継者を選び抜く時間も残されずに消えようとしていたのだ。


______________


「マスター、あと少しで塔です。塔に入れば少しは回復するかもしれません」


 背の高い黒髪の男に背負われ、少年は息も絶え絶えに己の塔に戻るその目前で


 運命に出会った――――



「でっきゃい塔でしゅー」


 したったらずな声で真っ白な塔を見上げる小さな子供。

 迷子かもしれない。けれど、不可視の塔を見ることができる娘。


 他に人はいない。また、塔を見ることのできる人間を探す時間は残されていない。


 少年は賭けに出ることにした。


「…彼女に」


「マスター、しかし」


 黒髪の男を視線だけで説き伏せ、彼は苦々しげに顔を歪めて幼い少女に近づいた。

 

 少女の髪と瞳はどちらも漆黒。初めて見る色だが、魔力の高さが(うかが)える。

 少年は目をぱちくりさせる少女の前に降ろされ、膝をついた。


「けぎゃしてりゅの?」


 人懐っこく、少年の顔を覗き込んでくる愛らしい少女の頭に少年は手を伸ばし、すまなそうに微笑みを浮かべた。 


「ごめんね」


 ばちっと空気を震わす硬質な音が響き、少女が一瞬顔をしかめる。

 少年の持つ全ての知識と、塔の守護者としてあるべき全てが、少女に流し込まれているのだ。

 

 知識と知恵の量は膨大で、受け取る資格のないものは発狂し、死に至る。

 だが、時間のない少年は、どうしても後継者を残さねばならず、その重すぎる試練を3歳ほどの少女に課したのだ。

 

 死ぬだろうとわかっていて。


 それでも最後の希望を託して。



 少女は初めの一瞬だけ顔を歪めたあと、倒れ行く少年を見つめてぽつりと呟いた。


「ふりゃぐが立った?」


 


 彼女の運命の歯車が動き出した瞬間であった―――――

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