初日―Ⅱ
なんとかゴミの分別を終えた頃には、日が傾き始めていた。
途中でした洗濯は時間の関係で、洗濯機の乾燥機能で乾かした。本当は外に干して日光で乾かすのが一番いいのだが、干している暇が惜しかったからだ。その甲斐あってようやく物が雑然と置かれ整理整頓が出来ていない、程度まで環境は改善された。夕飯の用意もあるので、急いでアイロンをかけてしまわなくてはならない。淀みなく一連の作業をこなしつつ、頭では今日の献立を考えていた。常に次の行動を組み立てて行動しなくては、今回の仕事は無事に終えられないと瀬尾は確信していた。しまう段になって、クローゼットの中も整理したい衝動に駆られたが、今はそんな余裕はない。しかしいずれはやらなくてはと思った。
この様子では目が回る程忙しいと言う、彼の職場のデスクやロッカーはどうなっているのだろうか……。そんな事を考えたが、学生時代には公共性のある場所では何ら問題なかったはずだ。そう言う所からも自分を顧みず、人の心配ばかりする藤田の優しさが感じられる気がした。
そうして買い出しも終え、栄養面に抜かりない夕食を作り終えると日はとっぷりと暮れていた。暖めて食べればいい様に冷蔵庫に入れると、報告書の作成に取りかかる。今日出来る範囲で行った掃除の事、引っ越しの荷物の処遇、その他収納の整理をしたい云々を書き連ね、買い出しのレシートを添付して出来上がりだ。綺麗に整然と並ぶ文字列に不備が無いか確認し、ようやく長い一日の行程が終了した。
帰途の最中、不意に作ってきた夕食が気にかかった。
と言うのも、栄養面を考えて敢えて藤田の苦手なものも献立に組み込んだからだ。その代わり彼の好物のだし巻き卵には、特別腕によりをかけた。
(煮物の人参、残さなきゃいいけど)
もうお互いにいい大人ではあるが、一日藤田の生活に触れて学生時代とほとんど変わらないらしく少し心配になった。青臭い感じが嫌いだと言っていたのを覚えていて、その辺りに気を付けて調理したつもりではあるのだが。食卓で箸を構えたまま固まるのが容易に想像できて、小さく笑いがこぼれた。
とんでもない重労働のはずなのに、これまでの仕事より格段に楽しみや充足感を感じているのを感じる。それは労働と言う観点からすれば、良い傾向なのだろう。しかし学生時代に藤田を拒絶した事を考えると、瀬尾にはそれが許されない事の様な気もした。
こうこうと月が照らす夜道を歩きながら、瀬尾は胸が軋む様な気がした。