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臆病者の恋  作者: 苑生
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便利屋にて―Ⅰ

人もまばらな商店街を足早に歩を進める。


昨夜の決意も虚しく、結局残業をするハメになった。予定は大幅に狂い会社を出たのは八時頃。便利屋へ到着するのは、広告にあった閉店時刻の九時間際になりそうだった。

それほど大きくないアーケード型の商店街から細い路地へ入り、暗い路を進んでいく。

高校時代にこの商店街へ来た事はあったが、便利屋を見かけた記憶はついぞ無い。とは言えあれから七年は経っているから、足が遠退いていた間に出来たの可能性もある。

そんな事を考えていると、細い路地を突き当たった。

目に飛び込んできたのは廃屋と見紛うばかりの、古めかしい雑居ビル。看板らしき物も見当たらず、一抹の不安が襲う。

それでも二階の部屋に灯りを認め、意を決して足を踏入れた。

古いせいかエレベーターが付いていない様で、切れかけた蛍光灯の照らす階段を上っていく。暗闇に響く靴音が耳について落ち着かない。二階位ならば大した距離ではないはずが、やけに長く感じる。

ようやく二階へたどり着くと、立て付けの悪そうな古ぼけた扉が現れた。脇に木製の看板が立てかけられ、整った文字で『巽サービス』と書かれている。綺麗に磨かれたそれは、扉の老朽感にそぐわずちぐはぐな印象だ。

なんだか現実味の無い空間に呆気に取られながらも、緊張した面持ちで扉を叩いた。


「は~い」


力の抜けそうな間の抜けた返事に、いよいよ帰りたくなってきた。それでも、ここまで来たらもう引き下がれない。覚悟して扉が開くのを待つ。

耳障りな軋みを伴って開かれた扉の向こうには、目を見張る光景が待っていた―。

目を丸くして硬直する事数秒。直ぐに気まずい雰囲気へと変わる。睨む様な藤田の視線に、バツが悪そうに目を逸らしたのは―誰あろう瀬尾だった。

傷んだ金髪も、目付きの悪さも相変わらずで、変化を見いだす方が難しい程だ。

あれ以来、あの屋上での一件から言葉すら交わしていない相手に、どう接して良いか分からない様子だった。

それは藤田とて同じ事なのだが。


「広告を見て、依頼をしに―来ました」


こんな事なら難なく言えるのに、あの時は何故言葉が出なかったのか。考えた所で今更どうしようも無い事が一瞬頭を過る。言えていたら、何か変わっていたろうか。

ややあってぶっきらぼうにどうぞ、と中へ案内された。




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