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臆病者の恋  作者: 苑生
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先に立たぬもの

それから少しずつ、瀬尾は日常の家事の傍らで藤田の部屋を片付けていった。一週間経ち物に溢れていた空間がすっきりとして、快適な住居と呼んで差し支えない程になった。

しかし順調に来ていた片付け作業は、難局を迎えている。積まれていたダンボールに手をつけると、中には大量の書籍が入っていた。藤田は学生時代から読書家で、一度読んだものを何度も読み返す為これだけの量になったらしい。およそ瀬尾には読む気になれない題名が並び、目眩がする様な気がした。

物置と化していた大きな本棚があったのを思いだしたが、その中に全て収まるのか一抹の不安が過る。そもそもどの様な配置で収納したらいいのか、皆目検討もつかない。取り敢えずダンボール毎に、ジャンルや作者等で分けて入れられている様だ。大分骨の折れる作業になる事は必死だったが、少しずつやっていって藤田の私事を仰ぎながら進める事にした。作業効率はよろしく無いが、彼の使いやすい配置である事が大切だ。


本の処遇が決まり時計を見ると、四時になろうかと言う所だった。ダンボールをもとに戻し、急いで夕飯の支度を始める。

藤田は夕飯の感想を書いたメモを必ず冷蔵庫に張り付けていて、瀬尾の楽しみになっている。意外な事に初めに作った人参入りの煮物が好評で、また作って欲しいと言われて驚いた。知らぬ間に克服された好き嫌いに、そこはかとなく寂しさの様なもの感じてしまう。

年を経ると味覚が変わる事は珍しい事では無いし、仕方の無い事だが一つ藤田との繋がりが消えたような気がした。


(我ながら子供じみた考えだな)


ジャガイモの皮を器用に剥きながら、小さく自嘲の笑みを浮かべる。繋がりも何も、拒絶したのは瀬尾の方なのだ。寂しさや悲しみを抱く事などおこがましく感じられた。

高校時代のあの日、屋上での事は鮮明に覚えている。藤田は泣きそうな顔で俯いて、必死に言葉を紡ごうとしていた。何が言いたいのか、瀬尾にはちゃんと分かっていた。それでも彼が藤田を遠ざけたのは、他ならぬ藤田自身の為だ。勉学に秀で真面目で、大体の事はそつなくこなす優等生―自分とは違い明るい未来を約束された人間と、釣り合うはずがない。ましてや男どうし、なのだ。

藤田の気持ちを受け入られたなら、どんなにか良かったろう。しかしそれは、一番大切な人に茨の道を歩かせると言う事だ。その頃瀬尾は後ろだても、相談できるような相手もない情況だった。体一つで好いた相手を守る決意が出きる程、強くはなれはい無力な少年でしか無かったのだ。

昔を思い出しつつ黙々と作業をしながら、ゆるやかに後悔が胸を締め付ける気がした。全て過ぎた事で今さら藤田は、自分の事などなんとも思っていないだろう。だからこそ自分に依頼をしてきたのだと思った。

せめて恨んでいてくれたなら、それはつまり藤田の中で自分はまだ特別であるのではないか―。

不意に過った考えの浅ましさに、思わず目眩がした。



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