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序章

この世の中なんて…



平凡で退屈で…



ただ…同じ時間が流れていくだけだ



昨日と今日の境界線なんて存在しない



いつもと違うとするならば…君がここに存在しないだけだ…



いつもと変わらない日常。違う顔の人間を相手するだけの日々。


「……疲れた」


そう呟いて、彼はベットに倒れこんだ。時間は午前三時。彼の部屋は男らしい部屋といえば男らしい部屋だった。脱ぎ捨てられた下着に溜まっているゴミ。良くいえば生活感が溢れている、悪く言えばただ散らかっている部屋である。


「……人使いが荒いってんだよ、あの店長は……」


そう呟いた、次の瞬間には寝息を立てていた。


しばらくして。


―――人の気配がする。


目を覚まし、ベットから上体を起こして電気を点けると、妙な格好をした一組のカップルらしき男女がいた。コスプレ?をしたカップルはずっと正座して、彼を見ていた。


『おっはー!』

「……古いよ、それ」


この多重音声にイラつきながらも、さすがに眠気の方が勝ったようで彼は上体を再びベットの中に潜り込ませる。


『ひどくなーい!?』

「ひどくない。 俺は眠いんだ」


変な二人組が文句を言っても構わずにそんなことを言い放つ。その直後に聞こえてきたのは彼の寝息だけが聞こえてきた。


「あれれ? また寝ちゃったよ、天ちゃん」

「仕方ない。 ……あれをやるよ、あっくん!」

「えぇっ!いきなりあれをやるの!!」


あっくんと呼ばれた少年に天ちゃんと呼ばれた少女はそう答える。二人ともわざとらしく大声で会話した後、気配を消すように沈黙する。


―――刹那の間。


あっくんが地震だ地震だと叫びながら狭い部屋を走り回ると、天ちゃんは冷蔵庫をあけると片っ端から食料を食い漁り始めた。


「うるさいよっ!」


動きが止まる。ゆっくりと彼の方を振り向いた顔はドヤ顔だった。


「何なんだ、おまえらっ! てか、その顔止めろ!!」

『ふっふっふっ……』

「この恐怖の姿で人々を地獄へ誘うもの、悪魔!」

「この可憐な姿で人々に癒しとなごみと救いと慈愛を与えるもの、天使!」

「……人の家の冷蔵庫食べ荒らして上、食べカスを口のまわりに付けてる奴と人の安眠を妨害するために騒ぐような輩に天使と悪魔だと言われてもな、説得力無いんだよ!」

『ひどくなーい!?』

「ひどくないっ! ……それより、何で食糧を漁ってるんだお前は!!」

「そこに冷蔵庫があったから……」

「登山家じゃねぇだろうがー!!」


青年の叫びが真夜中の星空に響いた……。



散らかしていた部屋のテーブルにはコーヒーカップが三つ並んでいた。それぞれ、不機嫌な顔をしている

青年と自分の頭を抑えている自称天使と悪魔の前に置かれている。


「ちょっと、シュガーはないの?」

「ミルクもないよ……」

「我儘言うな……出してやっただけでもありがたく思え」


三人揃ってコーヒーを飲む。何だか微妙な空間。


「で、お前らは一体何なの? 新手の宗教勧誘か?」

「この格好を見てわからない? 天使と悪魔だよ」

「科学全盛の時代に天使と悪魔? 馬鹿馬鹿しい」

「でも、こうしてあなたの目の前にいるんだよ」


おかしな二人は確かに目の前にいる。しかし、どう見てもコスプレの格好。説得力のかけらもなかった。かといって、こちらに何らかの危害を与えてくる様子はなかったので、一応客としてもてなす事にした。

理由は分からない。


「って言われてもな……」

「あの……」


自称悪魔が遠慮がちに手を挙げる。その様子からどう見ても悪魔の威厳は存在しなかった。


「何だよ?」

「コーヒー、おかわり」

「……自分で入れろや」

「あっ、あっくん! 私の分も」


ちょっと落ち込んだ感じの自称悪魔にコーヒーカップを突きつける自称天使。台所へ向かう自称悪魔の背中から哀愁がただよっている。むしろ、こっちの自称天使の方が悪魔の様に思えてきた。

再び自称悪魔が姿を現すと、なみなみと注がれていたコーヒーを二つ持ってきた。


「で、あんたたちは何者? 泥棒? 泥棒なんですか? うちには金目の物はまったくないんですけど?」

「だからー、見て分かるでしょ? 天使と悪魔だよ」


軽く溜め息を吐く。


『あっ、溜め息ついた』

「ハモるなよ!」

『そんなに怒らないでよ、佑一君』

「……!?」


心臓が飛び出すかと思った。

まだ名前は明かしていない。それなのに、まるで昔の知人の様にさらっと名前を言い当てた。


「……なんで、俺の名前を知ってるんだよ」

「知っているのは名前だけじゃないよ?」

「君のこれまで経緯とかもね」


色々と天使と悪魔が佑一に色々な事を言った。そのことは何一つも間違っていなかった。

家族構成から中学、高校、そして大学の事。現在、大学を辞めてひたすらバイトをしていることを。


「……なんでそこまで……」

「言ったじゃん。 天使と悪魔だから」

「いやいや、そういう原理じゃないだろ」


こう言ってみたものの。全て当たっているからたちが悪い。どうやら、奇妙な格好をしている自称天使と悪魔の二人組は本物みたいだ。


「んで。本当に何の用だよ? こんな真夜中に押し掛けて来るって事はよほどのことなんだろうな?」


二人の雰囲気が一気に変わった。


「佑一君、君は近い将来、死ぬことになる」

「僕らはそれを助けに来た」

「……はぁ?」


あまりにも突拍子すぎる答えに佑一は言葉をなくした。


「死ぬって……俺が?」

「そうだよ。 今この場に三人の中で死ぬことが出来るのは君だけなんだよ」

「僕たち…天使や悪魔、神様は死ぬことが出来ないんだ」


―――死ぬ

その言葉は佑一に重くのしかかった。


「―――なんだから…って、聞いてるの佑一」


天使の声に我に帰った。


「あぁ……」

「何よ、その気の抜けた返事は?」

「まぁまぁ、佑一もいっぺんに言われても理解出来ないよ」


悪魔が天使をなだめる。


「えっと、もう一回説明するけど、僕たちは、今昇級試験の真っ最中なんだ」

「私達が出世するためにね」

「試験内容っていうのが、神様が作ったリストに基づいて、人間を一人でも良いから助けること」

「で、たまたま近くにいた佑一を見かけたってわけ」


まったく話が読めないわけじゃない。ただ、あまりにも唐突過ぎる話だ。


「……だいたいなぁ」


一呼吸置いて。


「何で俺が死ななきゃいけないんだ?いつ死ぬとか、お前たちは知ってるのか?」

「私達はそこまで知らないよ。ただ言える事は近い将来、佑一は死んじゃうって事だけだもん」

「それに僕達がどんな風に死んじゃうって知ってたら、試験にならないじゃん?」


言われてみるとそんな気もする。


「じゃあさ、神様……っていうのがその人が死ぬっていうのを知っているんだろ?それって『運命』ってやつじゃないのか?」


そんな話を聞いた二人はクスクスと笑う。


「何笑ってるんだよ」

「いや、 運命って信じてるんだなって」

「佑一。 運命は変えられるんだよ」


二人の言葉に疑問を持つ。


「神様言っていたよ。 運命っていうのは一つの道じゃないんだって」

「そ。 努力をしないでまわりに流されてる人が使う言葉なんだよ」

「別に運命に流される事は悪い事じゃないと思うけどね、私は」


天使がそう言うと冷めたコーヒーを飲み干した。他の二人もコーヒーを飲む。


「じゃあ、試験開始ということで!」

「おー!」


そう言うなり、二人とも佑一のベッドに潜り込む。


「おい、なんで人のベッドに潜り込んで寝ようとするかな?」

「ほら、夜更かしはお肌に悪いじゃない」

「体にも悪いし」

「そう言う事だからベッド借りるね」

『じゃあ、おやすみ』


そう言うなり、二人分の寝息がすぐに聞こえてきた。


「なんだよ、それ…」


佑一は押し入れから毛布を持ち出すとそれにくるまって眠った。

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