伯爵令嬢、次の行動を説明する
「ジュヌヴィエーヴさんが反貴族に打って出るですって!?」
マリアの声が、店内に響きわたった。
彼女の表情は驚愕と困惑、そしてほんのわずかな期待が入り混じっている。
レオノーラも同じく目を丸くしていて、私は二人に見つめられながら小さく頷いた。
──話は少しだけ遡る。
ティーツリーに戻った私は、帳面と睨み合っていた二人の隣に腰を下ろした。
散乱した伝票が視界に入るだけで、仕入れの逼迫を思い知らされる。
「やっぱり、このままだと数日で欠ける茶葉が出るわね……」
マリアは低く呟いた。
「どうにか仕入れ先を探してみよう。私たちで、ね」
そう告げると、マリアが顔を上げて問い返してきた。
「それって──サヴォワ商会での交渉は……どうなったの?」
私は迷いながらも事情を説明した。
内容をすべて包み隠さず話すのは憚られたが、二人に秘密を抱えるつもりもない。
だから、端的に要点を伝えた。
──そして、マリアの最初のあの反応へと至る。
「……そういうことなら、サヴォワ商会との取引が断たれるのも納得ね」
椅子から立ち上がりそうな勢いで声を上げていた彼女は息を整え、冷静さを取り戻すように言った。
隣でレオノーラが慌てて言葉を重ねる。
「じゃ、じゃあ、わたしも一緒に行く! エリー一人に任せられないもの」
少し前なら皮肉とも取れる物言いに、私は思わず笑ってしまった。
今は優しさと責任感から来る言葉だと分かる。
「ありがとう、レオノーラ。でも一人で背負うつもりはないから大丈夫。みんなでやっていこう」
マリアも腕を組み、少し不満げに唸ったあと、諦めたように笑みを浮かべる。
「……心配ではあるけど、あなたがそう言うなら任せるわ。ただし、無茶はしないこと。いいわね?」
「うん、わかってる」
「……大変なことになってるんですね。それでも、僕はこれまで通り協力しますよ」
私の説明を静かに聞いていたアルくんが、カウンター席の隅から口を開いた。
その言葉に、私は思わず振り返った。
「でもアルくん、今回の改正案は税率の引き上げだって含まれてる。あなたの立場なら、侯爵派に逆らってると思われて、商売がやりにくくなるかもしれないのよ」
マリアも口を挟む。
「そう。これまで本当に助けてもらったけど……アルくんの商売が阻害されるのは避けたいの。ここは私たちだけで何とかやってみせるわ」
「そうよ、アルくん」
レオノーラも頷いた。
「本当に感謝してる。でも、これ以上危ない立場に立って欲しくないの」
三人が口々に遠慮する様子に、アルくんは唇を引き結び、ほんの少し不満げに眉を寄せた。
「……こんな時に子供扱いするのはやめてください」
その声音には強い決意があった。
「仕入れは任せてください、と最初に手を差し出したのは僕なんです。今さら引き下がるつもりはありません。この商売を継続させて欲しいんですよ」
彼はほんの一瞬だけ口元を緩め、いたずらっぽく微笑んだ。
「僕も旅商人ですから。貴族が関わらないツテ、あるにはあるんですよ」
その微笑みに、私は一瞬言葉を失った。
気丈に笑みを浮かべたジュヌヴィエーヴさんの姿が脳裏をかすめる。
──やられたらやり返す、そういう気概は年齢じゃなく、商売人魂なのかもしれない。
「まったく、いい顔するわね、少年──いや、商人さん」
マリアが感心したように言った。
「エリー、頼りになる仲間じゃない? 協力、お願いしましょうよ」
「……無茶はしないようにね」
レオノーラが少し拗ねたように告げる。
さっきマリアが私に言ったのと同じ口調で。
思わず私はくすっと笑ってしまった。
皆が皆を心配して、支え合っている。
アルくんはぐっと私を見つめる。
その瞳に宿った真っ直ぐな光から目を逸らすことはできなかった。
正直、困るぐらいのキラキラした瞳。
応えたくなるのは、仕方のないことかもしれない。
「それじゃあ──お願いするわ、商人さん」
差し出した手を、アルは迷いなく掴む。
少年の手はまだ小さいのに、不思議と頼りがいのある力強さを感じさせた。
──フェイも代わりの仕入れを探すと言ってくれていた。
けれど、それを全部任せてしまったら、私はまた守られるだけの存在になってしまう。
この店を守るのは、私自身の役目だ。
そう心に言い聞かせながら、私は仲間たちと顔を見合わせ、次の行動へと踏み出す決意を固めた。




