表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢のカフェ開業計画~冷徹公爵様、貴族らしからぬ店に入り浸る~  作者: 清泪(せいな)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/55

伯爵令嬢、大工に相談する

「……あー、地下は無理だな、エリー」


 ルークさんの第一声は、まるで薪割りみたいに一刀両断だった。


 ティーツリーの定休日、私は大家のギャランさんと大工のルークさんを店の前に呼び出し、マリアと数日かけて妄想を膨らませまくった拡張案を、意気揚々と手書きのメモにまとめて披露していた。

 が、開口一番、それである。


「ほらこれ、段差をつけて階下にワインセラーっぽい空間を……っていうのが、夜の落ち着いた雰囲気にぴったりだと思って──」


「ダメ。石造りの地盤じゃ崩れちまう。地下に掘るってのは、まあ、金かけりゃできなくもないけど……そもそも土地がそれ用に作られてないし、崩れたらアンタ、今のティーツリーごと潰れるぞ?」


「……潰れるのは困るわね……」


 私は目を泳がせながらメモを捲り、次の案に切り替えた。


「じゃあ、二階の改築は……?」


「これ以上は重みに耐えられないな。これ以上増築したら、料理より先に天井が落ちてくる」


「や、やめて……想像したくない……」


 そのやりとりの最中、ギャランさんはというと、店の看板の陰で朗らかに笑いを噛み殺していた。

 咳払いを一つして、「いやぁ、いやぁ」と言いながら、口元を手で覆っているけれど、肩が小刻みに揺れている。


 「ニコニコしてる場合じゃないですよ、ギャランさん!」とつい言いたくなったが、正直、ちょっとおかしくなってきた。


「で、オープン、カフェってのはどうなんだい?」

 

 ルークさんは言い慣れない単語みたいにそう言う。

 相変わらず、カフェなどに詳しくはなってないようだ。

 

「それなら可能性あるんじゃ……?」


「強度の問題だな。軒下の柱がもたないだろ。屋根の材質にもよるけど、風が吹けばすぐにひっくり返る。あと、出入口を増やすってことは、防犯対策も必要になってくる。いくらかかると思ってんだ」


「うぅ……」


 夢と現実の間に挟まれて、私はメモを丸めたくなってきた。


「それで、だ」


 ひとしきり否定を終えたルークさんが、ぽんと手のひらを叩いた。


「エリー、このギャランさんに聞いたんだが──」


 急に話を振られたギャランさんが「え?」と瞬くが、すぐに頷いて続ける。


「建物はあんたの持ち物じゃなくて、借りてるってのは分かってるな?」


「ええ、契約書もちゃんとありますよ」


「で、その契約書に書いてある『場所の範囲』だけどな。実はこの店舗の横にある空き地も含まれてる。土地借り、って形だから」


「……あ、そういえば……!」


 そうだった。

 思い出した。

 開店前、この空き地でちょっとした菜園でもできたらいいなと考えていた。

 でも開店準備でバタバタしてるうちに、雑草の手入れすら忘れてしまって……今ではたまに草をむしるくらいだ。


「ただ、あくまで『ちょっとした』空き地だ。建物をもう一軒ってわけにはいかない」


 ルークさんが地面を指差して言う。


「10席程度、確保できりゃあいい方か……」


「十分じゃない……?」


 私にはそれすら想像がつかない。

 職人の目って、すごい。


「貸店舗の壁を壊すとかされても困ると思ってたので、横に建てるならワタシも助かります」


 ギャランさんが、あのいかにも営業スマイルという顔をしながら言う。


「この顔、もはや凝り固まって取れないんですよ」


 というのが、ギャランさんの定番ジョークらしい。

 それを聞いて笑ってくれるお客さんは少ないのだと、営業スマイルで続ける。

 私は最初のころ、そんなギャランさんがちょっと怖かった。

 でも、今では少しだけ、親しみが持てるようになった気がする。


「でだ」


 ルークさんがメモ帳を出して、簡単な図と数字を書き始める。


「別棟を建てるってなると、新店舗建てるよりは安く済むが……ただ、それでもそこそこにはなるぞ。予算、どれくらい考えてる?」


 提示された金額を見た私は、思わず息を飲んだ。

 予想よりはるかに大きい。

 ……でも。


 少しだけ黙って、それでも私は、顔を上げる。


「必要経費って、やつですね。うん……」


 この店の未来のために、必要な投資。

 そう思うことにした。


「まぁ、仲間ともしっかり相談した上で決めてくれりゃ良いと思う」


「はい、持ち帰って検討します」


 そう答えたところで、ルークさんがとんでもない一言を放った。


「ちなみに、別棟を建てるなら、通路用にこの壁に穴開けることになるんで、よろしくな」


「えっ!?」


 ギャランさんの顔がひきつる。


「な、なんですって……?」


「壁、穴あけんの? い、いやいやいやいや……」


「お、落ち着いてギャランさん!」


 慌てる大家と、それをなだめる大工。

 私はというと、頭の中で、さっき提示された金額と、壁に開けられる“穴”のサイズを想像しては、くらくらしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ