表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢のカフェ開業計画~冷徹公爵様、貴族らしからぬ店に入り浸る~  作者: 清泪(せいな)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/53

伯爵令嬢、冷徹公爵の推測を聞く

 窓際の席に差し込む夕暮れの光が、ヴィクトル公爵の横顔を淡く照らしていた。

 私はポットから湯気の立つ紅茶をカップに注ぎ終えると、説明の続きを待った。


「アルフォード家執事のウィリアムは、丁寧にエグランティーヌの味を引き出しているらしい。一般家庭で煎れる紅茶とは格が違う、と評判もいい。それに、レオノーラ嬢の給仕としての接客も、変わらず好評のようだ」


 ヴィクトル公爵はいつもの低く静かな声で話しはじめた。

 私は頷きながら耳を傾ける。

 ティーサロンの評判が悪くないのなら、どうして──


「……でも、ティーサロンがエグランティーヌを取り扱い出したのは、タイミングとして悪かった」


「タイミング……?」


 思わずオウム返しになる。

 彼は一瞬こちらに目線を流しただけで、すぐ窓の外に視線を戻す。

 まるで、その向こうに何かを見通しているかのように。


「私がお前に──いや、ティーツリーにエグランティーヌの話を持ち出すより前から、実はあの茶葉に目をつけていたのはアルでね」


 紅茶をひと口含みながら、彼の言葉を待つ。

 ほんのりとした甘みと深い香りが舌に広がり、それが不思議と話の緊張を和らげてくれる。


「アルはサヴォワ商会と、エグランティーヌの仕入れについて交渉していた。当時はまだ、あの茶葉は知る人ぞ知る過去の存在だったから、アルはその希少性を逆手に取った。生産量の少なさを“価値”として売り出す形でね。だから彼は、優先的な仕入れを求めた」


「なるほど……先に押さえてたのね」


 彼の言葉の裏にある戦略が少しずつ見えてくる。

 アルくんのような若い商人が、ただの情熱家でないことは知っていたけれど、そこまで見据えていたとは。


「そして、ちょうどそこへ私を通じてティーツリーの話が繋がる。……まぁ、それは省くとして」


 彼は軽く片眉を上げて笑った。


「つまり、今の段階ではエグランティーヌの流通の大半をアルが抑えている。ティーツリーに卸す分と、彼が計画していた街の外への販路分。残りはほんのわずかな一般販売と、他店への卸しだ。……当然、数が少なければ仕入れ値も上がる。アルを通さないとなると、かなりの高値になるだろう」


「それって……ティーサロンで出すとなると、値段が跳ね上がるってこと?」


「そういうことだ」


 私は思わず眉をひそめた。

 ティーツリーと違って、ティーサロンはもともと貴族向けの価格帯。

 高くても驚かれない……はずだったけれど。


「庶民層を意識した、と言ってティーツリーへの嫌がらせとして展開したティーサロンでエグランティーヌが思ったより高くなってしまっては、本末転倒だろう。しかも、今回はバイン商会の主導ではなく、レオノーラ嬢の独断と聞いている。破格の値段設定もできず、結果は……いまひとつ、というところだな」


「外国茶葉のイベントみたいには、引きがなかったのね」


 彼は静かに頷いた。

 言葉の端々に、レオノーラの孤軍奮闘ぶりが滲んでいる。

 きっと、あの夜の彼女の焦りは、これが原因だったのだ。


「加えて──」


 ヴィクトル公爵の声が少しだけ低くなった。

 まわりの客の耳に届かないよう、私は身を乗り出すようにして話に耳を傾ける。


「バイン商会は、もともと外国茶葉を流通させることで利益を上げていた。エグランティーヌのような地元茶葉は、彼らにとっては“邪魔”な存在だったんだ。それを……今になって、客を呼ぶために使う? 当然、内外からの反発はある。レオノーラ嬢が勝手にやったことなら、なおさらだ」


 言葉を飲む。

 エグランティーヌを売り出すことそのものは、間違いじゃなかった。

 でも、それを“誰がやるか”で意味が変わってしまう世界なのだ。


「このままでは、赤字までは行かずとも中途半端な成果で終わる。そして、バイン商会は……それを許さない。飾りとして置いた彼女が独断で動いて、成果も出せないとあれば、体面を潰されたと見るだろうな」


「……それって、レオノーラにとって、危うい立場に?」


 ヴィクトル公爵は明言しなかった。

 ただ、いつものように窓の外に目を向けて、静かに視線を落とす。

 その仕草が、肯定の代わりのように感じられた。


 私は、無意識に胸元を押さえる。

 さっきまで感じていた安堵は、また別の不安にかき消されていく。


 ──レオノーラのことも、ティーサロンの動きも、目を離してはいけない。


 そんな思いを胸に、私は静かにヴィクトル公爵に頭を下げ、また接客に戻る。

 けれど、耳の奥ではまだ、彼の最後の言葉がじんわりと残響していた。


「体面を潰されたと見れば、誰もが……許しはしない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ