伯爵令嬢、カフェのメニューを考える
「さて、そろそろメニューを決めなきゃね!」
市場で買い揃えた調理器具や家具を店に運び込み、ようやく形になってきた頃、ミリアムさんがそう言い出した。
「お店の看板メニューを決めるのは、とっても大事よ。エリーはどんなものを出したいの?」
私は少し考え、それから静かに答えた。
「……紅茶をメインにしたいです」
「やっぱりね! エリー、あなた紅茶を淹れる時すごく楽しそうだもの!」
ミリアムさんがにっこり笑う。
私は紅茶を淹れるのが好きだった。
それは貴族時代の茶会で覚えた習慣だったが、パン屋で働くうちに、『お客様に喜んでもらう』ための楽しみへと変わっていった。
「じゃあ、いくつか試してみましょ! 実際に淹れてみて、一番合うものを選ぶのよ!」
こうして、私はさっそく試作を始めた。
カフェのカウンターに並ぶ、さまざまな種類の茶葉。
王都の貴族が愛する高級なものから、市場で仕入れた庶民的なものまで、多種多様だ。
「紅茶は、その日の気分で楽しむもの。だからこそ、基本となるメニューをしっかり決めなくちゃ……」
私はティーポットに湯を注ぎながら呟く。
「何種類くらい考えてるの?」
「うーん……三種類くらいかな?」
「なら、基本のストレートティーと、ミルクティー、それから変わり種があるといいかもね!」
ミリアムさんのアドバイスを受けながら、私は何種類か試作を作った。
まずは、香り高いダージリン。
次に、濃厚なアッサムでミルクティー。
そして最後に──
「これは……?」
「ハーブティーです!」
市場で見つけた乾燥ラベンダーとカモミールをブレンドし、ほんの少し蜂蜜を加えたもの。
「おぉ、これは……飲みやすいな」
試飲していたオスカーさんが、珍しく感心したように呟いた。
「お嬢、いやエリー、お前は何だか貴族どもが好みそうなものしか作れないと思ってたが、こういうのも作れるんだな」
「そりゃあ、パン屋で働いて色々学びましたから!」
私は胸を張る。
「いいんじゃない? これなら、貴族の人も庶民の人も楽しめそう!」
ミリアムさんがにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、看板メニューはこの三種類ね! あとは、お茶に合うお菓子が必要よ!」
「お菓子……!」
私は新たな課題に気づき、考え込んだ。
「エリー、焼き菓子ならうちの店でも出してるでしょ?」
ミリアムさんがにっこりと笑いながら言う。
「……たしかに!」
パン屋では、パンの他にもシンプルなクッキーやスコーンを売っていた。
「オスカーさん、もしよければ、スコーンをカフェで提供させてもらえませんか?」
「……へぇ、お前がうちのスコーンを使うってのか」
オスカーさんは腕を組み、少し考える素振りを見せた。
「うちのスコーンは、バターたっぷりでコクがある。紅茶には合うだろうな……」
「はい! それに、うちの店でしか買えない特製ジャムを添えれば、オリジナルメニューになります!」
私は興奮気味に言った。
「特製ジャム?」
「はい! 市場で売っていたベリーを使って、手作りのジャムを作ろうと思うんです!」
「ふむ……まあ、悪くねぇな」
オスカーさんはふっと鼻を鳴らした。
「なら、うちのスコーンを特別価格で卸してやる。ただし、お前のカフェの味に合うように、自分で工夫するんだな」
「はい!」
こうして、スコーンとジャムがカフェのメニューに加わることになった。




