伯爵令嬢、新しい仲間を迎える
メアリとノアがティーツリーにやって来てからの数日間は、慌ただしくもあたたかな時間だった。
二人の持ち物といえば、擦り切れた鞄とくたびれた上着くらいしかない。
だからまずは、日々の生活に必要なものを揃えるところから始まった。
衣類や下着は街の仕立て屋で買い揃え、タオルや石鹸は日用品店で。
小さなノアが自分で選んだ、リスの絵が描かれた青いマグカップを握りしめて笑っている姿が、なんとも言えず微笑ましかった。
メアリとノアを紹介するために、私は二人を連れてパン屋のオスカーさんとミリアムさんのもとを訪ねた。
いつも助けてくれる二人は、快く迎えてくれて、焼きたてのクロワッサンと少し甘いパンをお土産に持たせてくれた。
「無理はしないこと。とくにノアちゃんはね」
ミリアムさんがそっと耳打ちしてくれたとき、私は胸がじんとした。
そして、二階の寝床も準備が必要だった。
さすがに布団を並べるだけでは寝苦しかろうと、大工のルークさんに子供用ベッドを依頼することにした。
以前、店の看板を作ってもらった時にデザインに興味を持ったらしく、象っぽい何かとライオンっぽい何かが描かれていた。
デザインは……勉強中らしい。
そうして、迎えた数日後。
いよいよ、メアリとノアがティーツリーで働きはじめる日がやってきた。
とはいっても、いきなり接客は難しいし、マリアの提案もあって、厨房の裏で皿洗いを手伝ってもらうことになった。
「街の外から来た子供が働いてるって、変な噂になるかもしれないでしょう? あの放蕩貴族が、またどこからともなく現れて尾ひれつけて喋り倒すに決まってるわよ」
マリアの言う『放蕩貴族』とは、レオポルド・ド・グレイのことだ。
ヴィクトル公爵が彼のことをそう呼んでいると知って、その呼び方が気に入ったらしい。
噂好きで、口は軽く、話を膨らませるのが得意――悪い意味で。
「でも、隠してるみたいで……なんだか、嫌だわ」
「わかってる。でも、今は静かに慣れてもらうほうがきっと安全。ね?」
マリアはそう言って私の肩にそっと手を置いた。
私が口ごもっていると、メアリがすっと顔を上げた。
「大丈夫です、わたし。お皿洗い、頑張ります。ね、ノア」
ノアもこくんと頷いて、ちいさな手をぎゅっと握った。
「ありがとう。じゃあ、まずは半日からね」
厨房に立つメアリとノアは、思っていた以上に手際がよかった。
ノアは小さな背にエプロンが少し大きすぎたけれど、それもまた愛らしかったし、メアリはスポンジを持つ手に力を込めて、真剣な表情で洗い物に向き合っていた。
「お皿、ぴかぴかになったよ!」
ノアが見せてくれたお皿は本当にきれいで、思わず拍手したくなるほどだった。
その間、マリアと私は以前のように、ゆっくりとお客様の相手をする時間が持てた。
お茶の香りやケーキの甘さを楽しみに来てくれる常連のご婦人方と世間話をし、時には注文の紅茶の好みを一緒に考える。
そんな些細な余裕が、こんなにもありがたいとは。
厨房の裏から、ノアの笑い声がふわりと聞こえてくる。
私はマリアと目を合わせて、そっと笑った。
ティーツリーに、新しいリズムが生まれようとしていた。




