表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ちょっと寒いお話

《ちょっと寒いお話シリーズ》初めてのキス

俺には彼女がいる。

正確には、最近できたばかりだ。


初めて出会ったのは、雨の日だった。

帰り道、アパートの前で、ずぶ濡れのまま座り込んでいた女の子。

最初は声なんてかけられなかった。ただ通りすぎて、部屋でスマホをいじって……けど、どうにも気になって、もう一度見に行った。


彼女はいなかった。


――良かった。帰ったのかな。


そう思って部屋に戻ると、背後に気配。

振り返ると、玄関の前に、さっきの彼女が立っていた。

真っ白な肌。真っ白なワンピース。

濡れた髪が、ぴたりと頬に張りついている。


「……うち、来る?」


彼女は、ほんの少しだけ頷いた。


シャワーの後、タオルを渡し、シャツを貸して、ベッドも使っていいと言った。

俺はソファで寝ることにした。


――知らない女の子を部屋に泊めるなんて、生まれて初めてだった。


彼女は部屋でぼんやりテレビを見てる。俺もシャワーを浴びることにした。

ついニヤけていた俺は、冷たい水に触れて飛び上がった。


「おいおい、あの子、水で浴びたのかよ……風邪ひくぞ」


部屋に戻りベッドを覗くと、彼女はすやすやと眠っていた。

案外かわいい子だな、なんて思いながら、俺もソファに横になる。


少し落ち着かなかったけど、しばらくして眠りに落ちた。



翌朝、トントン、と扉を叩く音で目が覚めた。


「あの、お礼に朝食を……」


用意されていたのは、卵焼きと味噌汁と白いご飯。

まるで恋人みたいだ、なんて思いながら箸を取ったが――


味噌汁、うすっ……

卵焼きには、醤油をかけ忘れていた。


(塩分、苦手なのかな)


それから彼女は雨の日だけ、ふらりと部屋に現れるようになった。

ちょっと変わった子だけど、いい子だ。


基本無口。

いつも、ずぶ濡れで水のシャワーを浴びて、俺のシャツを着て寝る。


そろそろ名前とか、学校とか、聞いてもいいかな――

そんなことを考えていたある日。


「いたっ!」


台所から声がして、駆け寄ると、彼女が腕を押さえてしゃがみ込んでいた。

床には、こぼれた塩。


「大丈夫?」


「……うん、大丈夫」



夜になり、電気を消すと、彼女がそっと近づいてきた。


「ねぇ……付き合ってるんだよね、私たち……」


「え? う、うん、もちろん」


「……こんなだけど……」


彼女はそっと腕を見せた。

そこだけ肌が、茶色く、細く、しなしなに萎んでいた。


(うわっ……これ、やけど?

 でも、そんなの気にしない。

 だって、彼女は彼女だから)


「その腕、大丈夫なの?」


彼女は微笑んだ。


「うん。また雨が降れば……元通りだから」


「……?」


彼女はさらに近づく。四つん這いで、床を這うように近づいた。

シャツから覗く白い素肌がぬめぬめとしていて――


ごくり。


俺は思わず唾を飲んだ。


そして、彼女の少し震える手が俺の胸元にかかった。


手が冷たい。


考えてみたら彼女のこと、何も知らない。

でも、その震える小さな手――すごく愛おしい、と思った。


「キス……しよ?」


そう言うと、目を細めて唇を近づけてくるその顔は、濡れて艶めいて、美しかった。


次の瞬間、俺は凍りついた。


ぬるりと、唇をなめた彼女の舌は――


真っ白で。


まるで――


なめくじだった。

※最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 いろんな意味で「さむっ」と思っていただけたら、

 ぜひ評価・ブクマ・感想などで震えを分けていただけたら嬉しいです(=^・^=)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ