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36 逃げるウサギと追う狂犬

 死を覚悟して目を瞑ったが、痛みは中々訪れない。代わりに荒い呼吸音が響き、恐る恐る瞳を開ける。


「チャチャっ!」


 首の皮一枚のところでチャチャがロカの短剣を受け止めていた。


「……どけよ。お前から殺すぞ、チャチャ。」

「…………。」


 ドスの聞いたロカの声に対し、チャチャは一歩も引かない。喋れなくてもそれが彼の意思なのだと分かるほどに。


「チッチ、立って!!」

「うぁっ!」


 男二人の戦いの隙間からネムが走り込んで来て、腕を掴まれ、そのまま扉付近まで走るように急かされる。


「ま、待ってくれ。チャチャがっ!」

「私達二人が居たら戦いにくいでしょ。それに武器がない。ロカを止めるにしたって、今の格好じゃ無理。それよりも逃げる方が優先。急いで。」


 焦るネムの正論に後ろを振り返るとチャチャが頷いていた。こんな時までみんなに守られるだけなんて、本当に嫌になる。


「チャチャ、武器探してくるから!」


 歯を食い縛り、なんとかロカの攻撃を凌いでいる兄の背中に声を掛け、部屋を出た。


「…………ッ。なによ、これ。」


 一歩部屋から出ると、血の海が広がっていた。

 従業員、奴隷、生命があった者たちの死骸が幾つも転がっている。息は、ない。皆殺しだ。


「全部、ロカの仕業なの……?」

「信じたくないが、そうだな。殺しにあいつの手癖が出てる。ロカの奴、相当キレてるぜ。」


 あたいもここまで狂ったロカを見るのは初めてだ。ネムが傷を作る事がこれほど地雷になるなんて、想定外だ。

 

「チッチ、私はまだ生きてる人が居ないか見て来る。このままじゃ、減っていた借金が増えちゃう……。もうめちゃくちゃよっ!!」


 血と臓物の匂いが充満する廊下で、真っ先に借金の心配をするネムも相当イカれて来ている。

 少し前まで死体を見るだけで顔を顰めていた娘はもう居ないのだな、と思い知らされた。


「あたいは武器庫に行きたい。」

「じゃあここからは二手に別れましょう。殺されないでよね。」

「…………肝に銘じるよ。」


 ネムから武器庫の場所を教えて貰い、二人は別々の道を走り出した。


 兄の無事を祈りながら迷路のように入り組んだ道を行く。途中、走りにくいヒールは投げ捨てた。石畳になっている廊下は幸い裸足でも痛くない。ただ、着ているこのドレスが邪魔だ。


 床を踏むたびにふわふわと舞うドレスの裾にイライラが募り、金輪際スカートなんて履かないと決意した。


「…………あった、武器庫だっ!」


 そんな事を思っていると無事に武器庫まで辿り着けた。

 建物の裏口からすぐのところにあり、誰かがロカの襲撃で武器を取ろうとしたのだろう。錠前が開いた状態になっていた。


 駆け込んだ部屋の中にはぎっしりと武器が保管されていた。


「よし……、これだけあれば。」


 どうやらこの部屋には、拉致して来た人間から押収した武器も集められているようで、チッチの愛用していた二本の短剣も見つかった。


 ホルダーに差し、持てるだけの武器を手にして部屋を出た時、建物の裏口の扉が開いた。


「おいおい、嘘だろ……。」


 最悪なタイミングで裏口から入って来たのはノール・レイドワーフとその執事デグだった。執事がアタッシュケースを二つ抱えているのを見ると、この建物の中で起こっている惨劇を知らないのだろう。


「なにをしている?」

 

 怪訝そうな顔でこちらを睨むノール。


(今はこいつの相手をしてる場合じゃねぇのにっ!)


「おい、あんた。死にたくなけりゃあ今すぐにここを出て行きな。」


 ロカに見つかれば最初に殺されるのはノールだ。親切心で伝えてやったのだが、ノールに伝わる筈もなくため息を吐くばかり。


「支配人とあの女に任せた俺が馬鹿だった。」


 嘆くノールがぐんぐんと近づいてきて、武器を抱える両腕を捕まえた。強い力に持っていた武器は全て床に落ちてしまう。


「どけよ、あたいは急いでんだよっ!」


 暴れてみるがやはりびくともしない。ノールの意思も変わらない。


「ドレスの出来は良いな。これなら及第点をくれてやる。我が家の専属にしてやってもいい出来だ。」


 話の噛み合わないノールと悠長にここにいる時間はないんだよ。あたいはチャチャに武器を届けないといけないのにっ!


 両腕を掴まれてしまっては勝ち目がない。

 なんとかして距離をとらないと。


 ――ドガァァアン!!


 焦りが効果音になったのかと思うぐらい大きな音と爆風が後ろで鳴った。


 慌てて振り返ると隣の壁が割れ、ロカがチャチャに馬乗りの状態で姿を現した。


「…………一体何が起きているんだ?」


 これには流石のノールも困惑と疑問を口にした。


(これは、まずい。ロカが気づく前に……。)


「あんた、早く逃げろ。まだ間に合うっ!」

「…………どう言う事だ?」


 このままではノールが殺される。正直、この男の安否なんてどうでもいい。だが、ネムが借金増やしたくなさそうだったから。依頼のない貴族を殺せばそれなりの額のペナルティになる。ロカだってタダじゃ済まない。


「急げ! 裏口まで、早くっ!!」

「しっかりと説明を……。」


 現状を把握していないノールに苛立ちを感じているとロカのその赤い瞳がこちらを向いた。


 ノールとロカの視線が、重なる……。

 

「お前かっ! ネムを傷物にしたクソ野郎はぁぁあ!?」

 

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