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04 文字通り、命がけの芝居

「命令はしない。」


 言い捨てたネムは放っていたメイド帽子とメガネを付け直す。次に死体の山へ。家主と第一執事を山の中に押し込んで側からは見えない様に細工した。


 その手つきに迷いはなく、手につく血液や細切れ肉もお構いなし。最後にガードマンが持っていたロカのと同じぐらいの短剣を手にするとホルダーごと背中に刺した。


「なんで。俺が殺してくるって言ってるのに!」


 後ろでロカがキャンキャン鳴く。


「ネムじゃ無理じゃん。死んじゃうじゃん!」


 焦るロカが言い終わると同時に彼の左頬を短剣が掠った。ネムが投げたのだ。


「短剣の使い方は覚えたわ。」

「…………いつ?」


 投げた短剣は見事に壁に突き刺さり、左頬から垂れる自分の血を手で拭き取りながらロカがギロリとこちらを睨んだ。

 

「ロカが沢山見せてくれたんじゃない。ありがと。」


 ネムにロカの威嚇なんてもう効かない。お返しと言わんばかりに笑顔を振り撒く。


「私があんたの全部を使ってあげる。これはあんたの武器は私が全部使うって意味。あんた自身を使う気なんて毛頭ないわ。」

「……。」


 更に「もう帰っていいよ」と手を振ると、ロカは背筋を震わせた。


「俺。今、過去一番に興奮してる!」


 ネムはロカに背を向けて無言で屋敷の扉へ歩き出す。


「こんなにゾワゾワしたの初めてだ。どうしよう!」


 走って着いてきては横並び。ロカの声はどんどん大きくなる。


「俺ぁバクバクでバンってなってて、ズドドって!」

「……うるさい。」

「だって、ババババって! ドンってするんだ!」

「黙って。」

「飼って!」

「…………。」


 この男は中々にしつこい。

 

 ――だか、使ってやるのは悪くない。

 

「飼って!!」

「いいよ。」


 ネムはピタッと足を止め、ロカにしゃがむように指示する。


「でも、ちゃんと言うこと聞けないとダメ。」

「分かった! 外の奴らは俺が殺してやる。」


 駆け出しそうなロカの顔の前にネムは犬に『待て』を強要するように自身の手をかざした。

 

「ダメよ。」

「なんでぇ?」

「殺すなんてもったいないじゃない!」


 見下す視線。振り下ろす指先。

 笑う女はこの状況を楽しんでいるらしい。


「殺したらもうお金盗めないもの。」


 ロカに合わせてしゃがんだネムはとてもイキイキしていた。

 

「殺して身包み剥ぐのは?」

「欲しいのはそんなちんけな額じゃない。」

「ちんけ? ちんち? ちんちん欲しいのか?」

「この馬鹿犬。」


 ロカのおでこに強烈なデコピンを喰らわすも本人は全く表情を変えない。むしろ顔をしかめたのはネムだった。

 

「あんた頭まで石かよ。こっちの指が痛いわ。」

「なぁ、俺ぁ殺ししか出来ねぇーよ。」

「だろうな。頭悪そうだし。」


 目に見えて落ち込むロカを背に立ち上がったネムは「これでじゃあ飼ってあげられないなぁ」と呟いてみせる。そうして誘導するのだ。


「俺ぁなにすればいい? どうしたらいい?」


 その言葉が欲しかった。

 嫌々ではなく、自分からやらなくてはならないと思い込ませる為に。


 飴と鞭は使いよう。

 優しく頭を撫でるとロカは少し驚いて、こちらを見た。

 

「じゃあ、ネズミになって?」


 あんたの使い道はそのぐらいだよ。

 なんて、まだ知らなくていい。

 


 ◼️⬜︎◼️⬜︎



「最終警告だ。ニーダ、扉を開けろ。」


 野太い男の声が辺りに響く。

 辺りといってもこの屋敷はウロボロンでも端の高台に位置しており、周りにはなにもない。あるのは道を照らすカラフルなネオンサインのみ。一日中騒音響くウロボロンでここまで静寂を持て余している場所はあまりない。

 

 つまり、この家主はそれだけの土地を所有する相当な金持ちだと分かる。

 

 彼に敬意を払い扉を開かれるのを待つヒューズファミリーのボス、サルザ・ヒューズだったが、流石に我慢の限界だ。部下に武器を構えるよう指示を出したちょうどその時、ギィと音を立てて錆びた扉が少し開かれた。


「お待たせ致しました。」


 出てきたのは、血まみれのメイドが一人。


「どうぞお入り下さい。」


 ムワッと香る腐臭。

 完全に開かれた扉の奥、エントランスに積み上がった死体の山。ヒューズファミリーが咄嗟に構えた武器の引き金に指をかけた。


「今宵、交渉役兼しんがりを務めます。ネムです。よろしくお願い致します。」


 そう言うと深く礼をした。

 動揺するファミリーに武器を下ろすよう命令するサルザは一歩前に出て二本目の葉巻に火をつける。流石はマフィンのボス。なんの躊躇いも見せない。


「これは、全部お前がやったのか?」


 サルザの問いにネムは笑みを浮かべて頭を傾げた。


「こりゃあ驚いた。女は色を売るかスリで小金を稼ぐしか能がねぇと思っていたが、ここまでやれる奴がいるとは。新しいシマはこうでなきゃ面白くない。」


 サルザが「そう思うだろ」とファミリー連中に問いを投げると同調と笑い声が上がった。が束の間、「それで」とサルザが口を開くとすぐに辺りは静寂に包まれ、緊張の糸が張り巡る。


「てめぇが俺らファミリーをたった一人でヤるって言うのかい?」


 鋭い眼光。葉巻が赤を灯す。

 発せられる強烈な覇気は幾つもの修羅場を潜って来たことを意味する。周りのファミリー連中でさえ、唾を飲み込むほど。それでもネムは微動だにしない。

 

「交渉が纏まらなければ、最善を尽くします。」

「交渉は手札がある奴がするもんだ。あんたはもうなにも持っちゃいないだろ。」


 家主のニーダはおらず、屋敷の使用人は全滅。幾ら腕が立つと言ってもマフィア相手では分が悪い。交渉するまでもないのだ。


「残念だが、ニーダが居ないなら話にならねぇ。あんたに用はない。殺せ。」


 サルザは隣に立つ部下に命令すると銃口がネムを向いた。


 ――チャンスは一瞬。最初にかませ!


 脳内にはさっきの惨状が焼きついている。

 ロカの瞳、腕、短剣の角度。


 引き金が引かれた一瞬、ネムが背中にあった短剣を取り出し走り出した。


 ――今、ここ、この一瞬。賭けろ!!


 私の命なんて吹けば飛ぶ。だったら賭けてやるよ。

 ここが正念場だ。


「ぎゃーーーー!!」


 返り血はサルザにまで飛んだ。

 叫んだのは引き金を引いた部下の方で、銃を持った腕は鈍い音を立てて地面に転がる。


 ――…………勝った。

 

 ネムが切ったのだ。引き金を引いた一瞬に。

 ロカの動きを模倣したネムが弾丸に勝利した。

 

 ただ、解像度がかなり低い。

 ロカなら完璧に交わしていただろう銃弾は左耳の少し上を掠った。おかげでメイド帽子が落ち、赤い髪が宙を舞う。


 人を切った感覚が遅れてやって来た。

 震える手、脚をなんとか抑え込む。

 これでもう、戻れない。

 

 ――上等だよ、クソ野郎が!!!


 頬についた返り血を腕で拭い払った。

 黄金の瞳は更に輝きを増す。


「ありますよ。手札。」


 熱くなる身体と心とは裏腹に表情だけは冷静で。

 冷たく、感情もない、人を殺すのに躊躇いのないロカという男を模倣した。


「…………なん、だと?」

「ニーダ様の居場所、それからネズミを少々。」


 短剣についた血を払い、背中のホルダーに直した。

 地面には腕を失った部下が自身の血だまりで、のたうち回っている。

 

「お前、ヒューズファミリーに手を出してタダで済むと思ってるのか!?」


 周りのファミリー連中が武器を構え叫ぶが、まるで子犬が狼に虚勢を張っているようで笑えた。

 

「言いましたよ、私。しんがりも務めると。こっちは最初から命かけてんだよ。」


 ネムの威嚇は狼を超え、サルザを睨む。

 一人でもお前の首を噛み切るぞ、と目は口以上に訴えていた。


「クフフ、クハハハハ!」


 急に笑い声を上げたサルザは持っていた葉巻を捨て、落ちた腕に握られた拳銃を取り上げた。

 

「…………なにか、おかしいでしょうか?」

「いや、なにもおかしくない。」


 銃口はネムを通り過ぎ、未だ地面でもがき苦しむ部下に向いた。次の瞬間、ドンッと鈍い音が辺りに響く。

 

「俺は何かに命を掛けれる奴は嫌いじゃない。むしろ好きな部類さ。最近の奴は淡白でいけねぇ。」


 頭を撃ち抜かれた部下は即死。

 血は更に広がりネムの足元まで達した。


「良いぜ、乗ってやる。」


 転がった死体はそのままにサルザは部下を三人指名し、残りは屋敷の外での待機を命じた。

 

「客室へどうぞ。案内いたします。」

 

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