【読み切り】 ワイルドデー?
ホワイトデー企画です!
気軽に読んで下さい〜(〃ω〃)
「ちょいと、シロアカもといロカさんやい。」
誰もいないカイブタのカウンター越し、ハオに話かけられた。どうせ碌でもない会話だろうと無視して部屋へ帰ろうと「ネムちゃんの事なんだけどね」と言われ、仕方なく立ち止まった。
「……なんだよ。俺ぁ腹減ってるから短くしろ。」
「そんな怖い顔しなさんな。お返しは準備したのか聞きたかっただけさね。」
「…………お返し?」
なんのことかさっぱりだ。
そんな俺を見てハオは嘘臭く驚いたふりをする。
「ええっ!!? お返しの準備してないのかい!?」
「だからなんだよそのお返しって!」
いちいち機嫌を逆撫でする方法を取ってくるハオのこーゆーところっていうか全部が嫌いだ。
「バレンタインのお返しさ。ネムちゃんにプレゼント貰ったろ?」
「なにも貰ってない。激クソゲロまずのやつ食わされただけだ。」
思い出しただけでも吐きそう……。
あれは殺しに使う薬物かなにかだろ。訓練受けれる俺だからゲロっただけで終わったんだ。チャチャなんてチッチの分も食べて二日寝込んでたぞ。
あれがプレゼントのはずない。
「それだね。貰ってるね。不味かったけども。」
「…………あれ、プレゼントだったのか?」
「ネムちゃんの料理センスがなかっただけで愛情はたっぷり入ってたでしょーが。」
あれがプレゼントだって言うのはこいつの嘘だ。
紙の方がまだ上手いぞ。
ありえねぇ。絶対にネムの新しい武器だろ!
「愛情なんて味、俺ぁ知らねぇな。どうせハオの妄言だろ? 付き合ってらんねぇわ、もう行く。」
「ちょいちょいお待ちよっ!」
「まだなんかあんのかよ。」
今日はやけに食い下がるな。
俺ぁ早く部屋に帰って飯食いてぇのに。
「ほら、クッキーあげるから話を聞いとくれ。」
手渡されたのは片手がすっぽり隠れるぐらい大きなクッキーだった。臭いからして毒は入ってなさそう。黒い粒々から甘く美味しそうな臭いがした。
「ロカって案外甘いの好きでしょ。それ全部あげる。」
腹が食べたいって言ってる。
だが、相手はハオ。
こいつが出すタダほど裏があるものはない。
俺ぁ知ってるんだ。
「請求はネムちゃんにつけとくよ。」
「分かった。食べる。」
口いっぱいに広がる甘ったるい食感。
上手い。ネムも好きそうな味をしてる。
ネムと会うまでは甘い物を好んで食べようと思わなかった。だけどネムと都市を歩くと必ずと言っていいほど買い食いするもんだから俺も食べるようになった。
と言ってもネムが食べるのは最初のひとくちだけ。
あとは俺が全部食べるがお決まりのパターンだ。理由を聞いたら「味が知りたかっただけ」らしい。
「それでお返しだけど、ホワイトデーは男が貰った物の三倍良い物を女にあげる日だよ。」
三倍……、三倍かぁー…………。
「俺ぁクソゲロまずのなんかをネムに渡せば良いのか?」
「違う違うっ! そんなことしたらネムちゃん怒るよ!」
なにが違うのかさっぱり分からん。
ハオが言い出したのになんでそんなに焦ってるのかも意味が分からん。
「だろうな。ネムはマズイもん嫌いだ。俺も嫌いだ。」
「みんな嫌いだよっ! じゃなくて、とにかくなんかプレゼントしなよって言いたかったわけさ。」
プレゼント……。
俺がネムに渡せるもん?
「…………さっき拾った短剣かタバコしかねぇな。」
「ああぁぁーーー。僕が間違ってた。今の所持金は?」
「十セリル。」
ポケットの中に手を突っ込んで出てきたの一枚の硬貨だけ。その現状にまたもやハオが大きなため息を吐いた。
「ロカって、そう言うとこがモテない原因だよね。」
「うるせぇ。俺ぁハオみたいにハレンチじゃねぇんだ!」
「はいはい。」
「ったく、めんどくせぇー。」
イライラしながらクッキーを頬張る。
「あっ、良いのがある。」
「本当に良い物かい? 一応聞いておくよ。」
「これ。」
ロカは自分が食べているクッキーに視線を落とした。所々にロカの歯形がくっきり残った拳ぐらい小さくなったクッキー。
「ちょっと!! そんな食べかけあげるつもり!?」
「これでいいだろ。渡してくる。」
「えっ! ちょっと!?」
ハオの制止を無視し、部屋へ直行した。
「ただー。」
扉を開けて叫ぶと部屋の奥から「おか〜。」と返事が返ってきた。ネムの声だ。
最近、「ただいま」と「おかえり」を全部言うのに飽きてどんどん省略されつつあるこの合言葉。この前のネムなんて「だっ!」しか言ってなかった。
真似して「りー」と言ったらちゃんと「おかえり」って言ってと怒られたのは今だに腑に落ちていない。
「ネム、これやる。」
「なにこれ。食べかけのクッキーとか欲しくないけど。」
怪訝そうに眉を寄せて顔を歪める。
これは本当に欲しくない時のネムの顔だ。
「なんだっけ? ハオが言ってた。お返しだ。」
「…………なんのお返しよ。嫌がらせの間違いでしょ。」
「なんとかってやつだ。」
「なに一つ伝わらないんだけど。」
「えぇーと…………。」
ハオはなんて言ってたけ?
なんかの日のお返しなんだよ。
バカレイデー?
ワイディングデー?
なんか違うなー……。
「あっ、思い出した。」
「なに?」
「ワイルドデーだっ!」
「マジでなにそれ。確かに食べ方はワイルドだけど。」
「三倍の良いもんだ。食ってみ?」
不機嫌なネムにクッキーを差し出す。
「なんの三倍よ。全部意味わかんない。」
「いいからっ! ほら、食って!!」
「えぇー……。じゃあ、ひとくちだけ……。」
近づいて来たネムに手渡そうとしたら顔が近づいてきた。ふわっと香るネムの匂いはクッキーより甘い。
恐らくさっきまで寝ていたんだろう。
頬に跡がついてきた。そんな頬と口が俺の手元に近づいて啄むようにクッキーを食べた。
(あ、口元にクッキーのカス付いた。)
そう思ったのと同時ぐらいにネムが自身の舌を器用に使ってクッキーのカスを舐めとった。
「うーーん……。美味しいけどなんかネタネタしてるって、なんでロカがそんな真っ赤な顔してんの!?」
「し、してねぇよっ!! 残りは俺が食べるかんな!」
ロカは咄嗟にネムと距離を取って食べかけのクッキーに視線を落とした。ネムがかじった部分を見て更に顔が赤く染まったのは言うまでのない。
「はいはい、どうぞ。ワイルドに食べといて。」
「ワイルドな食べ方ってなんだよ!?」
「私が知るわけないでしょうがっ!!」
こうしてネムとロカの初めてのホワイトデー改め、ワイルドデー?は幕を閉じた……。
「そう言えば腹ぁ減った。チャチャとこ行こーぜ。」
「今日は私が晩御飯作っておいたわよ。感謝なさい!」
「ぇ…………。」