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27 デート!?

「デートってなんだぁ?」


 事の重大さに気づいていないお子ちゃまロカにハオが近づく。なにやら耳打ちをする。


 ロカの顔がどんどん紅くなる。

 ハオの口角がどんどん上がる。


 絶対にハオが余計な事まで吹き込んでるな。


「な、なななななっ!?」

「ロカ、落ち着け。」

「ななななん、だと、ハレンチが過ぎる!!」

「多分ハオさんの言ってる事は八割嘘だから。」


 隣で酷いと嘘泣きをするハオ。

 話なんて一欠片も聞いちゃいないロカ。

 

「……ぜってぇ許さねぇ。」


 殺意剥き出し。チャチャが危ない。

 瞬間的にロカの手を取った。

 

「ハレンチするなら俺の前でしよぉぉぉおお!!」

「うわっ!」


 急に怒鳴り声を上げたロカがチッチを小脇に抱えて、そのままカイブタの扉を蹴破り、勢いよく走り出した。


 物凄いスピードでカイブタが小さくなる中、ハオが「こりゃ修繕費……」となにやら呟いていた。


 ――ネム、まぁ、頑張れよ……。


 そっと目を閉じて祈った。


 程なくして、風を切る感覚にも慣れてきた。

 未だ雄叫びを上げるロカをとにかく落ち着かせなくては。

 

「ロカ、止まれ。」


 負けじと叫び、全身をバタバタと動かす。


「二人がどこ行ったかなんて分かるはずねぇだろ。」

 

 チャチャに背負われている時は、こうするといつも優しく歩いてくれる。そんなところも優しくて自慢の兄だ。


 でも残念。

 今はそんな気遣いの出来る男はいない。


「…………いた。」

 

 ロカが急にピタリと走るのをやめた。

 脳がグワンと揺れて気持ちが悪くなり、小脇に抱えられてるせいで腹も痛い。乗り心地最悪だが、それどころじゃななくなった。


「えっ!? どこだ?」


 ロカが一点を指差す。

 本当に二人がいた。

 何処かへ向かっている途中らしい。


 チャチャの手にはペンと紙の束。

 ネムに訓練で教える時に使うからと買っていたのに…。


「デートで使う為に買ったのかよ。」


 あんな楽しそうに笑いやがって。


「「むかつく……。」」


 ロカとチッチ、二人の声が重なって視線が合った。


「おい、チッチ。チャチャを半殺しにするが許せよ。」

「はぁ!? それならあたいがネムをヤる。」


 歪み合う。

 一歩も引かない二人を他所に、チャチャとネムは楽しそうに何処かへ歩いて行く。


「なぁ、武器屋に向かってるとかじゃねぇのかな?」

「だったら俺と一緒に行くはずだぁ!」

「そりゃないぜ。自覚はあんだろ?」

「………………そんな、はず、ない。」


 自覚ありの顔だな。


「とにかく気づかれない様に跡つけてみようぜ。話はそれからだ。」

「……うス。」


 二人は休戦の握手を交わし、ロカがチッチを肩車する形で尾行を始めた。


 ネオン輝くウロボロンは地区、通りによって異なる顔を見せる。死にたくなければその地区の特色をしっかり覚えておくと良いだろう。


 かくいう二人が歩くのは、『持チ腐レ二区』

 商店街立ち並ぶ地区だ。

 

『持チ腐レ一区』が飲食店街。通称ボマー地区。

 とにかくいつも何処かしら爆発している。

 炎、ガス、犯罪者。この相性が悪いらしい。


 そして『持チ腐レ二区』が商いを中心とした比較的安全な地区になっている。ただ、安全なのは金を持っている連中に限る。


 万引き、スリ、盗難、全て許さない。

 店にはそれぞれガタイの良い男が張り付いて見ている。


 そんな地区でチャチャとネムが脚を止めたのは、


「服屋……?」

「服屋って何売ってるとこなんだ?」

「いや、服屋なんだから服だろ。」


 予想外の行き先に二人が困惑するも、チャチャとネムは迷いなく服屋に入って行った。


「服、ふく……、ふ、く……?」

「服屋って言ってもアレだろ、防護服とか。色々あるだろ、そうだよな。ロカ?」


 オロオロと。

 それはもう見てられないほどの動揺。

 

「…………胸当て。」


 ロカがボソッと呟いた。

 

「…………。」


 考えないようにしていたのに、

 考えないようにしてたのにっ!!

 

「胸当てかっ!?」

「声がデカいわ!」


 顔を真っ赤に染め上げたロカが今にも走り出しそうだ。


「待て待て待て待て。ロカ、待てだ。」


 既に気分は狂犬の散歩。

 手綱を振り切らんとする馬鹿犬を必死に静止する。


「お前、金持ってるのか!?」

「持ってない。胸当て見たい。」

「だろ!? いや違くて。金持ってないと服屋に入れねぇんだよ。」


 ここらの店に入るには、まず百セリル以上を持っている事を見せないといけない。これも犯罪防止の一手。


 ロカが金を持ち合わせている筈もなく、チッチも急ぎの事で手持ちはゼロ。たまに暴力で解決しようとする脳筋野郎もいるが、七割が失敗すると聞く。


「二人が店から出てくるのを待つぞ!」


 ガルルルルと呻き声を上げるロカを、どうにかこうにか落ち着かせ、店が見えるギリギリの死角から二人を待った。


「まだか。」

「今入っていったばかりだろ。」

「……まだなのかっ!?」

「だーかーらぁー!」

「………………まだなのかっ!?」


 待てが苦手なロカ。

 チッチも相手をするのが限界に達して来たその時、二人が出て来た。


 茶色の紙袋を一つ抱えたチャチャ。

 その隣をネムが歩く。

 二人の表情はとても……、


「ロカ、帰ろ。」

「なんでだよ!?」

「……いいから!!」


 怒鳴るチッチ。

 こんなに声を荒げる事は早々ない。


「あんな顔で笑うなよ……。」


 ギュッとなった胸を抑え、ロカに言葉の鞭打ってカイブタへと帰宅した。


「あら、あらあらあらあら。二人だけ先に帰ってきたんかい?」


 挑発するハオも無視して部屋に戻った。


「あたいらは二人で一人って言ったじゃねぇか。」


 どんな時も一緒だって。

 言ったのはチャチャの方だろ。


「チャチャのバカ……。」


 そりゃあネムは美人だ。

 気はかなり強いが、愛嬌がある。

 惹かれる気持ちだって、分からなくは、ない。

 でも、なんでこんなにも腹が立つのか。

 自分でも分からない。


「バカバカバカバカバカ。ロカよりバカだっ!」


 その日を境に、チッチはチャチャの背中に乗らなくなった。ネムとの会話もどこかぎこちない。


 自分でもどうして良いか分からなくて、

 イライラして、ムカムカする。

 この感情を表に出す事も出来なくて。


 そんな自分に、苛立って、涙が出る始末。

 本当に救えない。


「チッチ。なにかあった訳?」

「……なんもねぇよ。」

「なかったらそんな怒ってないでしょ。」


 戦闘訓練後のカイブタで、とうとうネムが痺れを切らして話しかけてきた。


「ハッキリ言いなさいよね。その口は飾り?」

「…………うるさい。」

「あんたがずっとジメジメしてるからでしょ。」

「…………ネムなんか来なきゃ良かったんだっ!!」


 思わず声に出してしまった。

 カイブタの、皆んながいる前で。


 ネムの驚いた顔が、どんどん暗くなる。

 チャチャの顔、なんて……見たくないよ。


「ちょっと、チッチ!」


 思わず部屋に逃げ込んでしまった。


「クソ、クソクソクソっ!!」

 

 そんな事ないって分かってる。

 本当は思ってもないんだ。

 口が勝手に……、涙も勝手に溢れてくる。


 部屋の扉が開く音がした。


 足音がしない。ならチャチャだろう。


「今、こっちに来るんじゃねぇ。」


 ふわりと頭を撫でる手。

 優しい手、いつもの手。それが今は、一番ムカつく。


「だから、こっちに来るなって言ってるだろ!」


 振り返った先、チャチャがいた。


「……なんでチャチャの方が辛そうな顔してんだよ。」


 悪いのはあたいだろ。

 もっと怒れよ! 殴ればいいだろ!


「…………なにが、ごめん、なんだよ。」


 なんで、なんでなんでいっつも……。


「あたいの方こそ、ごめんなさい……。」


 大きく包み込む両腕に、飛び込んだ。

 こんなにも泣いたのは、久しぶりだ。なんでこんなにも涙が出るのか、自分でも分からなかったけど、不思議と心は軽くなっていた。


 チャチャの優しい、いつもの微笑み。


「そうだな。ネムに謝らないと……。」


 涙を拭き取ってくれる兄はやっぱり過保護だ。

 一人で行けると言うのに、着いてくると聞かない。

 そんな所も、大好きだ。


「いつも、ありがと、な。」


 チャチャも音の出ない口を動かす。

 〝こちらこそ〟って言っていた。


「さて、ネムに怒られに行くかね。」


 ギュッと握った手をブンブンと振りながら、長い階段を上がる。


 カイブタに繋がる扉を開けたその時だった……。


 バンッ!!

 響き渡る乾いた音。

 火薬の匂い。


「な、にか、起きたんだ……?」

 

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