幕間 暗躍は人知れず始まっている【????編】
【おしらせ】
3月からの更新は毎週木曜、日曜日の週2投稿にさせて頂きます。すいません………( ; ; )
余裕が出来たら間に投稿していきたいと思ってます。
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誰しもが嘘の一つや二つ、抱えて生きているものだ。
「ほら、しっかりしろ。」
「はいはい。分かってるよ。大丈夫。俺がしっかりしてなかった事なんてないだろう?」
「…………。」
「アヒャヒャ。こりゃ手厳しい。」
嘘の大きさに違いはあれど、それがバレないように皆がなにかを演じてる。
「先を越される前に早く行くぞ。」
「はいはい。今回はなにかしら収穫があればいいけど。なかなか期待は出来ないねぇ〜。」
大男は背に大きな斧を背負った。
ベラベラと口が回る男は腰に二本の異なる長さの剣を帯刀する。
「そうだな。でも、もしかしたらがある。」
「それを追い求めてる訳だしね。簡単に行かない事ぐらいずっと前から承知してるさ。」
首に蛇の入れ墨を入れた男は三つ編みに結っていた髪をほどき、頭の高い位置で一つに括り直した。掛けていたメガネをポケットにしまい、黒い手袋を装着する。
「それにしても、貴方が酒をあんなに飲むなんて。」
「らしくないっていいたいのか?」
「いや、そうではないが。珍しいとは思った。」
大男の方も被っていた帽子、黒いマスクを外した。
代わりと言わんばかりに顔を全て覆う奇妙なマスクを着ける。黒い手袋は二人ともお揃いだ。
「そりゃ飲みたくもなるだろ。」
「ようやく鍵を見つけたから、か?」
「分かってるじゃないの。」
準備は整ったらしい。
二人は無音で歩き出す。
「あとは鍵穴探し。」
「俺は思うのよ。鍵が見つかった今、この都市は大きく変わるってな。」
ジャンプする音、屋根を走る音、砂利を踏む音すら聞こえない。世界から音が消えてしまったのかと思うぐらい、二人からはなんの音も鳴らない。
あるのは二人の会話だけ。
「変わると、いいですね。」
「変わってくれなきゃ困る。」
いつにも増して強い口調。
先ほどまでの陽気さすら消えてしまった。
「俺たちはずっとその為だけに生きてんだから。」
「ですね。私も変わると信じてます。」
「……お前、口調が戻ってるぞ。」
「おっと。これは失礼。」
「今はただのウロボロン市民。それだけだろ。」
「…………そう、だな。」
少しの寂しさと強く固い決意を背負い、二人は闇に溶けて進む。目的地は『廃テマエ四区』。
違法建築物がひしめき、堕落と死が香る。
今日、ここ地区では色々あった。
そのせいか、街中を彷徨く人間が少ない。
二人にとっては好都合。
「さてさて、お仕事しますかね。」
細い通りを抜ける。
そこは少し前まで活気があった場所。
大きなテントが傾いている。
今にも崩れてしまいそうなぐらいに。
「さっさと終わらせて飲み直したいねぇ。」
「酒じゃないなら付き合うぞ。」
「下戸でイカつい男は願い下げだ。」
テント内も酷いありさま。
ゴミが散乱し、白は黒く穢されたまま放置されている。
ボッ、と火が付く音がした。
大男が蝋燭に灯りを灯し、床に置く。
「誰だぁ、てめぇらあ。クソったれがぁよお。」
テント内の一番奥、個室に酒びたる男が一人。
おそらくは酒と併用して薬をやっている。瞳の焦点が合わず、呂律も回っていない。
「アヒャヒャ。たった数時間でこりゃまた随分と、変わり果てたもんだ。」
室内は荒れ果てていた。
ガラスは割れ、机には引っ掻き跡。
ズタズタに引き裂かれたソファーとベッド。
床の所々に落ちた赤い花弁。
「俺らはあんたに聞きたい事がある。」
「はぁああ?」
「セントさんやい、素直に答えておくれ。」
「あははは、ハハァァア。」
こいつはもうダメだ。
誰が見てもそう思うぐらい、人間の形をしたゴミ以下の存在に成り下がっている。
男の身に起きた事を考えれば、こうなってしまったのもの無理はない。
全財産賭けた薬はただの布だと分かった。
信仰宗教マリアは聖母を失ったことで解散。
薬物の原料を買う金、宗教を立て直す人材もいない。
セントは文字通り全て失った。
自分の作った薬に手を出すほど狂ってしまってもおかしくない。それでも、目の前にいる二人組は同情してくれるほど、優しくない。
「これが最後だぞ。シャーシェって知ってるか?」
「あはははぁー。シェリーは殺せェェェェエエ!」
大男は腕組みをして仁王立ち。
蛇男はゆっくりとセントに近づき、目線を合わせるようにしゃがんだ。
笑っている。
セントは狂ったように。
蛇男は苦笑いしながら、誰かの右脚を持っていた。
「…………………………はぁ?」
蛇男の灰色の髪が少し揺れた。
瞳が捉えることが出来たのはそれだけだった。
「ギャァァァァァアああああ!!!!」
遅れてくる痛み。
セントが右脚が綺麗に切断されていたんだ。
「次、左脚いくよ?」
蛇男は淡々と言い放つ。
泣き叫ぶセントが右脚を押さえるより先に、左脚が宙を舞った。
「ギャァァアアアああぁぁぁぁああー!!!!」
常人には何が起きたかなんて、分からなかった。
ただ、遅れてくる激痛と流れ出す血液、視界から消えた両脚、現状から目の前にいる蛇男に斬られたと悟った。
「だずけて、たず、だすっけてっ!!」
「だぁいじょうぶ。綺麗に切断したからそう簡単に死にやしないよ。」
パニックに陥るセント。
もがき、逃げようと地を這ってみるも、簡単に捕まってしまう。だってもう、脚はないのだから。
「逃げんなよー。俺の質問に答えてくれないなら、もっと斬る。痛く、残酷に、切り刻む。」
蛇男の顔は『無』だった。
それが更に恐怖を煽る。でも叫ぶことは許されない。少しでも反抗すれば待つのは確実なる死。
ここにあるのは、圧倒的な支配。
「シャーシェの名に聞き覚えは?」
「はぁー、はぁあ…………。な、なななぃ。」
言葉を絞り出すセント。
震えが止まらない。
寿命が流れ出すみたいに、服はどんどん血の赤に染まっていく。
「じゃあ次……」
セントは知った。
悪神ガリはとても優しかったのだ、と。
あれは可愛い偽物だった。
本物は、慈悲などない。媚びる暇もない。
ただただ、搾取されるだけなんだ……。
「お前はどうやってここに来た?」
「ど、どうって……。」
「地上からウロボロンまでどうやって来た?」
「あれ……、どうだっけ?」
殺される。
身体から色んな汁が噴き出る。
「覚えてないのか?」
「お、おおお覚えてるぅぅう!!!」
殺される殺される殺される殺される殺される。
生きたい生きたい死にたくないっ!!!
「ち、地上から……、あ、歩いて来たんだぁ!」
左腕が目の前を飛んでいった。
「嘘は良くないな−。」
「は…………?」
吹き出す赤。
バラのように赤く、吐瀉物と同じく汚い。
「ギャァァああああっーーー!!!」
垂れる血、涎、汗、涙。
荒い呼吸音。
バラの花弁が、沈んで行った。
「それで、なにを覚えてるって?」
蛇男は何事もなかったように話を続ける。
翡翠の瞳は逃がしてくれない。
「ゼェー……、ハァー……。わ、分かりませェん。」
「話が違うなぁー。覚えてるって言っただろ?」
「はぁ、ハァー……。すすみまぜぇんんん。」
セントの意識が朦朧とするたび、大男が頬を殴って現実に呼び戻す。既に歯が何本か床に転がっている。
「じゃあ、なんでもいいから覚えてる事は?」
「………………し、シロかった。」
「他は?」
「……あ、赤もあった、気が、するぅ。」
身動きの取れなくなったセントは自身の血溜まりに浸かる。蛇男は花を踏み潰すように容赦なく、血溜まりに侵入。セントの胸ぐらを掴んだ。
「他は?」
「…………………。」
セントを揺らす。
「他は?」
「…………。」
うちわを仰ぐように。
ぶんぶんと。
「他は?」
「……。」
「他は?」
「……。」
「他はっ!?」
「………………もう、死んでるぞ。」
大男が声をかけてようやく、セントの死骸はゴトリと音を立てて床に捨てられた。
自分で殺しておいて、蛇男はとても辛そうに顔を歪めている。
「すまない。もう少しで収穫があったかもしれないのに、力加減が出来なかった。」
「どうせアレ以上は知り得なかったと思うぞ。」
蛇男の頬に付いた返り血を、持参したハンカチで拭いてやりながら、それに地上人は脆くていけない、と呟く大男。
「…………収穫は、なしか。」
「今に始まったことじゃないだろう。」
「…………ああ、そうだな。」
「帰ろう、我が家に。」
「……ああ。」
そういうと、二人はセントをそのままに、テントを出た。テントを振り返りもしない蛇男はゆっくりと歩く。その後ろで大男が背負っていた斧を手に、振りかぶった。
一撃。
テントに向かって放つ。
斬撃は軽々とテントを真っ二つに斬り伏せて、潰れた。
「今は見つけた鍵を大事にしよう。」
「ああ……。ネムちゃんは誰にも殺させない。」
二人はまた音もなく、闇に消えていった。
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