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24 舞台に立つ責任

「あんた、正気じゃないわ……。」

「人間なんてみんな産まれた時から正気じゃないのよ。」


 計画し主演も務めたネム。

 臭い花弁を死にそうになるぐらい口に詰め込んだロカ。

 笑いながらプレスした店長。

 女を抱きまくったハオ。

 泡吹いて倒れる中毒者(ジャンキー)の口元に花弁を撒き散らした兄妹。


 どこに正気の奴がいる?


「あんただってそう。」


 人間なんて嘘みたいに狂ってる。

 そんなもんだ。


「舞台上であんな自分よがりの芝居して。正気じゃないわ。」

「わ、私は私なりに頑張ってたの!」

「あんなのただのごっこ遊びよ。」


 いつにも増して辛辣なネム。


「舞台に上がる者には責任があるの。」

「責任?」

「そう。観に来た客を舞台上の世界観に引き摺り込むこと。」


 たとえ胸が張り裂けるぐらい苦しくなろうとも。

 たとえ腹がよじれるぐらい笑い転げようとも。

 どんな世界観だったとしても、観に来た客が現実を忘れる空間にしないといけない。


 現実と非現実の境目を消し去ること。

 それが舞台に立つ者の責任。


「舞台の上では自分が自分であっちゃ駄目。」

「意味わかんない。演技なんて金を増やす手段でしょ。」

「あんたはまだなにも知らないのね。」


 そう言うとネムは蝋燭片手に舞台に上がった。


「あんたの演技が上手いのは分かったって。でもそれがなに? 説教なんて聞きたくないんですけど。」


 舞台への礼儀とか、他と創り上げる達成感とか、そんなものはとりあえず置いといて。


『私は神に使える身。』


 どれだけ私が芝居を愛しているか。

 愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して……。


 壊れても愛して

 壊れた形も愛してやる

 

『残念ながら女神ではありません。』


 傷を付ける事があってはいけない

 無闇に触るなら腕を斬り落とす

 私を愛してよ

 こんなにも愛してるの


 知らないなんて言わせない

 離れることも許さない

 邪魔するなら神でも縊り殺してやる


『ですが、皆々様に神のご加護が在らんことを祈りましょう。』


 病める時も健やかなる時も、死が二人を別つとしても輪廻転生してまたお前を見つけ出す。


 見つけ出して捕まえて

 愛を注いで注いで注いで注いで

 私なしでは狂ってしまうぐらい骨抜きにしてやる


 嗚呼………、そうね。

 私はきっと、何度も死んでも芝居をしてしまうわ。

 

「な、なによ、これ……。」


 お前が気安く触れて良いものじゃない。


「私と、同じセリフなのに」


 私と同じ舞台に立つ覚悟がお前にあるのか。


「全然、ち、ちがうっ……」


 覚悟がないのなら舞台(ここ)に二度と上がってくるな。


「舞台はね、誰かの血と汗と異常な執着が産んだ禍々しい沼なの。」


 黄金瞳は一点を見つめる。


「好きで愛して殺したくなるぐらい憎らしくて愛おしい。」


 シュリーを見つめる。


「芝居やりたきゃ全部を賭けろ。人生も金も愛も憎悪も全部全部っ! それだけ賭けてようやく芝居を愛する権利が与えられるの。」


 曇りない眼は信仰と言っても過言じゃない。


「…………イカれてる」

「うん。」

「あんた、イカれてるわ」

「うん。」

「ねぇ、それを言う為だけに私を生かしたの?」

「……分かっちゃったか。」


 炎が蝋燭を焼く。


「なん、で、それだけ全部賭けられるのよ。」

「なんでだろうね。」


 蝋がアイスみたいに溶けていく。

 小皿の中はドロドロだ。


「出会った時に気づいたの。思ったの。」


 どんな形をしてたのか分からなくなっていく。


「これは私のだって。」


 このまま溶けて溶けて、全部溶けてしまえればきっと……。


「ネムッ!」


 ドロドロの腕を掴むのは、誰?


「行くな。」


 割れ物みたいに扱う優しくて暖かくて手だ。

 こんな舞台に一緒に立ってる人なんて誰も……。


「そっちじゃない。」


 ずっと誰も居なかったのに。


「…………ロカ?」


 蝋燭がもう一本。

 遠くで揺れる。


「お前は俺のご主人だろ。」


 こちらに来いと騒いでる。

 蝋燭の分際でうるさい限りだ。


「辞めれるならすぐにでもお願いするんだけど?」

「却下。むり、ダメ、ネムがいい。」


 仕方がないからもう少しだけ一緒に居てあげる。


「ふふふ。話は終わり。」


 持っていた蝋燭を舞台の中央に置いたネムはシュリーの隣に金が入った袋を一つ置いた。


「あんたの分は返すよ。」

「え、いいの……?」

「今回だけね。元々五千万セリル騙し取るつもりだったし。」


 カイブタの面々はシェリーに金を返すのを反対だ。

 特にチッチ。

 借金に回せる金が減るのが嫌らしい。

 しかし、今回の決定権はネムにある。

 最終的には皆が「分かった」と頷いた。


「さて、私達は帰るわ。」


 店長とハオは料理の仕込みをすると先に帰ってしまった。

 茶色の兄妹も床に散乱していたゴミと硬貨の仕分けが終わったらしく、焦げた髪を気にする過保護なチャチャがチッチを連れて部屋を出ていった。


「あんたもその金で上手く生きなさい。」

「…………。」


 残るはネムとロカ、それからシェリー。

 

「行く場所がないのなら、旧ニーダ邸に行ってみれば?」

「…………なんで?」


 シュリーは廃テマエ地区にはもういられないだろう。


 顔が知られすぎてる。

 このまま死んだ事にして違う地区で生きていく方が安心だろう。

 

「ニーダと懇意にしていた貴族があの屋敷を買い取ったらしいの。噂だと、屋敷を演劇場にするみたいよ。」

「え……。」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔。

 それも当たり前だ。

 だってあれだけ芝居に対して敵意剥き出しにしていたのは他でもない、ネムなのだから。


「…………あんたの、泣きの演技だけは、良かった。」


 ネムは少し照れながら、そっぽを向く。

 

「あれは、伸びると、思うから……。」


 芝居に対して異常な愛を注ぐネムだ。

 彼女は極度の舞台オタクでもあった。

 良い芝居を讃頌するのも愛情表情の一つ。


「………………頑張って。」


 シュリーに背を向けた時、ふわりと舞った髪の毛の中、ロカの瞳より赤く染まった耳が微かに見えた。


「ネム、俺も頑張ってる。」

「…………。」


 二人は歩き出す。

 背に一人の少女を置き去りにして。

 

「褒めるべき。」

「…………。」


 なんて悪い奴ら。

 腸が煮えくり返るほどの怒りが込み上げてもおかしくない。


「俺、頑張った。クソまずのヤツ、口に詰めた。」

「…………。」


 それなのに、シュリーは扉が開いて閉じられてから笑った。


「殺しもしなかった。」

「もうっ!! 分かったから!!」

「ネムの顔、なんか赤くないか?」

「知らないわよ!」


 天から降り注ぐ光の柱のように、穏やかに明るく。

 聖母マリアみたく笑っていた。


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