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22 舞台は終演を向かえる。

 懐中時計はチクタクと。

 時を刻む音は正確でつまらない。

 それは悪神カリの心と同じ。

 舞台中央に置かれた椅子に座る悪神はあくび混じりにため息を吐く。


 五分……、七分……、九分…………、十分。


 バンッ!

 十分が少し過ぎたところで勢い扉が開かれた。


「はぁ、はぁ……、間に、あったか?」


 両手に大きな袋を持ったセントが飛び込んできた。

 その後ろにはセントと同じように大きな袋を持つ、チャチャと店長の姿が。


 二人は悪神に向かって頷く。

 金は確かに七千万セリルあったらしい。


「これで有り金全部だ。悪神カリよ、俺の願いを叶えてくれ。」


 興奮冷めやらぬセント。

 悪神と会えた事で勝利を確信したらしい。

 息を切らしながらも笑顔は絶やさない。


『さっきまで居た奴らの寿命とバラ病を促進させる薬有りったけで良いんだな?』

「ああ。そうだ!」

『しかと聞き入れた。』


 椅子から立ち上がった悪神が口元で左手の親指と人差し指で輪を作り、セントに向かって息を吹いた。


『対価は支払われた。』

「…………なにも、感じないが?」


 呆気なく儀式は終わった。

 両腕を広げて待ち構えていたセントは困り顔を浮かべる。

 

『お前は寿命が日々減るのを感じるのか?』

「い、いや。」

『それと同じ。増えたところでなにも感じん。』

「じゃあ、薬は!?」


 力を使って疲れが溜まったのか、悪神はまた深く椅子に座り込む。


『ああ、忘れていた。ほら、受け取れ。』


 寝そうにあくびを吐くと自身の髪の毛を一本抜き、両手で丸める。数秒の後、手の中にあった物をセントに向かって投げた。


「…………これ、だけか?」


 受け取ったセントの手の中にあったのはたった一粒の赤いタブレット。バラ病を促進させる薬なのかすら怪しい。


「俺は有りったけと言ったんだぞ!」

『これがお前の差し出した七千万セリルで支払える〝有りったけ〟の量だ。』

「騙したのか!? 卑怯者め!!」


 セントが怒るのも無理はない。

 でもここはウロボロン。

 騙される方が悪い。


『アヒャヒャ!! こりゃユカイユカイ。』


 更に言うなら、悪神に対等など期待する方が馬鹿だ。


『我は言ったぞ。〝有りったけ〟でよいのだな、と。ちゃんとした数を言わなかったお前が悪い。』

「くっ、ふざけやがって!!」

『お前、調合師だろ。一粒あればそれを分析し、量産するなんて難しくあるまい?』


 薬のスペシャリストなのだからと挑発する。


『対価は既に支払われた。もう変更は出来ぬ。それに時間切れだ。』

「そ、そんな……。」


 その場に崩れ落ちるセント。

 悪神はチャチャと店長、それからハオに舞台へ来るよう合図する。三人はそれぞれ両手に金の入った袋を持ち、セントの横を通り過ぎ、舞台に上がる。


『良い顔が見れた。満足したからもう帰る。』

「待ってくれ!」

『待たない。』


 ニヤニヤと笑う悪神は五芒星の陣の中央へ。

 その周りに金の入った袋が入れられる。

 チッチから手渡される火のついた蝋燭。


『地獄で待っているぞ。』


 その顔は悪そのもの。

 お前はもう天国には上がれない。

 死ぬまでをせいぜい楽しめと言われているよう。

 

 震え上がるセントを前に、悪神は蝋燭を五芒星の陣上に落とした。するとたちまち火柱が上がり、暗闇に慣れていた瞳が焼かれたような感覚に陥った。


「う、嘘、だろ……?」

 

 不思議な事に火柱はほんの一瞬で消え、五芒星の陣も消えている。金の入った袋もない。


 舞台の中央には倒れ込む娘が一人。

 死んだように動かない。

 綺麗に結われていた髪は解け、赤く美しい波を描く。

 しかし、今はそれすらバラの赤に見えて恐ろしい。


「降臨の儀は終了だ。」


 大人びた子供の声がセントを刺す。

 舞台端にいたチッチによるものだ。

 びくりと肩を震わすセントに他の四人も視線をやる。


「さっさと帰られよ。」


 口さえ開かなければ威圧たっぷりの赤い瞳。

 凸凹な二人分の琥珀眼。

 メガネ越しに蛇みたく弧を描く翡翠の瞳。

 一際高い位置から見下ろす黄色の瞳。


 悪神と遜色なく、いやそれ以上に恐怖を与えるのには十分過ぎる絵面だ。


「う、うわぁぁぁあああああ。」


 セントは狂ったように叫びながら走り去っていった。


 ………………

 …………

 ……


「…………ふっ」


 むくりと起き上がる娘が一人。


「あははは!!」


 悪神はもういない。

 いるのは、満面の笑み溢れる美しい娘。

 ネムだ。


「あはは! こんなに上手くいくなんて!」

「アヒャヒャ。いやー、最後の炎は流石にびっくりしたねぇ〜。」

「チャチャ、あたいの髪ちょっと焦げてない!?」


 チャチャが過保護にチッチの髪を心配している。


「フラッシュペーパーの威力が思ったより強かったの。あれは改良の余地ありね。」

「うぅー、まだ気持ちワリーー。」

「ほら、飴あげるから。」

「うゔーー。」


 ネムがロカの口に赤い飴玉を放り込む。

 ロカはバリバリと飴玉を噛み潰した。


「もっと味わって食べなさいよ!」

「もいっこちょーだい。」


 おかわりを強請る駄犬にネムは大きなバツを両腕で作り否定する。


「もうないわよ。」

「やだ。俺ぁ頑張った。もっと褒められるべきだ!」

「今回も一番頑張ったのは私に決まってるじゃない。」


 睨み合う二人。

 妹を溺愛する兄。

 永遠と一人で喋っている蛇男。

 いつもと変わらぬカイブタの風景。


「ほら、お前ら帰るぞ。」


 店長がパンパンと手を叩き、みんなを繋ぐ。


「セントが帰ってきたら厄介だ。それに、今日は俺が腕に寄りをかけた料理を振る舞ってやる。」


 四人の歓声響く。


「店長、幕外すの手伝って。」

「ああ、もちろんだ。」

「店長! 俺がする!!」


 ネムと店長の間に割り込むロカはまだ膨れている。

 

「あんたじゃ天井届かないでしょうが。」

「出来る!」

 

 リスみたく頬を膨らましたロカは、舞台の奥にある壁に向かって飛び上がった。


 べりべりっと音が鳴る。


「ほら、俺がやった。飴玉くれ。」


 壁だと思っていた舞台の奥は大きな布がピンと貼られただけ。ロカが簡単に外すと、中から大きな袋が六個とシュリーが現れた。


「あ、この子いるの忘れてた。」


 口をパクパクさせるシュリー。

 混乱が顔に描いてあった。


「あ、あああんた達、なにが一体どうなってるのよ!?」

 

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