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18 店長、圧縮してプレスしたいの

「さて、新興宗教を作るとは言ったけど、あの修道女もどきに対抗出来る教団にするには……。」


 家に帰宅した二人。

 リビングで考えこむネムと対象的にソファに身体を沈めるロカ。相当気分を害したのかピクリとも動かない。ここまで辛そうにする姿は初めて見る。


「ネムー。頭痛い。なんかふわふわする。」

「白いテントの中でお香を吸いすぎたんじゃない?」


 新興宗教マリアの白いテント内で複数焚かれていたお香。独特な甘い匂いがしていた。

 

 恐らくはあれも薬物を調合した物だ。

 幻覚剤なんかが入れられていたのだろう。その証拠にステージの近くに座っていた人間は漏れなく全員マリアに入会していた。


「あの仮面男と修道女もどきが考えそうな事ね。自分達の都合が良いように幻覚剤を嗅がせて客を誘惑する。」


 しっかりしてよね、と呟きながらもロカのために水を用意してソファに向かう。手渡された水を一気に飲み干したロカは少し持ち直したのかソファに座り直した。


「ところでロカ、修道女って知ってる?」

「なんだぁそれ。食いもんか?」


 やっぱりそうだ。

 

「あんたが育った協会でああいう服装の人見た事ない?」

「ない。協会であんな弱っちぃ奴ら生き残れねぇよ。」

「そうよね……。」


 私は前世の記憶があるから協会といえば、と言うものがすぐに頭に浮かぶ。でも、ここで生まれ育った人間にとって宗教的な協会は馴染みがない。


 まず協会なんて建物がない。

 あるわけがないんだ。


「協会内でこう言うロザリオって見た事は?」


 ネムは手でバツ印を作って見せる。


「ないな。その形のブーメランなら見た事ある。」

 

 ここは守銭奴が蔓延る闇世界。

 信じれば救われるなんて考え方をしない。

 入会した人達は確実に薬物目当て。


 となれば、あのシュリーと言う女も自身がなにを演じているのか理解していなかったのかもしれない。そんな状態で舞台に立つなんて。余計に腹が立つ。

 持ち込んだのは確実に最近まで地上で生活していた仮面男。


 まだウロボロンに馴染みきってない。

 ここの常識を知らないのなら……。


「いいこと思いついちゃった。」


 もう一杯水を、とか細く訴えるロカを無視し、ネムは部屋を後にした。


 解体豚小屋ブッチぶちは今日も閑古鳥。

 今日はハオの姿もない。

 どうやら店番に人を置く気もないらしい。


「店長ー。いないのー?」


 カウンターの奥へ声を飛ばす。すると「ちょっと待ってな」と店長の声が返ってきた。


 待つこと数分。

 店長は中々出てこない。

 

 ハオの言っていた通り、最近のヘルドッグのせいで忙しいのだろう。カウンターの奥は、磨りガラス付きの扉一つ挟んで解体室になっているらしい。

 一度覗こうと扉に手を掛けたが、扉の向こうから床を伝って流れてきた血溜まりを見てそっと踵を返した。


 中でなにを解体してるのか。

 聞きたくない。

 見たくもない。


 ネムはカウンターにある椅子に行儀よく座って待つことにした。


「わりぃーな。待たせた。」


 血濡れた作業帽を急いで取り、いつもしている薄い色のサングラスも外す店長。この時初めて店長の顔の一部を見た。

 

 ハオと似たグレーの短髪。

 ひまわりの様に明るい黄色の瞳。


 黒いマスクは絶対に外してくれないが、顔の上半分を見る限り、彫りの深さも相待って硬派で渋い印象だ。

 

 店長が解体室から出てくる頃にはチッチ、チャチャ、それから瀕死のロカも合流していた。


「あ、店長。やっと出てきた。」

「要件はなんだ? 飯か?」

「違う。全然違う。」


 店長が来るまでにネムの計画は全て三人に伝えた。

 残りのピースは店長次第。


「ネム、この計画は本気か?」

「当たり前じゃない。これであの二人から五千万セリル取るわよ!」


 着想はハオの言っていた言葉から。

 前世じゃ絶対無理だけど、ここなら出来る。

 

「店長。()()を圧縮してプレスして欲しいの。」

「……なんだ、これ?」


 手渡された物に困惑する店長。


「難しいかしら?」

「いや、出来なくはないだろうが……。」

「これをあと五十個ぐらいお願いしたいの。」

「ご、五十個!?」


 もちろんタダでやって欲しいなんて言わない。


「やってくれたら詐欺が成功した暁に、一千万セリル払う。」

「やろう。」


 真顔の店長が親指を立てて二つ返事で頷いた。

 

「チッチとチャチャも。協力してくれたら一千万セリル。更に借金一千万セリル返すわよ。」

「仰せのままに。」


 チッチとチャチャの反応もいい。


「俺は!? 俺の取り分は?」

「ロカには五セリル。」

「少ない! もっとくれ!」

「じゃあ倍の十セリルあげちゃう。」

「マジか! ネム大好き!」


 なんてちょろい。


「さて、忙しくなるわよ。みんなよろしく!」


 皆が各々に声を上げ、士気が上がる。

 

 ……なんだか凄く懐かしい。


 前世の記憶、同じ目標を掲げた人の手で創り上げる舞台稽古を思い出した。今からなにかが産まれる、そんなワクワクした瞬間がたまらな好きだった。


「こんな感じだったな……。」

「なにが?」


 溢れた言葉はロカだけが全て掬い上げた。

 少し驚いてからネムは首を横に振った。


「なんでもない。」


 感傷的になってどうする。

 もうそいつは死んだでしょ。

 勝手に出てこないで。


 ネムは心の中の自分に刃を突き立て殺した。そうして歩き出す。二度と振り返る事もしないで。

 

「そか。じゃあ俺ぁなにすりゃい?」

「ロカはー、そうね……。」


 気持ちを切り替えて考えてみるが、残念ながらロカの出番はまだ先だ。


「番犬の練習?」

「バンケンってなんだぁ?」

「……。」

 

 正直、今は大人しく待機していて欲しい。


「あ、そうだ!」


 ちょうどいい機会だからお手とおかわりぐらい仕込んでみようかしら。


「私が右手を差し出したら同調。左手を差し出したら反発。理解できる?」

「出来ない。」


 ロカが物凄く速いスピードで頭を横に振る。


「だから私がハオさん素敵って言いながら右手を差し出したらロカもハオさんの良いところを言うの。」

「ハオにそんなもんないだろ。」

「……嘘でいいんだってば。」

「そう言われてもなー。」


 純真無垢に「思い浮かばない」と言い切るロカはいっそ清々しい。本当に詐欺師に向いてない性格をしている。


「じゃあ反対。それなら出来るんじゃない?」


 ネムがハオを褒めて左手を差し出す。

 そうするにハオの嫌なところを言えばいい。


「それなら出来る。」

「じゃあ、もう一回。ハオさん素敵よね?」


 ネムが意見を求めるように左手を差し出した。


「んなわけあるか。あいつはクソだ。人をおもちゃだと思ってやがる。いっつも違う女連れて甘ったるい匂いをまち散らす。ハレンチだ。」


 なぜか火の付いたロカは止まらない。

 途中から嫌なところじゃなくてやっかみみたいになってきた。


「そんで俺に見せつけるみたいに女の胸揉むんだよ。それも後ろから両乳だぜ。女も喜んで揉まれてるのが気に入らねぇが、元凶のハオを潰すべきだな。」


 胸を揉むようなジェスチャーをしながら怒る。

 私はそこまでしろと言ってないんだけど……。

 そろそろ止めた方が良いと思う。

 だってロカの後ろには、


「へぇー。シロアカはそんなに女の胸が揉みたかったのかぁ〜。」


 ロカの後ろにはこっそりと店の扉を開けて忍び寄った実物のハオが立っていた。


「ここ屋根がないから声が辺り一体まで響くんだよ。まさかシロアカが俺のことをそんな風に思ってたなんて、ショックやわね。」

「は、ハオ……。いや、今のはネムが言えって。」

「ネムちゃんそうなんかい?」


 ネムは即座に首を横に振った。


「ロカが勝手にベラベラ喋り始めました。」

「ネム!?」


 ベラベラ喋り始めたのは本当。

 扉を背にして座っていた自分を呪いなさい。

 

「そかそか。んじゃシロアカ、ちょ〜と長い話しましょか。」

「やだ!! ネム助けてくれよぉーー。」


 肩に腕を回されたロカはもうすでに闘志を折られているらしい。ハオのニヒルな笑みに震え上がっている始末。


 これは長い話がいつもより割り増しで長くなりそうだ。


 そうと分かれば見捨てるに限る。


「ハオさん。ロカが人を悪く言わなくなるようにしっかりお説教してあげて。」

「そりゃあ〜もちろん。一から百、いや、万まで手取り足取り首締まるまで教えあげるよ。」


 ご臨終。

 ロカのまで合掌一つしてカウンターの椅子から立ち上がった。そしてロカに向かって右手を差し出す。


「ロカ、良かったわね。よく教えてもらいなさい。」

「ネムぅー。ネムのバカぁーー!!」


 ハオのマシンガントークとロカの助けを求める声を背に、ネムは自室に戻った。

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