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幕間 【独白】シロアカの日常(乙)

「…………誰だてめぇ?」


 準備してくると言って自室に篭ったネムを待つ事数分、出てきたのは知らない男。

 

「誰ってなによ。」


 赤毛の短髪。

 黄金瞳。

 知ってる声。

 

「ネム、なのか!?」

「他に誰がこの部屋に住んでんのよ。」


 男にしか見えない。

 実は男だったのか?

 でもドレス着てた時は胸が膨らんでた。


「おっぱいどこやったんだ!?」

「初めに聞くのがそれかい!」

「もいだのか、もいだヤツ俺にくれ!」

「誰が胸もぎ取るかぁぁああ!!」


 ビンタされた頬が痛い……。

 ちっこくてガリなのは変わってないのに、どうしてもこうも変わるのか。声が違ったら絶対に分からなかった。


「この格好なら十四、五歳ぐらいの少年ってとこね。」


 服はチャチャに古いのを借りたらしい。

 腕も脚も丈が合っていない。それが協会で暮らしてるガキどもと重なる。ここらでよく見るマセガキだ。


「もうちょっと待って。」


 家の玄関に置いた全身鏡に自分を映すネム。

 コロコロと変わるのは知っていた。

 それが面白いと思っていた。


 でも今は、それが少し怖い。


「ここら辺でよく見る少年は……」


 脚幅が少し広くなった。

 蛹が孵化を始めるよう。


「少しでも強く魅せようとする」


 背筋がまっすぐに伸びた。

 羽根は透明。


「生意気に、臆病に。視線は……上向き。」


 視線は鋭く、黄金瞳は鈍く光る。

 出てきたのは美しい蝶か?


「喉仏はまだ出てないから。あーあー、アー。」


 女の声からどっちつかずの声色に。

 出てきたのは鱗粉振り撒く毒蛾か?


「このぐらいか。ねぇちゃん、ねーちゃん、ネム。」


 変わった……たったの数秒だぞ。

 さっきまでネムだった女はどこ行った?


「僕はネムを探してる。ねーちゃんに会いたいんだ。」

 

 チッチより少し年上で、生意気で。

 まだ真っ黒に染まり切ってない危うい少年。


「僕も仲間に入れてよ。」


 ネムの弟を名乗るガキが目の前に立っていた。

 猫みたいに簡単に他人の懐に入り込む愛嬌と、人を射殺すような黄金瞳は姉のネムにそっくり。


「あんたのとこのボスは僕のねーちゃんを殺そうとしてるらしいね。」


 誰がこの少年の言葉を嘘だと見抜くことが出来る?

 ……いや、無理だ。


「そんなの、させるはずないよね。殺し屋の協会で習ったんだけど、暴君の死の理由はいつだって身内の裏切りらしいよ。」


 少年に連れられてやってきた溜まり場。

 サルザの部下に話かけたが少年がネムだとは誰一人として気がつかない。

 

 中には見覚えがある奴もいる。

 ニーダ邸の客間にサルザと一緒にいた奴だ。


 ネムの顔をしっかり正面から見ていたはず。

 それでも気がつかない。


「せっかくこのシマを自分達の物に出来たのに、せっかくここまで登り詰めたのに、ボスのミスのせいで全てがダメになるなんて。許せないだろ?」


 言葉巧みに、冷静に。

 顔色一つ変えない姿がネムと重なって、少年の言葉が信じるにたる物だと思わされる。

 

「あんたらがサルザを殺るつもりだったんでしょ。でも大っぴらにするとサルザ側についてる奴らが許さない。いつまで経っても揉め事は収まらない。だったら……」


 利害は一致している。

 でも誰がちっこくてガリのガキにボスの殺しを託すか?

 信じられない。あり得るはずがない。


「僕らがサルザを殺してあげるよ。」


 ありえない、が覆る。

 この瞬間のネムはキラキラしている。

 楽しいが溢れてる感じだ。

 

「ねぇ、いいでしょ?」


 つまらなかった世界が赤と黄金色に染まっていく。

 ネオンサインの色がこんなに眩しいなんて知らなかった。


「サルザの屋敷の構造と侵入の手伝いをしてくれるだけでいい。後は僕ら二人が勝手に入って勝手に殺す。今から一時間で片付くよ。」


 サルザの屋敷に忍び込み、眠るサルザの寝室に辿り着くまで本当にあっという間だった。

 殺しの仕事を始めて以来、こんなに楽だったのは初めてだ。


「ロカ、お願い。」

「あいよ。」


 サルザの部下の助けもあって誰に見気づかれず、寝室に忍び込む事に成功した。


 喉に短剣を突き立てるとサルザは本当に呆気なく、死んだ。殺した証拠にサルザの持ち物を一つ持ち帰る決まりがあるとネムに伝えると、ベッド横にあった葉巻きが良いと告げられた。


「……だい、じょぶか?」


 ベッドが赤く染まるのを、ネムは身体を震わせて見ていた。消えてしまいそうで、なにか声をかけないと、と思ったんだ。


「大丈夫に決まってる。こいつはねーちゃんを殺そうとしたんだからな。殺されて当然だ。」


 違う。

 そうじゃないだろ。


「それより、ねーちゃんの手がかりを探さないと。」


 寝室の本棚、デスクの引き出し、部屋から出てくるはずがない物を探している。


「止まれ。」

「止まれないよ。ねーちゃんが危ないんだから。」

「止まれって言ってんだろ!」


 腕を掴み、そのまま壁に追い詰める。

 握った手首はやっぱり骨と皮のガリで、震えていた。


「離せよ。」

「俺はお前に、ネムに言ってんだよ。」


 陰る黄金瞳。

 ああ……、わかった。

 なんでこいつの事を少し怖いと思ったのか。

 

「……僕、は」

「お前はネムだ。そうだろ。」


 消えちまいそうだったんだ。

 身体も、声も、全部、同じなのに。

 すぐにでも消えて無くなりそうで怖かったんだ。


「お前は、俺の飼い主だろ。」

「……。」

「だったら、死ぬまで面倒を見ろ。」


 帰ってこい。

 俺のネム!!


「…………私、死ぬまであんたとずっと一緒とか罰ゲームにもほどがあるでしょ。」


 ネムだ。


「もう大丈夫だから。離して、痛い。」


 俺のネムだ。

 …………俺のってなんだ?


「でも、ありがと。」

「ああ。」


 照れる横顔を初めて見た。

 部屋の鉄格子付きの窓から降り注ぐネオンサインの光が彼女を照らす。


「じゃあ、撫でて?」

 

 ゾクゾクとは違う。

 ソワソワ? グズグズ? ドクドク?

 分からないから今はネムが帰ってきたのを感じたい。


「頭でいいから。撫でて?」


 触れた手はやっぱりちっこくてガリだったけど、暖かくって。


「俺さぁー、ネムのこと食べたい。」

「…………マジでキモイ。」


 今度こっそり指一本食べてみよう。

 また今みたいな顔されるだろうけど。


「そんな事言っないでさっさと逃げ……」

「ネム? どーした?」

「この机の引き出し、おかしい。」


 正常に動き出したネムが動きを止めたの書類が積まれた机の開けっぱなしになった引き出しの前。


「引き出しと机の幅が合ってない。」

「そーかぁー?」


 違和感に駆られるネムを見つめる。

 さっきまでいた少年も、弱々しかったネムも、もうどこにもいない。不思議だ。


「やっぱりそうだ……。引き出しの奥に取っ手がある。」


 机から取り外し引き出しの奥、暗くて見づらいがネムの言う通り、取っ手が見える。ネムは躊躇なくその取っ手を引いた。


「…………嘘、でしょ。」

「なんだそれ? 本か?」


 出てきたのはもう一つの引き出し。

 中には本がたった一冊入っているみたいだ。

 

「なんでこれがここにあんのよ……。」


 ネムはこれがなにか知ってるのだろうか?

 本の表紙には『No Name』の文字。

 字の読めない俺にはこれがなにを意味するのか全く分からない。


「なんて書いてあんだ?」

「嘘よ……、そんなはずが……。」


 ネムの様子が明らかに変だ。


「ありえ、ない……。」

「ネム?」

「一体、どういうことなのよ!?」

「ネム!!」


 流石に物音を立て過ぎたらしく、寝室の前から人の走る音が聞こえる。ここにいるのはまずい。


「とりあえず逃げるぞ!」

「あ……。そう、ね。」


 背中に少しの重みと吐息を感じながら俺たちはサルザの追手を振り切り帰路に着いた。

 

「少し、一人にして……。」


 家に着くなり自室に篭ってしまったネム。

 いつになったらここから出てくる?

 いつまで俺は待てばいい?


 聞きたい事はいっぱいある。


 俺は殺し屋であいつは詐欺師。

 同じ家に居るのに、ネムの部屋に繋がる扉みたく俺たちには明確な線がある。


 この線を飛び越えれば、取り除いてしまえば……。

 今回も考えるだけ無駄か?


「なぁ、ネム。俺ぁ一体どうすればいい……?」

 

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