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13 一緒に食べよう

「欠陥品の弱虫(ウィンピー)てどういう事?」

「そのままの意味だよ。」


 チッチは影のある笑みを見せながら自分を指差す。


「ロカや協会に育てられた子供はあたいぐらいの歳には殺しの依頼をこなして独り立ちしてる。でも、あたいは出来なかった。ちっさくて弱っちくてな。殺しの依頼をこなせねぇ。」


 劣等感からくる失笑。

 身に覚えのあるネムの胸がチクリと痛んだ。


「んで兄のチャチャはこの通り、最初の殺しの依頼がトラウマで声が出なくなっちまった。元々こいつは優し過ぎるんだよ。」


 殺し屋なんか向いてないと言い切る妹に向ける兄の顔は には色々な表情が混じっているように思う。

 申し訳ない、悔しい、罪悪感、そして安堵。


「あたいらは殺し屋ランキング上位ランカーに専属で尽くす事で協会に所属を許可されてる。」

「専属で尽くす?」

「ああ。あたいらはロカ専属の使用人って訳だ。ロカが殺した人間の処理や依頼を取ってきたり。」


 なるほど。

 マネージャーみたいなものね。

 仕事のサポートをする管理職。


「ただ……。」

「ただ?」

「このシロアカは問題ばかり起こしやがる。」


 この部屋に入ってすぐに見せたチッチの怒りの眼光の意味がこれか。二人の苦労が目に浮かぶ。


「私もロカのサポートするなんて絶対に嫌。」

「だろ! 言うこと聞かないのは当たり前。やりたい放題、気分で仕事しやがる。」


 止まらない愚痴の山。

 相当溜め込んでいたらしい。


 ウィンピーの給料は専属の殺し屋に依存する。

 ロカの収入がないと二人に金は一切支払われない。

 つまり、ロカはとんでもなくブラックな雇用主なのだ。


「そもそもシロアカはボスのお気に入りなんだ。」

「殺し屋協会のボスって。なにがあったの?」

「シロアカはボスが自ら拾ってきた子供だ。じゃなきゃ二億セリルなんて大金を一個人に借金させる訳ない。」


 普通は一千万セリル程度の借金した時点で違う殺し屋には粛清される。


「なにそれ。コワッ。」


 だからこそ貴族の飼い主を作れと言っていたのに連れてきたのは一介のメイド風情。二人からしたらたまったもんじゃないだろう。


「協会から抜けようとは思わないの?」

「抜けれる訳ないだろ。あたいらは協会に育ててもらった恩がある。簡単じゃねーんだよ、この世界は。」


 ここに子供を守ってくれるような大人はいない。

 男は性欲処理と一時の快楽のために身体を重ねる。

 女は売るものがなくなると子供を孕む。


「だから弱虫(ウィンピー)だの寄生虫だの、馬鹿にされようが関係ねぇ。」


 無責任に売られた子供は育つ場所を選べない。

 五体満足で成長できたら奇跡と言っていい。

 まさに弱肉強食。


「あたいらは協会のクソ野郎共の誰よりも長く生きてやるぜ。」

 

 毎日が狂気乱舞のウロボロンで真っ先に犠牲になるのはいつだって子供だ。

 諦めて死んだように生きる子供が多い中、彼女は腐らず闘志を燃やし続けている。それが分かればもう十分。


「いいじゃない。ねぇ、そろそろ食べない?」


 テーブルに並べられた美味しそうな料理の数々。

 ロカに『待て』するのもそろそろ限界だった。

 

「…………それだけ、か?」

「それだけってなに?」


 チッチとチャチャは二人顔を見合わせて、クシャッと笑った。


「シロアカがあんたを連れて来た意味がちょっと分かったよ。」

「意味わかんないわ。食べましょ。」

「もういいよな、俺ぁ食うかんな!」

「いただきます。」


 フォークを手に取ってようやっと今日最初の食事だと気がついた。口に入れると溢れる肉の旨み、シャキシャキと噛みごたえの野菜たち。案の定、食べ方の汚いロカを横目に口に運ぶ手が止められない。


「どれもめちゃくちゃ美味しい!」

「それは良かったってチャチャが言ってるぜ。」


 兄妹は長い絆から互いの表情を見れば言いたいことが大体分かるらしい。


「二人は食べないの?」


 皿からどんどん料理が消えていくのに兄妹は一切手をつけないで見ているだけ。


「主人と食卓を囲む使用人がどこにいるよ。あたいらは二人が食べ残した物を後でもらうさ。」

「そんなのどうでも良くない?」

「…………はぁ?」


 ロカに「ねぇ?」と返事を求めるが口いっぱいに頬張った料理のせいでなに言ってるのか全然分からない。


「一緒食べよう。その方が美味しいでしょ?」


 困惑する二人にフォークを渡す。

 同情を含めた優しさを感じて貰えるように。


「じ、じゃあ遠慮なく。」

「そうして。」


 そうして食べる一口目。

 綻ぶ二人。まだまだね……。


「食べたわね?」


 目の前にいるのは誰だか、忘れちゃいけない。

 甘さは芝居以外で見せちゃダメよ?


「私、あと五百万セリル持ってるの。」


 ゴクンの物を飲み込む二人。

 綻んだ顔は困惑、そして恐怖に変わる。


「ねぇ、ロカの使用人辞めて私に付かない?」


 この二人は使える。

 絶対に欲しい人材だ。

 こんな馬鹿の下で飢えを耐え凌ぐだけで置いておくなんてあまりにもったいない。

 

「それは二人に協会抜けろって言ってんのか?」


 二人が返事をする前に口を開いたのはロカだった。

 食卓を囲む雰囲気が変わり、緊張感に包まれた。


「まさか。そこまでしろなんて言ってないわ。だっておかしいじゃない。」

「なにが?」


 ロカの声色からするに協会を敵に回すのは相当な危険を孕んでいるのだろう。深く繋がりを持つと大変な目に遭いそうだ。

 

「ロカは私のペットよね?」

「ああ。」

「だったらロカの使用人も私のものじゃない?」

「…………確か、に?」

「でしょ。ロカの物は全部私のものよ。」

「…………そう、かぁー?」

「このお肉あげるから。」


 ロカの皿に大きな赤身肉を乗せた。

 

「全部ネムのでいいよぉ。」


 こっちはちょろい。

 あとは目の前の二人だが。


「あたいらにもプライドってのがあんのよ。」

「ふーん。」

「この馬鹿に付き合うのは骨が折れる。だがな、殺しの腕は認めてる。あたいらは自分が認めた奴にしか付かないって決めてんだわ。」


 なにも喋らないチャチャもチッチと同意見らしく真剣な瞳で頷いている。


「だからあんたには付かない。」

「残念ね。でも雇用条件ぐらい聞いてみない?」

「雇用条件?」

「そう。まず第一に私は出来高に応じて必ず報酬を与えるわ。」


 テーブルに並ぶ皿をロカの方へ追いやり袋から取り出した五百万セリルを並べる。札束五つ。


「今回は私とロカの報酬になるけど、ロカが二百万セリル、私が三百万セリルね。」

「マジ、かよ……。」


 二人の琥珀の瞳が揺れる。

 あともうひと押し。

 

「当たり前の対価よ。でも、さっきロカの物は全部私ので良いって言ってたからこの五百万セリルは私の物。」

「ぬわぁ!?」


 手からフォークを落としたロカが立ち上がりテーブルを両手でバンバン叩く。

 

「詐欺だ、狡い!」

「私、あんたの借金に一千万セリル出したんですけど。これのどこが詐欺なのよ。」

「…………うス。」


 正直、今のロカに口を挟む権利はない。

 大人しく座り直したロカは落としたフォークを手に取り黙々と食事を再開した。


「それともう一つ。貴女達二人が私を手伝ってくれるなら、私も貴女達の仕事を手伝うわ。」

「仕事だと。殺しのイロハも知らないあんたがなにしてくれるっていうんだよ?」


 さっきまでの会話で二人の望みは分かってる。

 今、一番欲しいのはこれでしょ?

 

「ロカがターゲット以外殺さないよう調教してあげる。」

「ネム様、よろしくお願いします!」

「てめぇら俺を駄犬扱いしやがって!」

 

 吠えるロカは誰が見ても駄犬だろ。

 立ち上がった二人は同時にネムの前で跪く。

 

「アハハ。くるしゅうない、面をあげぃ!」

「はっ!」

「良かろう、良かろう。お前達に百万セリルずつくれてやる。これで好きな物を買うてこい。」

「ありがとう存じます。」


 ロカへの報酬は無事、渡し終えた。

 今はまだお金ありきの関係。

 でもいつか、歳の近いこの二人とは信頼で結ばれた友人になれたらいいと願う。


「でね、話は変わるんだけど。」

「なんでしょう、ネム様。」

「固いのはやめて。今まで通りにして欲しいな。」


 優しく笑うネムに二人は少し戸惑って頷いた。


「あんたがいいならそうするよ。」

「ありがとう。」

「それで話ってなんだ?」


 初めて触れた札束にチッチは浮き足だっていて、チャチャはなにを買うか既に悩んでいるように見える。

 

 さっきまでの凍りつくような雰囲気はもうない。

 部屋には和やかなコーヒーの香りが漂っていた。

 

「大したことじゃないんだけど、私をここで住まわしてくれない?」

【お願いします!】

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