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12 ネタバレ

 サルザがニーダ邸の扉を叩き出した頃。


「俺ぁなにすればいい? どうしたらいい?」

「じゃあ、ネズミになって?」


 ニーダ邸で息をする二人の人間は主従関係を結んでいた。


「ネズミってなんだぁ? なにすりゃいい?」

「ちょっと待ってて。」


 理解出来ないロカを置いてネムは叩かれる扉の元へ。目の前で止まると、床に引いてあった玄関マットをめくった。すると小窓ほどの床収納が現れた。


「そんなとこに何があんだぁ?」

「良かった、使えそう。これよ。」


 ネムが取り出したのは一丁の拳銃と色のついたの銃弾が三つ。


「信号弾?」

「そう。あんたにしてほしいのは二つ。一つ目はサルザを私が屋敷に招き入れたら屋敷の屋根から真上にこれを打ってほしい。」

「青の銃弾? 赤じゃないのか?」

 

 信号弾にはそれぞれ意味がある。

 赤は敵襲、援護要請。

 黄色はその場で待機。

 そして青色は死体回収依頼。


 これは血の気の多いウロボロン特有のもの。赤子でも知ってる常識だ。死にたくなけりゃ信号弾が上がった場所には近づかない方が良い。ただ、青色は別。


 死体回収。

 つまりは死体の身包みを勝手に剥いでいいサイン。


 普通は回収屋と浮浪者数人が数分でやって来る。

 依頼者が回収屋に金を払っている間、浮浪者が金目の物を持ち去って回収屋が死体を持っていく。


 これが通常の場合……。


 ここはニーダ邸だ。

 金目の物は山ほどある。

 死体の数によっては相当の儲けになるだろう。

 となれば、相当な浮浪者と回収屋、その他にも金が欲しい奴らがわんさかやって来るのは目に見えていた。


「…………青でいいの。」


 極め付けは、私が知る限りニーダ邸で青色の信号弾が上がった事がないということ。ニーダ邸は中立区の銀行の次に安全だと言われていたから。


 それはニーダはある貴族と協定を結んでいたおかげ。

『屈強なガードマンと貴族の家紋を貸す代わりに服の予約を優先する』という内容。

 

 ニーダ邸を襲えば必ず報復される。

 貴族の力はこの都市ではなにより強い。

 後ろ盾がない平民やマフィアが簡単に手を出せる相手ではない。だからこそ、使用人は安全に生活できた。


 どんなに安月給だろうが文句は言わず、朝から晩まで働く。そうして雇用解除されないようクオリティーの高い服を作り上げていくのだ。


 これがニーダ・クランツの作る服が一級品を保ち続けれた理由。


「みんな、ごめん。」

 

 死体の山に頭を下げ、手を合わせる。

 こんなことに意味はない。

 そんなこと、分かってる。それでも……、


「ちゃんと供養してあげれない。」

 

 ここで働く全使用人の名前を覚えているの。

 愚痴を言って、励まし合って。

 仕事漬けの日々を一緒に戦ってきた。


「それどころか私……」


 こんなあっさり殺されていい人間じゃなかった。

 そんな人、一人もいなかったのよ……。


「これからみんなに酷い仕打ちをするわ。」


 どれだけ謝罪してもしきれない。

 だから、せめて……


「恨んだままでいいから、ずっと私を見てて。」


 取り憑いたって構わない。

 貴女達が地獄に縛られないように。


「あんた達の分まで面白おかしく自由に生きてやるから。」


 魂の居どころは分からない。

 でも、確実にあるんだ。私がその証明。

 最高の特等席で観ておいて。


「なぁーにしてんのぉー?」

「なんでもない。」


 ここから始めるんだ。

 私の、私にしか出来ない芝居(リアル)を!


「二つ目のしてほしい事は信号弾を打った後、客間の天井裏に隠れておいて。私が手を二回叩いたらそこから登場するの。登場するだけ。喋らなくていい。出来るわよね?」


 覚悟は決まった。

 さぁ、開演だ……。


 そうしてニーダ邸の扉は開かれ、信号弾が発射された。

 ウキウキのロカが客間に登場し怒られて撤収。


「と、そんな感じよ。」

「…………そんな感じ、じゃなくて!!」


 ダイニングテーブルを叩いては駄々を捏ねる少女、チッチが激しく抗議する。


「あたいが知りたいのはその後だ。信号弾が打ち上がった事ぐらい知ってるさ。観てたしな。」

「あらそう。」


 貴族と協定を結んだ時に貰ったと言っていたあの信号弾は思っていた以上に光り輝いたらしい。

 現にネムはニーダ邸に押しかけて来るのはせいぜいニ、三十人程度と予測していた。


 だが、蓋を開けてみてびっくり。

 五十人以上の人が押しかけた。


「どうやったんだよ、早く教えろ!」

「どうって、ここからはもっと簡単なのよ。」


 そう、話はとても簡単。


 何も知らないサルザの部下が敵襲と勘違いし、客間に乱入。焦って視界が狭くなったサルザから、物を盗むなんて容易だった。


「小切手はその時に貰ったの。」

「あんた、手癖悪いな。」

「ありがと。」

「…………褒めてないっての。」

 

 そうして早く裏口から逃げ出すように誘導。

 その後ロカと遊びと称して駆け込んだランドリールームでメイド用の白いエプロンにアイロンをかけ拝借。


 エントランスに戻ってロカが短剣を集めてる間にチャコペンで白いエプロンに文字を書いた。


『この死体の山の回収をしろ。すぐに戻る。 サルザ・ヒューズ』


 小切手に書かれたサインを元に筆跡を寄せて。

 それを死体の山の前に短剣で刺しておけば、犯人の出来上がり。前金代わりに小切手と一緒に盗んだライターを置いておけば完璧だ。

 

 山の中にはニーダの死体もあるのだから。


「知ってる? チャコペンって熱い布に書くとインクが滲んで洗濯しても消えなくなるのよ。」


 証拠は置いて来た。

 この都市に物好きな探偵はいない。

 サルザは騙されたと分かれば必ずニーダ邸に帰ってくる。メイドを捕まえる手がかりはここにしかないから。

 

 そしてようやく気づくのだ。

 ニーダを殺した犯人に仕立て上げられた事。

 小切手を騙し取られていた事に。

 

 なすりつけられたけ罪を払拭するには私たち二人を捕まえるしかないが、それも失敗に終わっている。


「それでサルザがニーダを殺した事になってたのか。」

「そーゆーこと。」


 ただ一つ、解せない事はある。


「ねぇ、チッチ。貴女はニーダが貴族と協定を結んでいたの知ってた?」


 サルザがなぜニーダ邸を襲うという強行に出たのか。


「ああ。もちろんだ。あたいらは殺し屋協会に所属してるから色んな情報は手に入る。」

 

 ウロボロンは一つの都市ではあるがかなり広い。

 違う地区から来たから知らなかったのか。

 もしくは……。


「サルザが他の貴族の恩恵を受けていたって話は?」

「知らねぇーな。」

「因みにロカはニーダのこと知ってたの?」

「あの馬鹿が知るわけねぇーだろ。」

「…………。」


 ロカは馬鹿。

 サルザはなにか思惑があったのかもしれない。

 なら、デメリットをメリットに変えましょう。


「私、ロカ飼い主やるよ。」

「ネムサイコー。すきぃー。」


 キッチンから香る美味しそうに匂いに釣られて目を覚ましたロカがあくびしながら抱きついてくる。「離れて」と催促するもロカの馬鹿力は健在。なにをしてもびくともしない。

 

「それはよかった。だが金は?」

「ロカ、離れなさい。お金出すから。」

「あっ、そうだ。盗んだ金はどこいったんだ!?」


 金のこと忘れてたな。

 どれだけ無頓着なのか。ため息が出る。


「ここよ。」

「ギャァァァ!!!」


 椅子から立ち上がったネムはネイビーブルーのドレスの裾を掴んで大胆にも腰まで捲り上げた。


「ネ、ネネネム、なにやってんだ!?」

「なにって、」

「チッチ目をつぶれ! ハレンチが移るぞ!」

「移るか!」


 耳まで真っ赤にして両手で顔を隠しながら、両目のところだけはしっかり空けて。赤い瞳はネムの太ももをガン見していた。


「お金はここにある。」


 ネムの腰にはグルリと袋が巻きつけられている。それはニーダ邸から服を入れて持ってきていたもの。そして銀行で金を詰め込んだ袋だ。


「借金の毎月の返済額は?」

「そうだな……、払えるならニ百万セリル。」

「じゃあ五ヶ月分の一千万セリル払う。」


 ダイニングテーブルに置かれた札束。

 チッチは吹っかけたつもりだったのだろう。しかし、ネムが一枚上手だった。


「文句、ないわよね?」

「…………ああ。」

「だったら次は貴女達二人の事を教えてよ。」


 キッチンから料理の乗った皿を両手に抱えたチャチャが現れ、無言のままダイニングテーブルを置いた。彼はこちらを振り向くとやはり無言のまま、笑みをうかべるだけ。


「さっきの説明に貴女達二人の情報が一切なかった。」

「…………隠していたつもりはないんだ。」


 ロカは細いけど身体はがっしりしている。殺しをする為に鍛え抜かれた身体だ。それに比べて二人は細過ぎる。


 骨と皮だけ。あまりに貧相。

 殺し屋ランキング上位と下位の差なのか。

 どうしても二人は殺し屋には見えない。


「あたいらは欠陥品の弱虫(ウィンピー)だ。」

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