10 茶色の二人の行き先は
眠気が、やばいっす………
もう限界。20時まで待てまんした
投稿します、明日からもこんくらいの時間でいきたいっす
「なぁ、飯くわねぇ?」
銀行から悠々と逃げ出した二人。気が抜けたロカが「腹減った」と腹を抑える。
「そうね。何処かいい店知らない?」
都市は相も変わらず喧騒に包まれ、更にはマフィアのゴロツキ共が「赤髪のメイドを探せ」と吠え回っていた。
「知ってるぜ。いい店。」
「グヘェッ。」
並んで歩く二人の背後から声。聞き覚えがあった。
マフィアのボス、サルザは見抜くことの出来なかったネムの変装を容易に暴く茶色の二人組。
やはり気配はなく、声がした次の瞬間、隣にいたはずのロカは地面に倒れ、潰されたカエルみたいな音を上げていた。
「ここらじゃ落ち着いて飯も食えねぇだろ。あたいらならいい場所知ってるぜ。どーするよ。」
現れた焦茶色の髪と琥珀色の瞳をした男と少女。
チャチャとチッチだ。
――そうだった。まだ問題は残っていた。
今日は本当についていない。
殺されかけて騙して大金盗んで芝居して。
これでもかってぐらい密度が濃いのに更にイベント増やしてどうするつもりよ。
「ハァ……。」
ため息を吐くネムの隣には出会った時と変わらず無言で優しそうな笑みを崩さない不気味なチャチャと、歳に似合わない人を見透かしたような瞳でこちらをじっと見つめるチッチが返答を待っていた。
「一応聞くけど、そこって爆発しない?」
ウロボロンの飲食店は八割が急に無くなる。
理由は様々だが、とにかくすぐに爆発する。
「爆発しないし偽造食品や謎の肉と骨がでてくる心配もない。安心安全を売りにしてる良心的な店さ。」
「良いわね、それ。連れてって。」
「あいよ。」
ロカの背後を簡単に取れるほどの実力。
私なんていつでも殺せたはずだ。それをしないという事は、この二人は私を殺すつもりがないのだろう。どういう意図が分からないが、安全なのであれば話してみるのも悪くない。どうせ帰る家もない。
茶色の二人が先に歩き出すとようやく立ち上がり、キャンキャン騒ぎうるさいロカと共にゴミと死体が積もる都市の中、後を追った。
「ここだよ。」
「………………ここ?」
案内されたのは細い路地裏を何度か曲がった先に現れた荒屋だった。
ギリギリ小さな一軒家として形を保ってはいるものの、屋根は半分ほどしかなく、壁にも銃弾で空いたような小さく丸い穴が沢山ある。
「解体豚小屋ブッチぶち……?」
どこよりもくたびれたネオンサインを補うように裸電球が申し訳程度に光り、扉の横に置かれた腐った板に『解体豚小屋ブッチぶち』の文字が微かに見えた。
看板が看板として機能していないこんな店、ウロボロンで正気のある奴はまず近づかない。
「見た目はアレだが店内もそうだから気にすんな。ほらほら、止まってないで入るぞ。」
お世辞にも飲食店として営業しているとは思えない。危ない薬売買の店と言われた方がまだ納得できる。
「私やっぱり…………」
帰る、そう言い終わる前にチャチャによって開けられた扉から、一人の男が出てきた。
「……おや? おやおやおや?」
いかにも怪しい痩せ男。
メガネに長く伸びた灰色の髪を三つ編みに。
服から出ている四肢のあちこちに入れ墨があり、首に這う蛇が不気味さを際立たせる。
「茶色ズのお客かい? それとも金に困ってんのかい?」
舌が長くなんでも飲み込んでしまいそうな男はこちらが口を開けるよりも先に喋りだした。
「どうだい、『解体豚小屋ブッチぶち』で片目売っていけよ。ここらじゃ一番良心的さ。金払いはいいし、解体だって痛くないように思いっきりぶっ叩いて気絶してる内に済ませてやれるぜ。」
解体? なんのこと?
ここは飲食店じゃないの?
「観てくだけでも良いから。店内でドブ水ぐらい出してやるし、な。店ん中入ろーぜ。」
「いや、私達は……、」
「遠慮するなって。ドブ水って言ってもうちのは高級なドブ水さ。ちぃとばかり臭ぇが濾過する一歩前の良い状態よ。悪かないだろ?」
「いやだから……!」
なんというマシンガントーク。
こっちの話を聞く気もない。
「そうさ、悪くない。あんたらは金が貰える、俺も貰える。ハッピー循環、超サイコーだろ。」
ロカは関わりたくないのかこちらを見向きもしない。
執事としても忠誠心はどこ行った。いや、最初からそんなものはなかったか。
「ブッチブッチ鳴らせ〜、ブーブーブー。解体、加工、販売なんでもブヒブヒ、超ハッピ〜。楽しい夢見て身体置いけ、豚になれ。」
「…………なに、その歌。」
「こりゃー、店のオリジナルソングよ。最悪だろ。」
いや、問題はそこじゃない。
どんどん近づいてくる蛇男に後退る。
「店のBGMはこれ一つで年中無休のエンドレスリピート再生なのさ。従業員は強制的に覚えさせられる仕様でね。慣れてしまえば鼻歌に持ってこい、慣れるまではブーブーが頭から消えず悪夢に直結するデバフ効果に悩まされる。はっきり言って最悪の仕様さね。」
だから問題はそこじゃない。
ここは明らかに飲食店じゃない!
正真正銘の解体屋じゃねーか!!
「ねぇ、チッチ。ここ本当に大丈夫なの!?」
「アヒャヒャ。ウロボロンに大丈夫なもんがある訳ねぇだろ。」
チャイナ服風の服に身を包み、腹抱えて笑う蛇男。
誰でもいいからこいつを止めてくれと願う。
「ハオさん、その辺にして。こいつらはあたいらの。」
「……ああ、そうかい。こりゃ失敬。」
チッチの声でようやっとハオと呼ばれた男が止まった。
チャチャは相変わらずの笑顔のまま、店内から手招きしていた。
「ねぇ、やっぱり帰るって選択肢、ある?」
「ないねぇ〜。ほらほら二人ともお入りよ。」
強引にハオに背中を押されて『解体豚小屋ブッチぶち』に足を踏み入れる事になった。
店内は外と同じで薄暗く、バーラウンジのような大きなカウンターが中央を陣取っている。
物はそれだけ。あとは左右に扉が二つ。響くはハオが歌っていたBGMと何かを叩くような音。
部屋の隅に溜まった埃。
床に飛び散るなにかのシミ。
それら全てが気味悪い。
「店長ー。肉と野菜、よろしく。」
ピョンっとうさぎみたくチャチャの背から降りたチッチがカウンター越しに叫ぶと叩く音が止まり、カウンターの奥から血塗れで大柄の男が斧を持って現れた。
作業帽に髪を全てしまい、薄い色のサングラスに真っ黒のマスク。顔の情報が一切ないが、放つオーラは只者じゃない。
「おお、チッチ。おかえり。今日は良い肉入ってるぜ。ちょっと待ってな。」
「美味しいのだかんね!」
「おうよ。任せな。」
喋ると雰囲気がだいぶ変わる大男。
あとは清潔な服を着て手に持った斧を置いてくれれば気のいい人に見えるのに。残念ながらここにいる奴ら全員アウトローなのだ。そんな望みが叶う事はない。
「案外優しい人、なの?」
「店長は良い奴だ。」
「……え、待って。ロカはその店長も知り合い?」
大人しいと思っていたらそういうことか。
「ああ。やばいのはあっち。ハオの方。」
店の扉の前に立つハオを指差す。
当の本人はなぜか嬉しそうにこちらに手を振っていた。
「なるほど。ロカは私がハオって奴に絡まれるの知ってて無視してたのね。」
「…………い、いやぁ〜。チガウ。無視チガウ。」
明らかに視線を逸らすロカを睨む。
「ロカ、こっち見なさい。」
「…………。」
「ロカ。」
「だ、だってハオはやべぇんだ。あいつはずっと一人で喋ってるし捕まるとすげぇー長い。すぐに俺の心読むし、正直関わりたくない。」
要は私に押し付けたのね。
もじもじする駄犬にため息が出る。
「二人とも、こっちだ。行くぞ。」
いつの間には大量の肉と野菜を持ったチッチとチャチャが室内にあった右の扉を開けて待っていた。
扉の向こうは地下に繋がる階段だけ。
チッチの持っているランタン一つの灯りを頼りに進む。
長く一本道の階段を降りた先にまた一つの扉があり、開けると生活感の空間が広がっていた。
「ようこそ。あたいらの隠れ家へ。」
「二人の、家?」
「そうさ。飯はチャチャが作る。どこぞの野郎が作るよか安心だろ。」
上の豚小屋からは想像出来ない程、綺麗に掃除された居心地の良い空間。ニーダ邸よりだいぶ小さいし天井だって低いがこちらの方が好きだと感じる。
「まぁ、こっちに座れよ。話そうぜ。」
確かにここなら安心して話が出来そうだ。
チッチに案内されたダイニングテーブルに座り、チャチャはやはり一言も喋らず肉と野菜を持ってキッチンに向かった。
「チャチャが作ってる間に、まずは自己紹介から。あたいはチッチ。キッチンにいるのがチャチャ。よろしくね。」
「ネムよ。よろしく。」
差し出された手を握り握手を交わす。小さな手のひらには硬くなったマメが幾つか出来ていた。
「で、本題。あたいらの事をどのぐらい知ってる?」
「どのぐらいもなにも、全く知らないわ。」
だいたいの予測はしてる。
でもちゃんと知るために着いてきたんだ。
ロカを騙して逃げるか、そばに置いてこき使うか。見極める為に……。
「ふむ。あたいらは殺し屋協会に所属してる。」
やっぱりそうか。答えは予測通りだった。
ウロボロンでの高級取りの一つ。
悪人ばかりのここでプロを名乗れるのは協会に所属しているごく僅か。彼らは高いスキルと身体能力を持っているとか。半信半疑だったがロカに出会ってそれは確信に変わった。
「で、あんたの隣にいるシロアカは協会内の殺し屋ランキング第三位。若手のトップだな。」
振り向くとロカはニヤニヤとこちらを見ていた。
これも想定内。あの強さは人間離れし過ぎていたし、逆にロカの上に二人いる事にびっくりだ。
「まぁ、驚くほどの真実はないわね。」
「そうか? じゃあこれも伝えないとな。」
「まだなにか?」
チッチはタンスから丸められた紙を取り出し、ダイニングテーブルに広げた。
「これは? なにかのランキング?」
どうやら数字の羅列と名前が書かれているらしく、その一番上にロカの名前があった。
「これは借金ランキング。」
「…………はぁ?」
「ロカがダントツの一位なの。」
さっきまでニヤニヤしていたロカからどんどん表情が消えていく。
「借金二億セリル。それをネムに肩代わりしてもらう。」
【お願いします!】
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただけると幸いです。
皆様のブックマークと評価が日々のモチベーションと今後の更新の励みになります(〃ω〃)
ぜひ、よろしくお願いいたします!!