対話
「……民が望まない限り、私は手を下さない。しかし君たちの声もまた民意だ。君たちからの話も、うかがっておこう」
それが玲威の第一声だった。元より民意を重んじる彼には、民の声に耳を傾ける意思がある。それは天才ハッカーに見抜かれていたことでもある。
「ククッ……ハッキング完了だぁ。アタシたちは、御神玲威の行動を操ったんだぁ」
サニーはそう言い放った。ここまでの流れは、全て彼女の計算通りだったようだ。
花蓮は驚いている。
「最初から……そのつもりだったの?」
無論、その質問の答えはわかりきっている。サニーはこの局面に至るまでに、全てを筋書き通りに進めてきたのだ。それを冷静に分析するのは、吾郎だ。
「驚いた。要するに、僕も、花蓮も、そして御神玲威も、サニーの掌で踊らされていたというわけか」
今二人のそばにいる少女は、ただのハッカーではない。正真正銘、サニーは天才ハッカーなのだ。
そんな天才は今、地球国の支配者と話している。
「それで、アタシたちの声が知りたい――だったかぁ? そんなモン、オメェは薄々わかってるんじゃねぇかぁ?」
「何……?」
「気づいてるんだろぉ? 楽園システムには大きな欠陥があり、多数派だけが暴利をむさぼる仕組みを生み出してるってよぉ」
歯に衣着せぬ物言いだ。さりとて、玲威は楽園主義を批判されることに慣れている。そもそも、彼の秘書は反楽園主義者だ。
「ご挨拶だな。私の生み出した楽園に、何か不満でもあるのか?」
そう訊ねた玲威は、怪訝な顔をしていた。されどサニーは引き下がらない。
「逆に聞くけどよぉ、オメェには不満はねぇのかぁ? オメェは何をもってして、この仕組みを正当化できると思っているんだぁ?」
「皆が正しいと思うことが正しい。昔も今も……な」
両者ともに、一歩も譲らぬ舌戦だった。しかし玲威を説き伏せることは、そう容易なことではない。サニーはため息をつき、彼に問う。
「そっかぁ。ところでよぉ、オメェは普段、誰と最も話してるんだぁ? そいつとも話をさせてもらいてぇなぁ」
闇雲に対話を続けたところで、何かが変わる様子はない――そう判断した彼女は、玲威をよく知る人物の見解を知ろうとしていた。
「……いいだろう」
一先ず、玲威はそのことを了承した。モニター越しに、弓狩が姿を現す。
「秘書を務めております……水澤弓狩です」
「サニー・ロックバードだぁ。んで、コイツらはアタシの友達ってとこかなぁ。ところでよぉ、一つ聞きてぇことがあってさぁ」
「どうぞ」
あの楽園主義者とは違い、この女には話が通じそうだ。そう確信したサニーは、さっそく情報を聞き出す。
「御神玲威は何かさぁ、オメェと話す時に自己暗示のようなことをしてねぇかぁ?」
「……薄々そんな気はします。何かが首相の心に引っ掛かっていそうな――そんな印象です」
「オッケーだぁ。まぁ、アタシはハッカーなんでねぇ。御神玲威の心に潜む闇も、ハッキングしちゃうよぉ」
それが上手くいくか否かは、まだ誰にもわからない。それでも花蓮と吾郎は、彼女を信じることにした。そして、弓狩もこの天才ハッカーを信じている。
「お願いします。私は秘書を務めてはおりますが、楽園主義には反対しておりますので」
この時、弓狩は希望を抱いた。今彼女と話している少女であれば、楽園主義国家を変えることができるかも知れないのだ。
さっそく、サニーは核心に迫る。
「ククッ……話のわかる姉ちゃんだなぁ。さぁ首相、話してみろよぉ。オメェに『多数派が正しい』と囁いてる強迫観念はよぉ、なにゆえに生まれちまったんだぁ?」
当然ながら、彼女は玲威の過去を知っているわけではない。されど、あの男の思想を構築した何らかの外的要因の存在は、彼女には予測できていた。




