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楽園に非ざる星  作者: やばくない奴
記憶と理念
40/51

同調圧力

 玲威(れい)が中学生の頃、クラスでは「バトル少年院」というアニメが流行っていた。当時、教室内はその話で持ち切りだったため、玲威もそのアニメを見てみたことがある。その内容は、彼の興味を惹くものではなかった。


 彼の友人たちの中でも、彼がバトル少年院を知っていることが大前提となっていた。クラスでそのアニメを見ていない者が、ごく少数だったからだ。

「玲威は、昨日のバトル少年院、見た?」

「昨日も凄かったよな! カッター男の正体が……おっと、見てなかったらネタバレになっちまうか!」

「あのアニメはスゲェよ! 毎週の楽しみなんだ!」

 友人たちも皆、バトル少年院に熱中していた。しかし玲威にとっては、そのアニメは自分の趣味ではない。

「ああ、いや……俺は三話までしか見てないんだ」

 一応、彼は第三話までアニメを見ていた。その上で、彼はその内容が自分の好みではないと判断したようだ。

「おい、正気かよ!」

「なんでだよ! そこから面白くなるのに!」

「もったいねぇ! 人生の半分くらい損してるじゃん!」

 彼らは悪い友人ではなかったが、玲威の理解者にはなり得なかった。そんな彼らに対し、玲威はこう訊ねる。

「じゃあ、お前らはなんで、バトル少年院を見ているんだ?」

 無論、その質問に他意はなかった。そして、友人たちもそれを理解していた。そこで彼らは答える。

「皆が面白いって言ってるからだよ」

「そうそう、皆見てるんだよな」

「毎週あれを見ないと、話についていけなくってさ」

 おおよそ、それは玲威の求めていた回答ではなかった。同時に、それは彼が薄々感づいていた答えでもあった。結局、正義や善悪だけでなく、エンタメの質も多数派が選んでいるのだろう――そう感じた玲威は、愛想笑いを浮かべるばかりであった。



 別の日、玲威は校内の人だかりから、囁き声を聞きつけた。少しばかり、彼は聞き耳を立ててみることにする。

「アイツ本当にウゼェよな。絶対さぁ、センコーに媚びてるじゃん」

「後アイツ、女子と話す時だけ、露骨に反応が違うんだよな。アレ、マジでキモくねぇ?」

「ゆうかさん、おはようございます。石川啄木の詩集、なかなか面白かったですよ」

「ちょっとやめろよ。アイツの真似すんなって」

「お前本当上手いよなぁ」

 何やら、このグループは特定の生徒を貶める話をしているようだ。正義感の強い玲威には、それが何となく許せない。

「あまり人のことを悪く言うな。学び舎に未熟者が集うのは当然だろう。俺たちは、まだ学んでいる途中で、誰一人として完璧ではないんだ」

 気づけば、彼は口を出していた。当然ながら、生徒たちは彼の言いなりになどならない。

「そんなつまんねぇこと言うなよ」

「そうだよ。皆アイツのこと嫌ってるよ?」

「女子からもゴキブリって呼ばれてたしな」

 それが彼らの答えであった。数人の意見は一致しており、それに反対する者はこの場に一人――玲威しかいない。どこまでいっても、人数がものを言うようだ。玲威は深いため息をつき、その場を後にした。



 後日、教師の都合により、授業が自習の時間になった。他の生徒はトランプゲームをするか、あるいは雑談を楽しんでいた。その中で唯一、教科書や参考書を読んでいたのは、玲威一人だけであった。そんな彼に、同級生が声をかける。

「御神は真面目だな。皆ダラダラしてんのに。はぁ、だりぃなぁ」

 もはや学業に励むべき時間にさえ、それを覆す同調圧力が生じていた。それで生徒たちが学力を身に着けられなくとも、それは自己責任だ。ただそれだけの話だったが、玲威は頭を抱えていた。彼の脳裏には、先日のグループが特定の生徒の陰口を言っていた場面が繰り返されていた。同時に、彼は自らの脳内で繰り返す。


――皆が正しいと思うことは正しい。

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