十人の同志
一方、九龍はあることを不審に思っていた。彼は三日間、ジョニーとの連絡を試みた。しかし、二人の通話がつながる様子はなかった。一先ず、九龍はジョニーの家を訪ねてみた。扉の開け放された玄関から見える廊下は、生活の痕跡を残している。一応、九龍はインターホンを鳴らしてみた。しかし、彼を出迎える者は誰もいない。続いて、彼は大声を張り上げてみる。
「ジョニー! いるか! いたら返事をしてくれ!」
無論、親友の声は返ってこない。何から何まで不自然だ。不安を感じた九龍は、すぐに交番へと向かった。
制服に身を包んだ警官たちに対し、九龍は話を切り出す。
「僕は李九龍。ジョニー・ドロップという男を探している」
「ほう、ジョニー・ドロップという男を……」
「ジョニーとは三日も連絡がつかないし、家も、もぬけの殻だった。何があったのか、調べてほしい。ジョニーが無事なのかを知りたい」
この青年はまだ多くを知らないのだ。ジョニーが国家反逆罪とみなされたことも、離島の監獄にいることも、教育プログラムを受けていることも、彼はまるで知らないのだ。
そこで警官は、ジョニーの現状を伝える。
「ジョニーなら、今は離島の監獄にいる。奴は祖国を批判するような記事を発信し、更には祖国の情報を外部に発信していた。奴は、国家反逆罪を犯したんだ」
この時になって、九龍はようやくジョニーが獄中にいることを知った。彼の中で、やるせない怒りがこみあげていく。
「教育プログラムというのは、どんなことをするんだ?」
「簡単に言えば、主体性を破壊するんだ。国を害する者は、主体性を持つに値しない。主体性に呑まれて正義を見失う人間には、主体性などというものは必要ないからな」
「……解放しろ」
「え?」
「今すぐに、ジョニーを解放しろ!」
ついに九龍は怒号をあげた。その目は血走っており、理性を欠いたものであった。この時、彼は警官に殴りかかろうとしていた。しかし、それは正しい戦い方ではない。握りこぶしを作った段階で、九龍はそのことに気づいた。間一髪のところで、彼は警官を殴らなかったのだ。無論、彼は決して泣き寝入りをするわけではない。
その後、帰宅した九龍はデモ隊を募集するチラシを作り続けた。電子媒体で募集をかければ、ネットワーク上に履歴が残ってしまう。単なる文書ファイルであっても、監視されている可能性は否定できない。ゆえに彼は、紙に油性ペンで字を書いている。やがて百枚近くのチラシが完成した。しかし、白昼堂々と隊員を募集するわけにはいかない。彼は一先ず、好機を待つことにした。
街が寝静まったころ、九龍は住宅街を練り歩き始めた。手当たり次第に、彼はドアポストにチラシを投函していく。これは地道な作業だが、他に手段はない。デジタル媒体を用いた活動では、監視の目を逃れられないからだ。当然、この活動が成功する可能性は極めて低い。言うならば、九龍は「何かしらの行動」を起こさなければ気が済まない状態なのだ。不満がある――それだけで、行動するには十分すぎるのだ。
――一週間後、十人のメンバーがデモ隊に加わった。
彼らは皆、武器を構えている。そして、それは妥当な自衛でもある。おそらくこの国の軍隊も、デモ隊を武力で鎮圧することにはなんの抵抗もないだろう。当然、九龍も武装している。
「思ったよりは集まったね。僕たちはレジスト軍ほどの人員を確保できなかったかも知れないけど、それでも心は一つだ。少数先鋭で、戦っていこう」
傍目に見て、彼は無謀を極めていた。それでも、ここに集まった十人も同じ気持ちだ。
「打倒サムだ!」
「情報統制反対!」
「言論の自由を!」
この時、彼らは皆、根拠のない全能感に浸っていた。
その全能感は、彼らの身を滅ぼすこととなる。




