表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽園に非ざる星  作者: やばくない奴
しわ寄せ
23/51

孤児の利便性

 人々の欲望は留まるところを知らない。財政に余裕が生まれれば、彼らは更なる支給金を望む。世界が再び財政赤字に直面するまで、そう時間はかからなかった。

「午後八時になりました。ニュースをお伝えします。ベーシックインカムの更なる値上げにより、地球国は再び財政赤字を抱えているもようです。専門家の話によると、このままでは今度こそ世界経済が破綻する見込みであるとのことです」

 刑務所を潰し、犯罪者を軒並み死刑にしてもなお、十分な財源は確保できない。何故なら、庶民の欲望に果てなど存在しないからだ。その上、庶民の多くは専門家の話を宛にしない。彼らが耳を傾ける相手は、より簡潔かつ刺激的な言葉を操る「素人」なのだ。


 その素人のうちの一人――川代一郎(かわしろいちろう)は、今日も動画を配信する。

「ああ、投げ銭ありがとう。えーっと、一郎さん、いつも配信を楽しみにしています。一郎さんの言った通り、犯罪者を死刑にするだけで財源が確保できて、本当に凄いと思いました。次は何を削れば、財政に余裕が出来ると思いますか?」

 やはり彼は、リスナーに信頼されている。彼は概ね非人道的な発想を口にする男だが、それがむしろリスナーたちを喜ばせている節はある。美しいものを否定し、醜いものを称えることが、賢者の証となる――そんな根も葉もない信仰が、この世には確かに横行しているのだ。


 醜さを愛し、それを「現実」と呼ぶ者たち――その集団を喜ばせる言葉を、一郎はよく理解している。

「俺思うんだよね。児童養護施設って、税金の無駄じゃないの? お金を稼ぐ能力のない人が子供を作っちゃってさぁ、その子供を捨てちゃってさぁ、才能の種にすら恵まれなかった子供が限界集落みたいな施設で生活してさぁ、それって将来性が無いよね」

 確かに、児童養護施設を潰せば、財源を確保しやすくはなるだろう。しかしそれは、どうあがいても人道的な方法ではない。彼は明らかに、他者の命を道具か何かだと感じている人間だ。


 そして当然のごとく、リスナーたちは彼の物言いを賛美する。

「どうせ苦しむガキを税金で生かしておくのは大人のエゴだもんな」

「一郎さんは相変わらず冴えてるな」

「実際、将来性のない人間を生かしておくことって、生かされてる本人も含めて誰も得しない」

 元より、楽園システムは社会的弱者からネット環境を奪っている。可視化される声は、ある程度の地位や生活を保障された者たちの声だけだ。そんな彼らのコメントを斜め読みしながら、一郎は持論の展開を続ける。

「だったら、金目当ての大人がその孤児を引き取っても同じじゃないの? ベーシックインカムは国民一人一人に支給されるお金なんだから、孤児を引き取れば貰えるお金も増えるわけでしょ? つまり孤児が路頭に迷う心配だってないし、ウィンウィンだよ」

 たちの悪いことに、彼の言い分は間違いではなかった。ベーシックインカムの金額が高くなっている今、孤児を引き取ることは経済的な利益につながるのだ。通例、道徳を重んじる人間は、金のためだけに孤児を置物として引き取るような真似はしないだろう。されど今の世界は、楽園主義国家だ。大衆の私利私欲が正当化され、反映される社会において、今更孤児から搾取することをためらう者はほとんどいない。

「財政に余裕が生まれるし、国民はより文化的な生活を送るためのお金を得られるし、一石二鳥だと思うんだよね」

 そう付け加えた一郎は、得意気に笑っていた。チャット欄は相変わらず、彼を称賛するコメントで溢れ返る。

「美辞麗句で体裁を繕っているコンプラゾンビどもからは絶対に出てこない正論」

「綺麗事をのたまう人もいるけど、真実って結局これなんだよな」

「児童養護施設とかいう箱、元々その場しのぎでしかないもんな……」

 このまま民意が操られれば、世界中の孤児が搾取されることになるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ