荒野にポツンと建つ店
その店は奇妙な事に、瓦礫が散乱する荒野の真ん中にポツンと建っていた。
経営者が同じなのか、コンビニと高い煙突がそびえ立つ銭湯が背中合わせになっている。
背中合わせに建っているコンビニ側の自動ドアが開き、ピンポーンと来客を知らせる呼び鈴が店舗の中に響く。
「「いらっしゃいませ!」」
コンビニの中に足を踏み入れた若い男性客に、2人の女性店員が一緒に声をかけた。
「いやー凄い風だね。
風が運んでくる砂埃のせいで視界が悪く、辛うじてこの店の看板だけが見えたんだ。
助かったよ」
店に入ってきた若い男性客は近くにいた店員に声をかける。
「ニュースで言っていましたけど、低気圧が発達して暫く強風が吹き荒れるらしいですよ。
天気が回復するまで、裏の銭湯で砂埃を洗い流したらいかがですか?」
「え、銭湯? って?」
銭湯と聞き疑問の声を上げた男性客の後ろからも声がかけられた。
「お客様! そうしましょうよ。
暫くこの強風は続くみたいですから」
2人の女性店員は若い男性客の好みにピッタリ当てはまる、20歳前後の巨乳で綺麗な女の子たち。
2人の女性店員は若い男性客を挟み込み、両側から若い男性客の腕に胸を押し付け銭湯に誘う。
若い男性客は鼻の下を伸ばして2人の女性店員に腕をとられ、引きずられるように銭湯に通じるドアに入って行った。
• • • • •
店の外は横殴りの豪雨。
コンビニの自動ドアがピンポーンという来客を告げる音と共に開く、開いた自動ドアから土砂降りの大粒の雨と一緒に20代後半の女性が飛び込んで来た。
「「いらっしゃいませ!」」
コンビニの中に飛び込んで来た女性客に、コンビニ内の男性店員2人が声をそろえて声をかける。
「もうちょっとで家に着くところだったのに、急に雨が降り出すんだもの。
このお店があって助かったわ。
でもこのお店、前からあったかしら?
ねえ、このお店何時出来たの?」
女性客は彼女の下に近寄って来た店員に声をかけた。
「つい最近です」
女性客は返事を返してきた店員の顔を見てそのルックスに見とれてしまう。
年の頃20代半ばの細身の長身に甘いマスク、その甘いマスクに笑顔を浮かべて店員は女性客に話しかけ続ける。
「近場だとタクシーも来てくれないでしょうから、お風呂に入っていったらどうですか?」
「お風呂って? どういう事?」
「この店の裏側と言うか背中合わせに銭湯が建っているのです」
「へー、そうなんだ、どうしようかな?」
「2~3時間お風呂で時間をつぶせば、雨も上がっているのではないですか?」
思案する女性客に後ろから別な店員が声をかけた。
振り返った女性客の目に映ったのは年齢は30前後だが前側にいる男性店員と同じようなルックスで、それに渋みをミックスしたような美男子。
女性客は2人の男性店員に手をとられて、銭湯に続くドアの向こう側に足を踏み入れた。
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店の外は真っ暗な闇が広がっていた。
ピンポーンと来客を告げる音と共にコンビニの自動ドアが開き、60代後半から70代前半くらいの年齢の老人がコンビニの中に入って来る。
「「いらっしゃいませ」」
コンビニに入って来た老人の耳に2つの幼い子供の声が聞こえた。
「家に向かって歩いていた筈なのだが、周りが暗くなりすぎて道に迷ってしまった。
暫く休ませて貰って良いかね?」
10歳前後くらいの年齢の女の子が椅子を持ってきて、老人の前に置き座るように勧める。
「どうぞお座り下さい。
さっき通り過ぎて行った消防車が鐘を鳴らしながら放送していましたが、ここら辺一帯停電になっているらしいです。
家の店は自家発電があるので電灯が灯ったままですけど」
「見たところ君と弟さんかな? の2人しか見当たらないけど、大人の店員さんかご両親はいないのかい?」
「両親は停電になったとき偶々来店していた、常連のお爺さんやお婆さんを車で送って行ったのです。
直ぐ帰ってくると言っていたのですが、渋滞にでも巻き込まれたのかまだ帰ってこないのです」
そのとき老人は後ろから幼い声で話しかけられた。
「お爺ちゃん、お風呂入りませんか?」
振り返った老人が返事を返す前に女の子が男の子を叱る。
「お爺ちゃんじゃないでしょ!
お客様って言いなさい」
「イヤイヤお爺ちゃんで構わないよ。
それよりお風呂って、どう言う事?」
「コンビニの裏に銭湯があるのです。
両親が帰ってくるまで、お風呂に入っておられたらどうですか?
時間潰しになるし、疲れもとれますから」
「うーん……そうだね、お風呂に入らせてもらおうか」
「僕、背中流します」
老人は4〜5歳ぐらいの男の子に手を引かれて銭湯に向かった。
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ピンポーンという音と共にコンビニの自動ドアが開き、3歳ぐらいの幼い女の子が泣きながら店の中に入って来た。
「エーンエンエンおがあざーん」
女の子に女性店員が駆け寄る。
「どうしたの? 大丈夫? お母さんとはぐれたの?」
幼い女の子は店員に話しかけられて泣きながら話す。
「おがあざんとね、ヒック、おててを、おててをつないでいたのに、グス、おがあざんが、おがあざんがいないのー、ヒック、いなくなっちゃったのー、おがあざーんエーン」
幼い女の子の顔と手足それに服は母親を探している間にあちらこちらで転んだのか、泥だらけだった。
「分かった、小母さんも一緒にお母さんを探してあげる」
「グス、ほ、ほんとに? グスグス、いっしょにおがあざんをさがしてくれるの? グス」
「本当に一緒に探してあげる。
でも顔やお洋服が泥で汚れているからあなたのお母さんがあなたに気が付かないかも知れない、だから先にお風呂に入ってから探しに行きましょう」
「おふろに? グス」
「ウン、そう、お風呂に入ってから探しに行きましょう」
女性店員は幼い女の子の手を引き銭湯に向かう。
心地よい湯加減の風呂に浸かり、幼い女の子は安心したのか泣き止んだ。
女性店員が話しかける。
「お母さんと逸れたとき何があったか覚えている?」
「うーんとね、おかあさんとおとうさんとおねえちゃんとね、おかいものしてたの。
そしたらね、まわりにいたひとたちみんなが、おそらをゆびさしてさけびだしたの。
まわりがパァーってあかるくなって、まぶしくておめめをギュッーとつぶったの、それから、すこししてからおめめをあけたら、おかあさんもだれもいなかったの。
グス、おかあさーん」
「目を瞑った時、身体が熱くならなかった?」
「え? あ、うん、すごくあつかった」
「あのね、良く聞いて、あなたはその時亡くなったの」
「え?」
「向こう岸を見てごらんなさい。
向こう岸で手を振っているの、お母さんじゃない?」
2人が浸かっていた風呂は何時の間にか大きな川になっていて、向こう岸で数人の男女が手を振っている。
「あ! おかあさんだぁー」
母親を見つけた幼い女の子が向こう岸に向けて走り出そうとするのを女性店員は優しく抱き止め、何時の間にか直ぐ傍に漕ぎ寄せられた船の船頭に女の子を託す。
核爆弾の爆心地の直下にいて一瞬で蒸発した為に自分が死んだ事に気が付かず、核戦争で滅んだ世界を彷徨っている霊を回収する事を目的としてその店は、瓦礫の散乱する荒野にポツンと建っていたのだった。