九
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雲の上で反省会が開かれる。
「どうやら気配はフェイクだった様ですね。我々の意識を逸らしている間に、敵は撤退して仕舞った様です」
「でもまあ、取り敢えず大統領が無事で良かったです。私達の役割は、大統領の護衛であって、敵を捕まえたりヤっつけたりすることじゃないですよね。だから逃げられても好いんだと思います」知佳の言葉に数秒間の沈黙が生じた。
「えゝまあ、それは理屈ですが、然し敵を逃がせば大統領の危機は継続して仕舞います。どこ迄が責務かと云うのは微妙な判断になりますね」神田がやんわりと反論する。
「まあえゝよ。過ぎたことは仕方がないです。とにかくわしらの任務は継続しているのだから、引き続き監視を続けるしかないでしょうね」
クラウンが関西弁と標準語の入り混じった可笑しな話し方で場を纏めようとした。視線はずっと幻影スクリーンに注がれた儘、大統領を監視し続けている。
そんな空気を打ち破る様に、蓮が暢気な声を出した。「思ったんだけど、アイツら日本語上手よね」
「蓮たらこんな時に、何感心してるの」知佳が呆れた顔で蓮を見る。
神田が簡単に説明する。
「テレパスに言語なんか関係ないですよ。耳から入った言葉は言語野で理解されますが、然しテレパスは先ず理解して、それから言語化されるんです。だから、常に聞く者の母国語で聞こえるんですね」
「神田っち相変わらず難しい」蓮は文句を云ったが、知佳は妙に感心して、「そうか。だからお花や草木も日本語なんだ」と独り納得した。
蓮が驚いた様な顔で知佳を見る。
「ええっ? 知佳あんた、草花の声まで聞こえるの?」
「うん、普通に聞こえるけど……あれ、云ってなかったっけ?」知佳はしれっと云う。
「初耳よ! 何そのファンタジー!」蓮は興奮してぴょんぴょん跳ねた。
「植物もコミュニケーションしていると云うのは、最近の研究でも明らかになりつゝある科学的事実ですね」神田が微笑みながら補足する。
「神田っち、相変わらずマジメ!」
「まさか、植物とも意思疎通が出来るなんてなぁ。信じられへんわ」クラウンが感じ入った様に云うと、「正に驚きだよね。私も聞いてみたいなぁ」と蓮が目をキラキラ輝かせた。
「でも、神田さん、私達の言葉を理解してくれるのは人間だけなんでしょうか」知佳が疑問を投げ掛ける。
神田は考え込んだ後、緩と答えた。「此方の想いや考えが伝わらない理由は特に思い付きませんが、然しそれは相手が理解するか如何かとはまた別の問題でしょうね。例えば草木に対して、空の色を説明したところで、草木には視力が莫いですし、当然色と云う概念も持たないでしょうから、此方の云っていることを理解出来るとは思えません。そう云う意味では限定的なコミュニケーションに留まるのではないでしょうか」
その時一羽の鳶が、彼らの近くを過った。知佳がそれを目で追いながら、「あ、そうだよね。当然だわ」と呟く。
「なあに? 今の鳥がなんか云ったの?」蓮が相変わらずキラキラした瞳で知佳に問う。
「云ったというか……あたしが勝手に読んだんだけど。なんか、お前らジャマだーって云いながら通り過ぎてったよ」
「なにそれー。愛想無いの」蓮はむくれた。「まあ確かに、邪魔なのかもしれないけど……」
知佳がウフフと笑う。
「まあ仕方ないですね。そうそう都合よく、動物達が此方の求めている情報をくれたりはしませんね。彼らには無関係ですから」
「なぁに神田っち、そんなこと期待してたの? 身勝手さんですか」蓮の指摘に神田は苦笑した。
「そう云えば知佳さん、読んだんですよね?」神田が改まって知佳に訊いた。
「えっ? 何ですか?」知佳はきょとんとした。
「いや、ほら、最後の敵。読んだって云ったじゃないですか」
「ああ……ボスの名前ですか」知佳は頷いた。「確かに読みました」
知佳が告げたボスの名前は、Y国政務大臣のそれだった。或る程度想定はしていたものゝ、改めて確定されると誰もが緊張感で体が震えた。
「この件は上にも通報しておきます。然し、暫くは敵も具体的な行動は取って来ないのではないでしょうか」神田が慎重に発言する。
「その心は?」クラウンが先を促す。
「目玉の怪物を倒した後の形振り構わない一斉攻撃や、最後の能力者の|呆気莫あっけなさを見ても、敵は万策尽きている可能性が高いです。今回の為に準備したものは、全て我々が潰して仕舞ったと考えても、そう間違ってはいないのではないかと」
「そうやなぁ。……そうやと、いいけどな」虚空を見つめながら、クラウンは呟いた。
「時間停止したのだって、短時間で片づける自信がなかったからだよね」ユウキが一寸得意気に、私見を差し挟んできた。
「ユウ君、賢いねぇ」蓮がユウキの頭をくしゃくしゃっと撫でると、「や、やめろよ、ガキ扱いすんな!」と、真っ赤になってその手を振り払った。
「取り敢えず大統領は、後二日この沖縄に、ひいては日本に滞在します。兎に角その間は、絶対に大統領の安全を確保すること。それこそが我々に課せられた責務です」神田は一同を見渡し、改めて自分達の役割を認識させた。
「特にクラウンさん、蓮さん、敵のボスを叩きに行こう等と考えないでくださいね。非常に危険ですし、且つ、日本とY国との間の国際問題にさえ発展し兼ねませんから。飽く迄我々は、X国大統領を護るのみです。但しその職務に就いては、常に最大限のパフォーマンスでお願いします」
「わぁーってるって。わしより蓮やな、血の気が多そうなンは」
「まあ、何を仰っているの? こんなにもか弱く可憐で思慮深く、おしとやかで可愛いらしい乙女を捕まえて」
「はぁあ? お前なんやその、唐突なキャラ変は!」
そうして蓮もクラウンも、ケタケタ笑い合った。
「まあ、大丈夫そうですかね」二人の様子を見て、神田は安堵の溜息を吐いた。
その時、幻影スクリーンを見ていたクラウンの顔が、俄かに強張った。
「大統領は、名護のパイナップルパークにおる様やけど……どうも怪しい気配が漂ってきたでぇ」
神田も引き締まった顔で「直ぐにも駆け付ける可きですね」と云って、一行を連れて上空を移動し始めた。
「パイナップル食べてるのかな」移動中、蓮が呟く。「おなかすいた」
この回については、ChatGPT は余り目立ったストーリー展開してくれませんでした。書き直しに当たって丸々カットしたりしてます。