四
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移動は深夜になっても行われていた。この移動は凡て神田の能力に拠るものだが、五人を雲より高い位置で高速移動させると云うのは、控えめに見ても可成凄いことの様に思われた。
「一通り話す可きことは話しましたし、夜も遅いので、この辺りで一旦下りて休みましょうか」
「あっ、休むんですね」知佳が意外そうに云うと、神田は苦笑しながら「私を何だと思っているのですか。体力的には普通の人間なのですから、夜は普通に寝ますよ」
「そう……ですよね。すみません」
雲の切れ間から眼下の景色が見えて来た。直ぐ下は水面の様だった。
「今どこなんですか? 海?」
「いや、これは湖だな」クラウンが下を覗き込んで云った。
「こんな大きい湖ないでしょ」と蓮が云うと、クラウンはカカッと笑って「日本一の広さだからな」
「知ってるよ、琵琶湖だ!」ユウキが得意げに云ってから、「あれ、沖縄に向かっているのに、何で?」と首を傾げた。
「ちょっと寄る可き所がありまして。それに就いてはまた後程説明します」と神田が云った。「では、湖上で休憩しましょうか」
一行は湖へ向かって降下して行った。美しい夜景が広がり、水面に映る星々が幻想的な光を放っている。
「ねえ知佳、この景色、素敵じゃない?」蓮が興奮気味に声を上げた。
「本当、こんな場所で休憩出来るなんて最高!」知佳も感嘆しながら応える。
一早く湖上に到達した神田が湖面を軽く突くと、其処から湖水がみるみる固まっていき、鳥渡した広間程度の床が出現した。一同はその上に降り立った。
「えー、これも神田さんの能力?」知佳は驚いて神田を見た。
「念動力の応用で、液体分子の運動を制御することで固体の様に変化させたのです。但し氷とは違うので、冷たくはなりません。熱運動はさせた儘、その可動範囲を限定することで……」知佳が目を回しそうになっているのに気付いて、神田は言葉を止めた。「難しい話は置いておいて、兎に角この状態なら私は寝ていても維持可能なので、此処で休むことにします。蓮さん」
「はいはーい」蓮が神田の呼び掛けに軽く応えると、瞬く間に人数分の布団が目の前に出現した。
「えー、用意が好いのね」知佳は感心した。
「こう云うのは神田っちが用意しておいてくれてて。あたしは倉庫から取り出して来ただけだよ」
「湖上は冷えますから。確り温かくしてくださいね」
布団は温かかった。神田はほっと息を吐きながら、布団に横たわった。知佳と蓮も早速布団に入り、目を閉じる。
「ちょっと待って!」ユウキが小さな声で叫んだ。皆が振り返ると、ユウキが一人だけ布団に入れずに立ち尽くしていた。
「ユウキ、どうした?」クラウンが声を掛けると、ユウキは顔を赤らめながら「僕、一人で寝られない……」
知佳は弟を思い出していた。弟と同じだと思うと、少し親近感が湧く。「ユウくん寂しいんだ。可愛いのね。お姉ちゃんと一緒に寝ようか」
ユウキは嬉しそうに顔を輝かせた。「ありがとう、知佳さん」
問題は片付いたとばかり、皆はそれぞれの布団に入り、夜の湖上で眠りに就いた。
〈あんたそれ、計算でしょ〉
皆が寝静まった頃、蓮の声がユウキの脳内に響いた。ユウキは興奮して中々寝付けないでいた為、その言葉に鋭敏に反応して仕舞った。
〈ち、違うよ、ホントに一人で寝られないんだ。家ではいつも、父さんと母さんと一緒に寝てるから〉
〈マジで?〉
眉間に視線を感じ、そっと薄目を開けてみると、驚く程間近に迫った蓮の瞳が、瞬きもせずに凝と自分に注がれているのを見た。
「ひえっ」思わず小さい悲鳴を上げて、ユウキは寝返りを打ち、寝ている知佳の腕に縋る。
〈あー、それ以上するとセクハラだからね〉
〈そそそ、そんなんじゃないし!〉
〈あんたが知佳に邪な感情抱いてることは、先刻お見通しなのよ〉
それは蓮がテレパスで年齢を問い質した際、テレパスに慣れていないユウキが心の声を全開にして仕舞った結果である。
〈ヨコシマなもんか、純真無垢だもん!〉
蓮が背後で「プっ」と吹き出した。
「うーん? 何か云ったか?」蓮の吹き出し笑いにクラウンが敏感に反応し、寝惚け声で尋ねた。ユウキが恥ずかしさと焦りで顔を赤くしながら、何とか弁解しようとした矢先、「なぁに……どうしたの?」と、知佳迄もが眠そうに眼を擦りながら起き上がり、辺りを見回した。
ユウキは進退窮まって、恨む様な救いを求める様な複雑な表情で蓮を横目で睨むと、意地悪な微笑みを湛えた蓮がユウキの頭を撫でながら静かな調子で、「ユウくん、安心して。みーんなで一緒に寝よう。そしたら安心出来るでしょ?」
ユウキは不信の目を蓮に向けつゝも、知佳と蓮に挟まれた状態で渋々布団に入った。それでも心地よい温かさと安心感に包まれながら、何れユウキは穏やかな寝息を立て始めた。
京都に連れて行こうと思っていたら、ChatGPT が琵琶湖の水面で下ろしちゃいました。
ここでどうやって休むねん! と、半ギレしながら必死で繋ぎました。まあ御蔭で、独特の展開になりましたが。