二十四
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会議の後直ぐ皆で夕食をとり、そして風呂に入ったりロビーで寛いだりして時を過ごして、愈々帰宅の時が訪れる。
「今夜は無休で運びますので、皆さん寝ていて良いですよ」神田はそう云うと、コンテナは使わずに皆を雲の上迄持ち上げ、本州に向けて移動を始めた。
行きとは違い、帰りは普通に上空を飛んだ為、たっぷり時間が掛かった。初めの内は興奮冷めやらぬ様子で騒いでいた面々も、次第に静かになり、軈て寝息が聞こえ始める。気が付くと神田とクラウン以外は、皆すっかり寝入って仕舞っていた。
何時間か経ち、すっかり真夜中になった頃、神田はユウキを起こした。「ユウキ君。今回は本当に有難う。そして、お疲れ様でした」
ユウキは寝ぼけ眼を擦りながら、こくりと頷いた。すると何か柔らかくて暖かいものが、ユウキをそうっと包み込んだ。暫く状況が理解出来ていなかったが、耳元で「ユウ君お疲れさま。元気でね」と云う声を聞くと、一気に顔が深紅に染まった。
「ちちち知佳さんもねっ!」それだけ云うと、ユウキは寝ぼけ顔の知佳から離れて、地上に降ろされた。
「寂しくなったら遊びにおいでよ」そう云う蓮の方が、寂しそうに微笑んでいた。
クラウンの計らいでユウキは誰に見咎められることもなく自宅へと帰り、パジャマに着替えると両親の寝ているベッドの真ん中へと潜り込んだ。その様子を見届けて、クラウンは家族達に掛けていた集団幻覚を静かに解除した。
そして再び移動を開始し、遂に知佳の家の上空に到着した。
「知佳さん、今回本当に助かりました。有難うございます。お疲れさまでした」
「知佳、あたしも直ぐに帰るから。ちゃんと歯磨いて寝るんだよ」蓮にそう云われて知佳は、「歯は夕食後にすぐ磨いたから。後は寝るだけだよ。また明日、学校でね」と返す。
「うん、学校でね。じゃ」
二人、小さく手を振り合うと、知佳は地上へと降ろされた。そしてユウキの時と同様、静かに家に入ると、着替えてベッドに入った。
残りの三人は知佳と別れて直ぐに蓮の家迄移動し、神田が別れを告げる。
「蓮さん、あなたの活躍は本当に得難い物でした。有難う。そして、お疲れさまでした」
「神田っちも元気出して、息子さんの帰りを待ってあげてね」
「はい」神田は笑ったが、どこか寂しそうだった。
蓮も地上へ降り、自宅へと帰った。
「とうとう子供達がみんな帰って仕舞いましたね」
「何寂しそうにしてるんですか。子供らは自宅に帰るのが一番。親元が一番ですやろ」
クラウンは余り意識していなかったが、この言葉は神田には深く刺さった。達也の一番になれなかった自分が、不甲斐なかった。
二人はいつか、クラウンの自宅アパート前迄来ていた。
「さて、僕もこの辺りで、お暇します。また何かあったら声掛けてくださいね」
「もちろんです」
「あの子達にもまた、逢えるやろか」
「さて……子供の能力は不安定ですから。いきなり強力になっているかと思えば、いつの間にか無くなったりもして仕舞うので、次の機会があるかどうかは……」
「神のみぞ知る、やな」そしてクラウンは、カカッと笑った。
二人は一緒に地上へ降り、クラウンはアパートの階段を上って行く。
「ではまた」
そう云うと、クラウンは「田中」と表札の掲げられた部屋のドアを開け、中へと消えた。
「ま、こんな仕事は、何度も繰り返すものではないですけどね」
神田は独り言ちながら、寂しく肩を窄めて寛悠と歩き、夜の闇へと消えて行った。
(終わり)
最終節はリレーとしては一往復分なんですが、書き直しの際に膨らませました。
最後は GPT に任せたんですが、まあ、ほぼ完全に書き直しています。
初稿、二〇二三年(令和五年)、九月、五日、火曜日、先負。
改稿、二〇二四年(令和六年)、五月、四日、土曜日、仏滅。