二十三
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その後は特に問題も無く、大統領はSP達に手厚く警護されながら、無事に那覇空港で大統領専用機へと乗り込んだ。
離陸してゆく専用機を空港屋上のデッキで見送りながら、一同はほっと深い息を吐いた。
「やっと終わったぁ」知佳がヘタヘタと蹲み込むと、ユウキがテテっと近付いて来て、「ち、知佳さん、あの、LINEとか交換しませんか」と顔を真っ赤にしながら云うので、隣でその様子を眺めていた蓮がにんまりと笑った。
「えー、ごめん、あたしスマホさえ持ってないよ、未だ小学生だし」
同じく小学生の筈のユウキは、明らかにショックを受けた顔をした。
「おうちの電話なら教えられるけど」
「い、いや、それは……でも聞いとこうかな……いや、でもなぁ……」ユウキがもじもじと葛藤しているのを、蓮が嬉しそうに小突いて「テ・レ・パ・ス」と云ってウインクした。ユウキの顔がぱあっと明るくなって、知佳を見上げたが、知佳は無情にも「えーっ、ユウ君って名古屋でしょ? そんな遠くと繋がるかなぁ」と、無邪気に突き放して仕舞った。
ユウキは泣き笑いの様な顔をした。
支部へ引き上げると、神田は皆を会議室に集めた。
「お疲れさまでした。皆さんの御蔭で、大統領は無事に本国へとお帰り頂けました。途中幾度か危うい場面もありましたが、大事に至ることなく、何より無傷でお帰り頂けたことは我々の最大の功績と思います」
「秘書官と大臣さんは、帰国したら何かお咎めあるんですかね……」知佳が心配そうに訊くと、神田も残念そうに「そうですね、敵の術に堕ちて仕舞ったこと自体が、失態と云えなくもないですし。不問と云う訳にはいかないかも知れないですが……」そこで少し明るい顔を作ると、「でも今回、催眠を掛けた側の関係者が一人拘束出来ていますので、若しかしたら重要な証人、及び被害者として、丁寧な扱いをして貰える可能性は、無くも莫いと思います」
「歯切れ悪いな」クラウンのツッコミに、神田も苦笑する。
「X国が如何判断するかは、私にだって判らないですよ。まあ一人は大臣な訳ですし、そうそう雑には扱わないと思いますけどね」
そして神田は一呼吸置いて、一同を見渡した。
「今回本当に、皆さん一人一人が大活躍でした。クラウンさんの幻影スクリーンにはずっと頼り切りでしたし、幻覚やその解除能力にも大いに助けられました」
クラウンは後頭部をポリポリと掻いて、照れ臭そうに笑った。
「知佳さんのテレパス場には全員がお世話になりましたし、その読心能力は様々な場面で実に多くの成果を齎してくれました」
知佳は頬を赤く染めて、稍俯きがちに含羞んだ。
「蓮さんの転送能力は、何度も大統領の命を救ってくれました。また、容疑者の確保に際しても、実に迅速かつ的確に活躍して戴きました。本当によく遣って戴きました」
蓮は得意気に胸を張ると、ふんと鼻息を吹き出した。
「そしてユウキ君、毎回我々や大統領達の体や心の傷を癒して戴いただけでなく、解毒や洗脳からの脱却、果ては物理バリア迄、実に多彩な能力でサポートして戴きました。ピカ一の後方支援でした」
ユウキは小さく縮こまりながらも、満更ではない様子でうっすらと笑いながら、神田を見上げた。
そして神田は居住まいを正してから深々と頭を下げて、「皆さん今回は、本当に有難うございました」と云った。
「一部の方に就いては突然の誘拐の様に連れて来て仕舞ったこと、本当に申し訳なく思っています。任務中の家族や友人などに対する手当は勿論完璧にさせて戴きました。また、帰宅の際にも不在時とシームレスに繋げられる様、誠心誠意手配させて戴きます」
「えー、神田っち固いなぁ。好いよそんなこと」蓮はそう云ったが、知佳には何も応えられなかった。不在時の家族や、学校の授業のことなど、不安なことが山程あった。
「わしも微力ながらお手伝いさせて戴いております。不備など無い様に、帰宅の際にも一人一人丁寧に対応させて戴きます」
クラウンに似合わず矢鱈とマジメな顔をして云うので、知佳は少し可笑しくてフフッと笑った。横から蓮が「やだピエロの癖に。似合わねぇし」と悪態を吐いている。
少し空気が緩んだところで、会議室の扉がノックされ、一人の職員が紙の束を持って入室して来た。彼女は神田に紙束を渡すと、一礼して部屋を出て行った。
「なになに?」蓮が体を乗り出してその内容を見ようとするのを、神田は軽く制して、無言で内容に目を通し始めた。皆興味深そうな瞳でその様を見守っている。
一通り目を通し終わった神田は、紙束を机に置くと、暫く目を閉じて凝としていた。皆は何も云わず、根気強く待っていた。
「X国から報告が来ました」神田は眼を閉じた儘、緩と告げた。
「まず洗脳者、これはY国の工作員であることが容易に確認取れました。催眠技術に長けており、大分前からX国に潜入して秘書官や大臣を罠に嵌めたと見られています。彼が置いていった日誌ですが、襲撃の計画や失敗の様子が具に記録されていたとのことです」
「わしらのことも?」クラウンが不安げに問う。神田は静かに頷き、「有名になっちゃいますかね」と悪戯っぽく笑った。
「それと、達也に就いてですが、彼は無事、と云いますか、恙無くX国に身柄を引き渡されました。洗脳に就いては彼方でも認識していて、専門の機関で慎重に対処するとのことです。ただ、責任能力が無い訳ではなさそうとのことで、罪は免れないと思います。後はもう、向こうの専門機関と司法に委ねるよりありません」神田は達也の件に関しては、迚も辛そうに報告した。
「X国はこれらの事実を踏まえた上で、Y国とは表立って対立することなく、和解の方向へ舵を切る心算の様です。が、Y国の内政状態は不安定で、中々交渉を上手く進められそうにはないですね」
「まあ僕らとしては、大統領を無事に帰国させることが出来たことで、責任は確り果たせた訳で。後はX国とY国の間で|如何様い かようにでもしてくれってなもんやね」クラウンが軽薄に私感を述べると、「でもその情勢次第で、達也さんの運命も……」と知佳が言葉を濁した。
誰も次の発言が出来ず、黙りこくって仕舞うと、神田がパンと手を叩いた。
「ここで思い悩んでいたって始まりません。クラウンさんの云う通り、我々はその責務を完遂しました。先のことは神のみぞ知る、です」
そして会議はお開きとなった。
X国のY国に対する方針は、ChatGPT によるものです。いかにも GPT 君らしい、平和的な選択です。