二十二
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大統領達を大使館へ無事帰したことで、警護の使命は果たせたので、一行は支部へと引き上げた。昼抜きだった為、皆おなかがペコペコだった。
支部の食堂で思い思いの昼食を取りながら、ここ迄起きたことのお浚いをすることとした。
「課題としては、秘書官と大臣の洗脳あるいは後催眠に就いての、情報が不足していると云う点です。一応判っていることを纏めると、先ず今回の訪日より大分前から彼らの傀儡化計画は始まっており、それぞれ別々の時期に、何者かに由って催眠が掛けられていたと云うことです」
神田の考えに依れば、この時掛けられていたのは単に『命令に従え』と云うだけの内容で、具体的な命令は後々状況に応じて下されていた様だ。例えばSPを集めて集団催眠を掛けたり、或いは二人だけで指定した場所へ来させたり、今回の様に大統領を拐かしたりと云った指令が、その都度与えられていた筈である。
「術者は近くにいますね」心做しか、神田の目は輝いていた。
任務外だとは云いながら、矢張り神田もこの件を追求する気持ちは捨てゝいない様である。勿論それは、敵の先手を読んで警護をし易くする為の手段の一つではあるのだろう。だが神田の目の輝きは、それ以上のものを物語っていた。
「二人の後催眠は解いたので、今後新たな命令が為されたとしても、彼らがそれに従うことはないでしょう」神田はここで一旦言葉を区切り、一同を見渡してから、「ただ、そのことは術者も直ぐに気付く筈です。その時術者が手を引いて仕舞えばこの話はここ迄です。然し結構な高確率で、奴は何か新たな動きを見せるのではないかと思っています。それは奴にとってのリスクであり、我々にとってのチャンスです。いつ何が起きるか、クラウンさんには確り監視を続けて戴きます」
「合点承知の助!」クラウンは蕎麦を啜りながら、稍お道化気味に答える。
昼食を取り終わった頃には、午後の三時を回っていた。
「滞在もあと一時間一寸か。この僅かな時間に仕掛けて来るなら、余り緻密なことは出来なかろう。襤褸も出易い。大チャンスやな」クラウンはにやりと笑った。
「相手も承知の上でしょう。決して油断しない様に」神田が釘を刺す。
その時俄かに、大使館から慌たゞしい様子が伝わって来た。ドタバタと音を立てゝ、ゲート内外でも何人かの職員達が右往左往している様子が見える。
「何が起きてるんだ?」クラウンが不安気に呟く。
然し数分もすると騒ぎは収まり、大使館には再び静寂が戻った。
「一体何だったんだろう?」ユウキが首を傾げる。
暫く見ていると、大使館の中からSP達が慌てゝ出て来た。スクリーンを覗き込んでいた知佳が、「判りました」と云った。
「やっぱり中では、術者が二人に接触を試みた様ですね。只、光の合図を幾ら送っても二人が反応しないので、焦ってチカチカ遣り過ぎた様です。大使館員やSP達がその光に気付いて、曲者じゃあ、出合えー、って感じで、ちょっとした騒ぎになった様です」
「なんとも間抜けな話やな」クラウンが嘆息する。
「それで、発光源を探し当てたら其処には誰もいなくて、代わりに指向性スピーカーと小型のカメラが付いていたので、なんだコレはってんで発信源を辿って、SPの人達がわらわらと出てきた感じです」
知佳の説明を聞いて、暫くは誰も言葉を発しなかった。想定していたよりも大分お粗末な展開だった為に、反応の仕方に困っていたのだ。
「じゃあ、彼らを尾けて行けば発信源に辿り着きますね」
神田の一言で一行は出発し、SP達を追い掛ける可く雲の上を飛んで行く。目標は直ぐに見付かった。
「いたいた。如何やら追い詰めた様やな」クラウンがSP達を上空から視認し、スクリーンで詳細状況を確認する。
容疑者と思しき男が、狭い路地の只中でSP達に挟み撃ちされていた。これではもう逃げ切れまい。男は頻りに腰の辺りをまさぐっているが、目的のモノが見当たらないらしく、戸惑い勝ちに己の腰元を見た。その隙を突いてSP達は男を取り押さえた。
「あーあ、もぅ。安直なんだから」
そう云いながら蓮は、何時の間にか手にしていたオートマチックの短銃をくるくると回して見せた。
「あっぶな! 暴発したら如何すんねん。こっちに渡しなさい」
「はぁい」
素直にクラウンに短銃を手渡すと、クラウンはその儘神田へと渡した。
「ではこれも、X国に提出しておきますね」
神田は短銃から弾丸を全て抜き取り、装弾された弾も無いことを確認すると、別々のビニール袋に入れた。
容疑者の男は、SP達に拘束されて大使館へと連行された。
「今回は出番少なかったね」蓮が不満そうに云うと、知佳がクスッと笑いながら「何で不服そうなの? 解決したんだから喜ばなくちゃ」
「そうなんだけど……」矢張り蓮は不満気だ。
先程からクラウンは、幻影スクリーンに凝と見入っていた。その様子に神田が気付き、「何か気になりますか?」と声を掛けた。
「んー、あの犯人がいた場所に、何か落ちてる……」
「どれどれ?」蓮が興味津々に画面を覗き込み、「これ持って来れば良い?」と聞いた。
神田が思案深げに頷くと、次の瞬間には蓮の手に帳面の様な冊子が握られていた。
「やだな、Y国語とか判らないよ」蓮はぺらぺら捲っただけで直ぐに興味を失い、神田に手渡した。
神田は表紙を見て「日誌と書いてますね」と云った。「最強の手掛かりですが、私にも流石に全ては読めないです。この儘X国に提出しましょう」
先程の拳銃と弾丸と併せて、三点の証拠品として神田は回収部隊の居る水平線の彼方へと送った。
「日誌の内容、気になるなぁ」蓮は水平線の彼方を見遣って惜しそうに呟いた。
「そうですね、でも我々には翻訳出来ませんし、如何しようもないですよ。それにあれは重要な証拠物件として、X国で厳重に取り扱われることになるでしょう。いずれにしても我々の出る幕ではないですよ」神田はきっぱりと云い切った。
「解ってるんですけどね。でもやっぱり気になるなあ」
「ま、過ぎたことに執着してもしゃあないて。大統領の帰国迄あと僅かや、確り遣り切ろ」
クラウンが蓮の頭をポンと叩いて、この話題は終結した。
そろそろ締めに入りたいなぁと思っていたのに、最後のひと騒動を ChatGPT が起こしてくれました。
そのおかげで回収し易くなった伏線もありましたが。
とにかく最後の最後まで何かしら暴れたがる GPT 君なのでした。