十九
自サイトでも公開しています。
http://gambler.m78.com/hikaru/sakuhin/3days-secret-tour.html
やや遅めの夕食は、大広間を使って大皿の宴会料理が饗された。皆の着席を確認してから、神田が立ち上がって挨拶を始める。
「皆さん本日は、大変お疲れさまでした。大統領の警護は残すところあと一日となりました。未だ未だ気は抜けませんが、取り敢えず今夜のところは、確り食べて、確り休んで、英気を養っておく様にしてください。いろいろ思うところもあるでしょう。悩ましい思いもあるでしょう。そんな思いも、この席で少しずつでも言葉に出して貰えると、毒出しにもなりますし、相互理解の促進にも繋がるかと思います――」
「話、長いねん! はよ食お!」クラウンの野次に、一同から微かな笑いが漏れる。
「大変失礼しました。それでは皆さん、楽しみましょう! いただきます!」
「いただきます!」皆が声を揃えて、晩餐が開始された。
食事が進むと共に少しずつ心も解れ、知佳にも蓮にもユウキにも、笑顔が戻り始めていた。
ゴーヤチャンプルーにアグー豚、パイナップルステーキにソーキそば。いずれも本土ではなかなか食べる機会のない物ばかりで、物珍しさも手伝って皆もりもりと食べていた。
神田とクラウンには泡盛も出ていたが、緊急出動もあり得るので神田は殆ど手を付けていない。クラウンは少しだけ飲んでいたが、その所為か普段より幾分陽気になっている様である。
「質問があります!」クラウンが学生の様に挙手して、知佳の方を見た。知佳はどぎまぎしながら、「えっ、はい?」と応える。
「達也君にしたあのカウンセリングの技、どこで覚えたんですか!」相変らず学生の様な口調で質問する。知佳は困った顔をして、助けを求める様に蓮を見た。
「あたしもそれ思った。知佳って学校ではどっちかと云うと没交渉だったし。どこで覚えたの?」どうやら蓮は助けにはならなかった。
知佳は仕方なく口を開く。「いやあのー、別にカウンセリングとか、技とか判らないんですけど……あたしは唯、彼の心を読み進めていっただけなんで……ええと、音読?」
「えー」クラウンと蓮が、同時に納得いかない様な声を上げる。
「その割には貫禄が、なぁ」クラウンが蓮に同意を求めると、「そうだよねぇ、小学生の迫力ではなかったよ」と蓮もダメを押す。
「イヤイヤほんとに。あたしは普通に語り掛けただけで」
「またまたぁ」
「あれが天然なのだとしたら、大した才能だと思いますよ」神田迄が調子を合わせてくる。
知佳はむず痒そうに体を捩りながら、「そんなに褒めたって何も出ませんよぉ。ホントに、普通に、話していただけなんですから。もぉ」そう云って蓮を肘で小突いた。
「好いの好いの、せっかく褒められてるんだから、素直に喜んどきなさい」蓮は知佳の頭をイイコイイコした。
「質問があります!」再びクラウンが学生の様に挙手して、今度はユウキの方を見た。ユウキは完全に虚を突かれて、危うく箸を取り落としそうになった。
「えっ、なっ、なにっ?」狼狽えるユウキに、クラウンが質問を浴びせる「ヒーラーと名乗りながら、バリア張ったり、毒物の検出したり、なんか色々出来るようですけど、他に何が出来るんですか?」
「えー……なんだろう」ユウキは腕組みして考え込んで仕舞った。
「毒ガス無効化したでしょ。あれどう云う能力?」蓮が具体的な質問をすると、ユウキは得意気に「ああ、あれは、僕毒素が判るんで、それ捕まえてくるって捻ると、パタパタってオセロみたいに、いや、ドミノみたいにかな、連鎖していくから」
「観念的過ぎてわからんちゅうの!」クラウンのツッコミで笑いが起きると、ユウキは真っ赤になって口を噤んで仕舞った。
「ちょっと其処の道化師! ユウ君いじめちゃ、メ! でしょ!」
蓮に叱られて、クラウンは舌を出した。ユウキは蓮の援護が意外だった様で、不思議な顔で蓮を見上げた。
「それもだけど……ユウ君が毒を消す前に神田さんがしていたことも、なんかよく解らなかったけど、あれは?」知佳が神田に矛先を向ける。
「ああ」神田は鳥渡バツが悪そうに頭を掻くと、「毒素の分子を選択的に弾いて、拡散させようとしていたんですけどね。如何せん量が多過ぎて、上手くいきませんでした。あれは失敗でしたね」
「まぁた難しいこと云う」蓮が酔っ払いの様に絡む。
「ほら、物理の小話なんかであるじゃないですか、密閉された箱の真ん中を壁で仕切って、其処に穴を空けて十分な時間が経過すると、分子の熱運動の御蔭で、仕切りを挟んで右側の気体と左側の気体が全く均等に混ざり合う訳ですが、穴の所に小人がいて、右から来る気体分子は素通しするけど左から来る気体分子は穴を通らない様に打ち返していると、十分な時間が経った後左の空間は気圧が倍になって、右の空間は真空になるとか云う――」
「あたしたち小学生なんだけど……」
「わしオトナやけど、何ゆうてんのかぜぇんぜん解りまへん」クラウンは本当に酔っている。
「いや、ですからね、出入り口が一つしかないレストランで、門番が出て行く客はその儘見送るけど、入ろうとする客は凡て追い返していたら、レストランは最終的に開店休業状態になるじゃないですか」
「そらそうや」
「そうした小人やレストランの門番の様に、毒の分子だけをパチーンパチーンって外側に向けて弾いてったら、毒無くなると思ったんですけど、中々思うようにいかなくてですね。結局他の気体分子にぶつかってどんどん戻って来るし、新たな毒ガスは流れて来るしで……エントロピーはそう簡単に減らないですね」
「そんな気の長い話、聞いてるだけで寝てまうわ。とろん、とろん、すぴーや」
クラウンは大きな欠伸をした。
「そのダジャレは下らな過ぎ」蓮が呆れた様子でツッコむ。
「おお、こんな駄洒落にツッコんでくれてありがとう!」
「ええ……なんか負けた気分」
その後も下らない馬鹿話ばかりが展開していき、それぞれの傷心も大分癒された辺りで食事が終わると、皆は解散し、それぞれ部屋へと引き上げて行った。
「ユウキ、悪かったな」男子部屋に帰って来た時、クラウンがユウキに謝った。「でもお前のお蔭で、あの二人にも笑顔が戻った気がするわ。ありがとうな」
ユウキは一瞬唖然とした表情をしたが、直ぐに澄まし顔を繕って、「気にしてませんよ、みんなの笑顔が大事ですからね」と理解を示した。
神田はその遣り取りを聞きながら、「クラウンさんの方が余程カウンセラーですね。皆あなたの掌の上の様だ」とおだてたが、クラウンは唯、カカッと笑うばかりであった。
ここも ChatGPT はあまり使える展開してくれませんでしたね。繊細な心理描写とか苦手みたいです。