十八
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蓮は知佳と、相変らず一言も交わさない儘、並んで湯船に浸かっていた。セージの最期の姿がフラッシュバックする。蓮は眼をぎゅっと瞑り、鼻の頭迄湯船に沈めて、ブクブクと少しずつ息を吐く。大小様々の泡が浮かんでは消え、浮かんでは消えてゆく。儚い命の様に。
神田の云うことは判るし、尤もだと蓮も思う。然し理屈では片付けられないモノが、心の中に大きく場を占めている。蓮はそれを如何すれば好いか判らない。そんなモノと今迄付き合ったことはないし、対峙したこともない。
〈――知佳〉
テレパスで知佳を呼ぶ。然し知佳は反応を示さない。そっと目を開け、盗み見る様に視線を送る。知佳は水面の一点を見詰めた儘、微動だにしない。暫くその儘固まっていたが、やおら蓮は立ち上がる。水飛沫が派手に上がり、水面がうねうねと波打つ。波に煽られて知佳が揺れる。
「知佳!」今度は大きな声を出した。知佳が吃驚して振り返る。
「な……なに? 蓮?」
「あたしを殴れ!」
「はあ!?」
知佳は唯茫然と蓮を見上げた。蓮は再びざぶんと湯に浸かると、今度は知佳に組み付いてくる。
「ちょっ……何すんの!?」
蓮は知佳に抱き付いた儘、号泣した。
「ええ……蓮……」
知佳は困惑した。自分もそこそこ悩んでいたし、どうにも整理の付かない気持ちを持て余していたのだが、蓮の勢いに気圧されて仕舞い、そんなものは何処かに吹っ飛んで仕舞った気がした。
「ちょっとぉ、あなたらしくないよ。どうしたの。そんなに泣かないでよ」
蓮は益々知佳をぎゅうと抱きしめて、グスン、ヒック、としゃくり上げている。
「そんなに泣かれたらあたしだって……」
知佳の目からも涙がぽろぽろと溢れ出した。すると蓮はドンと知佳を突き放して、「知佳っ! 泣くなぁ! あんたは何にも悪くない!」と大声で叫んだ。
「なにそれ。それ云ったら蓮だって悪くない!」知佳も負けじと叫び返す。
二人しか居ない大浴場では、二人の声は少しだけ反響した後、すうっと消えて仕舞う。
「解ってるよ! 判ってるんだけど! だけど矢っ張り、あたし駄目なんだよぉ!」
「一人で背負うなぁ! 蓮の馬鹿あっ!」
知佳も蓮も、涙をぼろぼろ流しながら好いだけ叫び合い、お互いの気持ちをぶつけ合った。どんどん気持ちが軽くなって行くのを、二人共心の片隅で感じながら。
同じ頃クラウンはロビーのソファにだらしなく体を横たえて、幻影スクリーンに映る大使館のゲートを監視していた。
「来た来た。これから会食やなぁ……何食べるんやろ」
大使館へと入場していく県知事を追い掛けて、スクリーンの視点は大使館内部へと侵入して行く。中は豪奢な作りで、応接間に通された県知事が大統領の歓待を受けている。
直ぐにボーイが現れて県知事達を別の部屋へと案内すると、其処はさらに華やかに飾り立てられた、将にパーティ会場とも云う可き広大な大広間だった。
用意されている料理にクラウンが目を奪われていると、「クラウンさん、それは感心しませんね」いつの間にか背後に神田が立っていた。「国際問題ですよ」
「やっば! あ、いや、すみません!」クラウンは慌てて、視点を大使館ゲート前に切り替えた。
その時、背後の廊下を通り過ぎてゆく職員達が話している声が聞こえて来た。
「誰か失禁したって……子供が多いからねぇ」
「後片付けする身にもなれってのよ」
「そう云えば男の子、ズボンビショビショで帰って来たわね」
「やだわぁ、その儘ベッドに入ったりしてなければ好いけど」
神田とクラウンはお互いを見た後、ユウキが籠っている部屋の方向を見上げた。
「ちょっと、様子見て来ますわ」クラウンは幻影スクリーンを腕に貼り付けた儘、部屋へと向かった。
ユウキはすっかり寝間着に着替えており、洗面所には手洗いしたジャージのズボンとパンツが干してあった。ベッドに横になってはいるが、目は閉じていない。
クラウンは静かにユウキの傍ら迄進むと、「ユウキ、どうした? しんどいんか?」と声を掛けた。
ユウキはクラウンの声に驚いて飛び起き、「鳥渡、考え事をしていたんだ」と小さな声で答える。
クラウンは無言で、向かいのベッドに腰を下ろした。クラウンの柔らかい視線に後押しされる様にして、ユウキはぽつぽつと語り出す。
「セージが……僕のバリアの中で死んじゃった……それがショックで……何かもっと好い方法が無かったのかとか、抑々あれで良かったのかとか……」
クラウンはユウキの隣に座り直すと、頭をくしゃっと撫でながら、「そんなこと、今更悩んだってしゃあない。バリアはあれで良かったんやで。神田もゆうとったやろ。おまえの御蔭で被害は最小限に抑えられたんや」
ユウキはクラウンに小さく微笑んで見せると、「ありがとう、クラウンさん。でも、それでもセージのことが頭から離れないんだ」
「まあ慌てんなや。少年は悩むもんや。後は日にち薬や。時間かけて少しずつ、解決して行けばええて。そもそも、お前ヒーラーやろ」
クラウンの言葉に、ユウキは少しだけ救われた。この気持ちを抱えていても好いんだと、同時に、自分にはこれを癒す能力があるんじゃないかと、その二つの考えで、気持ちも少しだけ軽くなっていた。
誠治は好い奴だったのに……的なことを書きがちな ChatGPT 君に、懇切丁寧に言い含めようと、奴がいかにド悪人だったのかを説いて聞かせたら、ポリシーに抵触するから回答できないと云うエラーが出たのには驚きましたw なので、諦めて話題を切り替えた部分がありますw
書き直しの際にその辺りは補填しましたが。