十七
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いずれ混乱も収まり、会談は一時間遅れで何とか開催の運びとなった。
会談中も気は抜けず、クラウンは幻影スクリーンから目を離さず、会談開始前に起きて来た知佳も周囲の人間の心理の動きに気を配っている中、他の三人は何となく時間を持て余していた。神田が隠袋から紙切れを取り出して、繁々と眺めているのに、蓮が気付いて声を掛ける。
「神田っち何見てるの?」
「ああ……達也が居た辺りに落ちていたんです。達也が落としたモノか如何かは判らないけど、なんとなく気になって……」
ユウキも寄って来て、三人で紙切れを覗き込む。
「豆腐三丁、パイナップル3ダース?」
「お買い物メモ?」
ユウキと蓮が拍子抜けした様な声を出す中、神田は苦虫を噛み潰した様な顔をして、「プラスチック爆弾が三百グラムに、手榴弾が3ダース、と云ったところでしょうかね」
「なんやそれ。物騒やな」クラウンが聞き咎める。
「探してください。既に設置済なのか、これからなのか」
クラウンは会談会場とその周辺を探索し始めた。画面に目を凝らすクラウンを、神田達は息を殺して見守っている。軈てクラウンが声を上げた。「見付けた! 爆弾は会議室の下の階に設置されています。蓮、此処判るか?」
クラウンは精確な位置情報を蓮に伝えた。蓮は素早く反応し、クラウンの指し示す爆弾を瞬時に遠くの海上へと飛ばした。爆弾はその儘、海中深く沈んで行った。
「クラウンさん、蓮さん、ありがとうございます」神田が二人に礼を云う。「ところで蓮さん、爆弾はどのぐらいありましたか?」
蓮は自信たっぷりに「起爆装置が百十五グラム、爆弾本体が凡そ二百五十グラムあったよ」と云う。
「そんなに正確にわかるもんなの?」知佳が訊くと、蓮は得意気に「転送する物質の詳細情報は結構わかるね。特性とかも、なんかこう、頭にスーって入ってくる感じ」
「やだぁ、あたしの体重とかもバレちゃってる?」
「ふふ」蓮は妖しく笑う。
「五十グラムか」二人の掛け合いにはクスリとも笑わず、クラウンが忌々しげに云う。
「未だ何か起きますね」神田もクラウンの言葉に首肯する。「手榴弾も未だ何処かにある筈です。ゲリラ的な攻撃が行われる想定をしておく可きでしょう」
「その手榴弾も見付けたで」クラウンが声を上げた。十階にある客室のクロゼット内に、丁度三ダースあった。「――蓮」
クラウンに云われる迄もなく、蓮はそれを会議室へ転送して来た。
「わぁおい、此処に持ってくんなや」クラウンは慌てたが、神田は冷静に「これはX国に提出しましょう。蓮さん、ご苦労様です」と、蓮の仕事を労った。
大方の爆弾と手榴弾が処理出来たことで、一区切り付いたような感があったが、神田は相変わらず硬い表情の儘、「然し未だ、爆弾五十グラムが行方不明なんですよね」と残念そうに云った。
「五十グラムでも、人を殺傷するには十分過ぎる程です。例えば大統領の椅子やテーブルに仕掛けたり、誰かが懐中に忍ばせた儘大統領の背後に立って自爆する等、幾らでも手段は想定出来ます。引き続き探索をお願いします」
「あいさー!」クラウンが下手糞な英語で返事をすると、改めて大統領の周辺から探索を始めた。
「手榴弾があった部屋の持ち主は、セージ・スミスと云う人物だ。偽名だな」どこから入手したものか、神田が宿泊者名簿の写しを確認しながら云う。
「えっ、せいじ?」蓮が反応した。
「誠治!」ユウキも気付く。
「いやまさか、そんな安直な」神田は却下してみたものゝ、一同顔を見合わせて、暫く固まっていた。
「確認だけしよか」クラウンはセージを探し始めた。「知佳ちゃん、一寸手伝ってな」
知佳はホテル内の人物の心を一人一人確認しながら、セージと名乗る人物を探してゆく。クラウンも幻影スクリーンでホテル中の人々を次々と捕らえながら、それらしき人物に当りを付けて行った。暫くそうした作業が続いていたが、軈て知佳が割と強めな声で、「見付けた! セージ・スミスって名乗った人です、場所は……」
クラウンが知佳の指した人物を特定し、スクリーンに大きく映し、「蓮、頼むで!」と云うと、蓮はセージを会議室へとテレポートさせた。
セージは驚いた表情を浮かべ、何か云おうとしたが、その前に神田が念動力で抑え込み、その儘捕縛された。「これは一体……お前達は誰だ?」捕縄の中から、セージは声を絞り出すように呻いた。
知佳はセージの心へと下りてゆく。「あなたは比較的素直な心をしてるんだね……」冷たい視線でセージを見据えて「素直に悪人だね」
蓮の顔が強張った。「マジで……そんな奴いるんだ」
「世の中にはいろいろな人間がいますからね」神田は冷徹にセージを見下ろしながら、「知佳さん、この男が息子を?」と聞いた。
知佳が答える前にセージが反応した。「息子? あんた一体、誰だ」
神田はそれには答えず、背中を向けてセージから離れる。知佳は「そうだね……セージ・スミス、山田誠治、李成仁……色々な名前を持っているけど、本当の名前は」
セージは眼だけを動かして、知佳を見上げると、「そうか、お前ら、能力者ってヤツだな……聞いたことがあるぞ」と納得した顔をした。
「金成智……かな?」
「それを知ってどうする」セージは挑み掛かる様に睨み付けている。
「残りの爆弾はどこ」知佳は質問と共に再びセージの内部へと潜る。次の瞬間、セージの胸元で鋭い光が閃いた。
「あっ!」
一瞬早く、ユウキのバリアがセージを包んでいた。
衝撃的な光景に、一同は凍り付いた儘の状態だった。知佳も蓮もユウキも、目の前で誰かが死ぬのは初めてだった。而もそれは相当に凄惨な最期だった。
最初に冷静さを取り戻した神田は、場慣れした様な感じで「この男は、Y国のテロリストだった様ですね」と云った。
次にクラウンが、稍動揺を隠しきれない様子ながらも、「可愛そうに、Y国に命を捧げて、一人で散って仕舞いよった」と気丈に云い添える。
然し知佳はへたり込んだ儘ガタガタ震えているし、蓮は放心状態で、ユウキはお漏らしをしていた。
「ユウ、あんた……」蓮がいつもの様に弄ろうとするが、言葉が続かない。ユウキも蓮の言葉は耳に届いていない様だった。
「仕方がないですよね。こんな凄惨な現場は初めて見るでしょうから……さっさと回収して仕舞いましょうか」
神田がバリア内に飛び散った血や肉片を一塊に固めていると、知佳が震える声で何か云った。「え?」神田が訊き返すと、椅子に掴まりながら立ち上がった知佳が、先刻よりは稍落ち着いた声で「未だ追えますから……もう少し待って……」
神田はぎょっとして「知佳さん、無理はしないでください。後は我々が」
「ううん。やらせて……あたし……あたしがやり方、間違えたんだと思う。せめて、最後迄……」
知佳が最後の読心を試みているのを横目に、蓮は自分を責めた「もっと早く気付けた筈……あたし何やってんだ」
「爆弾を見付ける可きやったんは俺や。蓮、自分を責めなや。お前は十分やっていたよ」クラウンが静かに蓮を慰める。
知佳が涙をぼろぼろと流しながら「生きたい……死にたくないって……この人、自爆なんかじゃない!」そしてうわぁんと泣いた。
「そんなところだろうとは思っていましたが……」神田は囁く様に応じる。
「命令を出していたヤツが、別にいます。Y国の工作員で、誠治さんを此処に送り込んだ……あの、彦根城にいた……」
「此処で繋がるんや」
「それなら確保済みですね。思いの外、我々が一網打尽にしているのではないかと」
「爆発は最初からプログラムされていました。位置情報が計画から大きく外れたから、証拠隠滅の為に爆発したみたい……もうこんなこと、繰り返して欲しくない」知佳は相変わらず泣きじゃくっている。
「もう……読めません」知佳のか細い宣告により、神田が最終処理を施して遺体袋の様な物に詰めると、セージだったモノを回収部隊へと送った。
神田は知佳に向かって、優しい口調で語り掛ける。「知佳さん、あなたは最善を尽くしたと思います。決して落ち度は無かった。爆発は避けられませんでしたよ」
次いで蓮に向き直り、同じ様に優しく声を掛けた。「蓮さんも責任を感じる必要はありません。あなたの能力では、隠し持った爆弾に気付くことは出来ないでしょう。不幸な結末でしたが、あなた達が責任を感じる問題ではありません」
そしてユウキの方を向いて、「ユウキ君、君の行動もこの状況下では最善でした。バリアが一寸でも遅れていれば、爆発の被害は会議室中に及び、我々は元より周囲の一般人迄巻き込んでいたかも知れません。バリアの中で爆発した為に、セージはその威力を全て受け止める羽目になって仕舞いましたが、それは止むを得ないことです」
そしてクラウンと目を合わせると「我々は誰一人、自責をする必要などありません。この事態を引き起こしたのは、彼に爆弾を持たせた工作員であり、指令を出した誰かであり、そもそもの黒幕であるY国政務大臣です。我々の手こそ、其処迄届くことは無いですが、後はX国の問題でもあります。我々は決して、この件で自分達を責めてはいけません」
そうして一同を緩と見渡した。
「悲しむのは好いんです。悔しいのも判ります。でもお願いですから、自分を責めないでくださいね」
知佳はいつしか泣き止んでいた。蓮もユウキも、神田を見据えた儘、小さく頷いた。
「では、引き続き大統領の監視をしていきましょう」
神田が手をパンと打ち鳴らして、この場を締めた。クラウンはスクリーンに視線を戻し、他の者達も銘々に体勢を立て直していった。
こうした神田達の陰ながらの活躍のお蔭で、会談は無事に終了した。大統領と県知事が握手を交わし、プレス達のフラッシュが焚かれて、円満な雰囲気の中大統領はホテルを後にする。
「この騒動が最後であることを願いますよ」
一行は後片付けもそこそこに会議室から撤収し、再び雲の上から大統領の車を追い掛けた。
「支部より連絡がありまして、今夜は会食の予定を大幅に変更し、Y国大使館の中に知事等を招き入れて行うとのことです。如何やら今日の任務は此処迄の様ですね」
色々なことがありすぎて、皆かなり疲弊していたので、この連絡は誰にとっても心から有り難かった。車が大使館へと吸い込まれて行くのを見届けた後、一同は支部へと戻って行く。
帰着すると直ぐ、知佳と蓮は押し黙った儘風呂に行き、クラウンはロビーのソファに沈み込んで幻影スクリーンを広げ、ユウキは部屋に引き籠った。
神田は報告の為、役員フロアへと上がって行った。
ピートの件に始まって、SP達および秘書官と国防大臣の洗脳、そして息子との最悪の邂逅と、その指導者だったと思しきセージの死。今日あったことを改めて振り返り、扠、何をどこ迄報告したものかと、今回の作戦上長である特殊対策部長が在室している役員室への道すがら、神田は報告内容の構成をずっと考えていた。
「ピートには力及ばず、逃亡された……と。それとセージの件が、今日の失態かな」
口中で小さく呟きながら、神田は役員室のドアをノックした。
ここはかなり強引に進めました。ChatGPT の日和見君なので、こういう展開はなかなか難しいようです。