十五
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大統領が首里城の復興現場から出て来た。何やら周りの者と談笑しながら、車に乗り込む。
「次は何処だろう」と云う蓮の問いに、神田が「そろそろ昼食だと思いますが。首里城公園内のレストランで用意がされているのだと思います」と答える。
車は公園の外周に沿って移動して、大きな建物の裏手から再び公園内へと入って行った。
「大統領ってどんなもの食べるんだろうね」蓮が暢気に云うと、「そりゃあ、見たこともない様なチョー高級なご馳走やろうなぁ」とクラウンも暢気に返す。然し、軈て幻影スクリーンに映し出された大統領の食事は、至って在り来たりな洋食だった。
「なんやぁ。沖縄料理ぐらい食えや。豆腐餻食え、豆腐餻」
「クラちゃん、云ってること無茶苦茶」蓮がコロコロと笑った。
クラウンがSP達の洗脳を解いた所為か、いつになく悠然と平穏な空気が流れている様である。
「この儘何事もなく、過ぎてくれれば」神田が祈る様に云った。
幾分退屈気味なユウキが知佳の傍らに寄ってきて、「知佳さん、こんな話知ってますか?」と云うと、勝手に語り始めた。
「昔々、遠い国に住む少女がいました。彼女は魔法の力を持っていて、森の中に住む妖精達と友達になりました。彼らと一緒に、彼女は冒険に出かけ、数々の困難を乗り越えて成長していきました」
知佳は不意を突かれて目をぱちくりさせていたが、文句も云わずに静かに聞いていた。ユウキの語り口は次第に熱を帯びてきて、クライマックスを過ぎた辺りで、大統領が昼食を終えて席を立つ。料理人達に謝辞を伝えてから、車に乗り込み、その車列が滑るように首里城公園から出て行く辺りで、ユウキの物語も終わりを迎えた。
「あんたら何やってんの?」蓮が呆れた顔で知佳とユウキを見た。
「あはは、なんかユウ君が、変な話してくれた」知佳は楽しそうに笑っている。ユウキは「変な話」と云われて鳥渡複雑な顔をした。
大統領の車は程なくして近くのホテルへと入って行った。「午後から、沖縄県知事との会談がありますね」神田が説明する。
「会談迄は未だ時間があるので、一旦スイートで休息と云ったところでしょうか。我々も中に入りましょう」
「へえっ! ヒルトンやん。此処に泊まれんの!?」クラウンが裏返った声を出した。
「いやいや、会議室を借りているだけです。ずっと雲の上ってのも疲れますからね」
一行は人目に付かない所で地上に降りた後、正面玄関からホテルへ入った。「ダブルツリー by ヒルトン那覇首里城」と云う名のこのホテルは坂の途中に建てられていて、山側にあるエントランスは建物の四階に位置している。神田が受付を済ませると、エレベータで二階に降ろされ、其処から別のエレベータに乗り継いで、一階にある会議室へと案内された。
「高砂の間、だって。なんだかお目出度い名前だね。五人には一寸広いかなぁ」初めての高級ホテルに、知佳は浮かれていた。
会議室に入ると、皆銘々に休憩を取り始めたが、知佳は興奮冷めやらぬ様子で、突っ立った儘部屋をキョロキョロと見回している。
「知佳、気持ちは解らんでもないけどな、今ぐらいしか休めないと思うから、確り休んどけよ」
クラウンはそんなことを云いながらも、幾つもの幻影スクリーンを開いて、あちこち監視している様である。
「うん、わかってるけど。でも、此処ってなんか特別な感じがするよね」
知佳はクラウンに云われて、ふかふかの椅子に体を沈めはしたが、それでも落ち着かない様子で目を爛々と輝かせている。然しその興奮も次第に収まってくると、今度は猛烈に眠気が襲って来た。
「ちょっと眠くなってきちゃったな……」
「好いから寝とき。なんかあったら起こしたるから」クラウンが優しく云うので、知佳は眼を閉じた。
クラウンが蓮とユウキを手招きした。幻影スクリーンを見ながら何やら話している。知佳は椅子に座った儘、軽い寝息を立てゝいた。
「朝から大活躍でしたからね。疲れたんでしょうか」神田が知佳を見遣りながら、クラウンの方へと歩み寄った。
「やれそうですか?」
「今なら、二人もそれぞれの部屋に引っ込んでますわ。ユウキの能力は接近しないと使えないですから、そこは蓮と協力してもらおうかと」
「気を付けてくださいね」
「まあ一応、軽く煙幕張っときます」
クラウンの目配せで、蓮はユウキと共に会議室から消えた。
小さな客室に現れた二人は、無表情で椅子に固まっている秘書官の背後に忍び寄る。背後に接近したユウキが麻薬の毒素を抜いてゆくと、秘書官の目に徐々に生気が戻り始めた。
正気に戻った秘書官が立ち上がり、不思議そうな面持ちで周囲を見回したが、既に部屋には誰もいなかった。
二人は同じ様に大臣も治癒して、会議室へと帰って来た。
「おかえりなさい。どうでしたか」二人に神田が声を掛ける。
「秘書官も大臣も、無事に回復しました」ユウキが報告する。
クラウンが幻影スクリーンで二人の様子を観察しながら、「特に問題は無さそうやね。二人ともグッジョブや」と云った。
会談迄の間、大統領は勿論のこと、秘書官と大臣に就いても、それぞれ個別に幻影スクリーンで監視を続けていた。
「三つも画面あると、どれ見たら好いかわかんないよ」蓮が愚痴を云うが、クラウンはカカッと笑って、「三つぐらいで音ぇ上げたらあかん。デイトレーダーにはなれんで」
「なにそれ」
軽口を叩く間も、クラウンの視線は三つの画面を満遍なく監視し続けている。
「見てみい、秘書官は既に状況把握して、順応し始めてるわ。会談の段取り確認してるで。それに比べて大臣は哀れやな」
大臣は相変わらず、おろおろ、きょろきょろしており、デスクの引き出しを開けてみたり、ホテルの案内をぱらぱらと捲ってみたりして、落ち着きがない。何れ受話器を取って、一言二言話して受話器を置くと、暫くしてワゴンを押しながらボーイが部屋に入って来た。
「狼狽えてても、ルームサービスは頼むんや。ある意味大物なんかもな」クラウンが妙に感心した口調で云う。
そのとき、スマホで何かを確認していた神田が静かに立ち上がり、神妙な表情で部屋を出て行こうとした。
クラウンが不思議そうに、「どこへ行くんですか、神田さん?」と訊くと、「ちょっと野暮用で……すぐに戻りますから、気を抜かずに監視を続けておいてください」と応え、その儘部屋から出て行った。
「神田さん、何の用事なのかな?」蓮が不安げに云う。
「さあなぁ、あまり自分のことを語らない人やから。必要な指示はくれるけど、それ以上のことは何も知らんもんな」クラウンも首を傾げる。
ユウキの突然の物語は、ChatGPT です。何を唐突にと思ったけど、なんか意味不明過ぎて面白いのでそのまま生かしました。
神田のいきなりの行動も ChatGPT です。とにかくじっとしていられない GPT 君なのでした。