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三日間の秘密の旅  作者: 里蔵光 (協力:OpenAi ChatGPT-3.5)
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自サイトでも公開しています。

http://gambler.m78.com/hikaru/sakuhin/3days-secret-tour.html

 空は晴れていた。それが知佳(ちか)には気に喰わなかった。何故(なぜ)なら今日は運動会だからだ。

 運動会なら晴れて喜ぶ()きだろう。確かに級友達は皆喜んでいる様だ。(しか)し知佳は気に喰わないのだ。運動が苦手だから? 何なら嫌いだから? (いや)、それも無いことも()いが、そう云うことではないのだ。知佳を憂鬱にさせている要因はもっと別の(ところ)にある。

 運動会自体が嫌いな(わけ)ではない。標準的な体躯に標準的な肉付きで、運動をするに当たって特に不利な要素は見当たらない、(とて)も普通の小学生である。只若干運動神経が鈍い所があって、足は速くないし、よく転ぶ。その意味でも迚もありふれた小五女子だと、自分では思っている。卑下する余地なんか無いし、その心算(つもり)も莫い。下手糞なりにも、競技に参加するのはそれなりに楽しいし、去年迄は普通に愉しく()ってきた。(しか)し今年は違った。

 知佳には一年程前から抱えている秘密がある。何の前触れもなく、或る日突然に奇怪(おか)しな能力(ちから)に目覚めて仕舞(しま)った。そのことが皆にバレて仕舞うのではないか、そればかりが心配で仕方がないのだ。知佳には他人(ひと)の心の声が、望むか否かに関わらず否応なしに聞こえてくる。読心術と云うのだろうか。術と云う程には制御出来ていないのだが。――こんな変な能力があるなんて、友達にも親兄弟にも誰にも云っていない。云える訳がない。

 初めて心の声を聞いた日から今日迄の約一年間、彼女はこの能力をずっと心に秘めて、その横暴過ぎる効果に振り回されつゝも、一応は活用してきた。他人の思いや気持ちを理解し、周りの人々との関係を築く一助としてきた。然しそんな裏技の様なズルをしていることが知られて仕舞えば、友達は彼女を軽蔑し、或いは畏れ、離れて行って仕舞うに違いない。それを考えると只々恐ろしく、心細かった。だからと云って心の声に耳を塞ぐことも出来ない。それは知佳の意思などお構いなしに、有無を云わさず頭の中に流れ込んで来るのである。実際の音であれば耳を塞げば聞こえなくもなるが、心の声を遮る手立てを知佳は知らなかった。

 開会式が終わり、最初の競技は小学五年生のリレーだ。知佳は足が遅いのに、この競技にエントリーされている。誰でも何かしらの競技に出なければならないのだが、その(ほとん)どは(くじ)引きで決められていた。学校側としては勝ち負けなんか元々考えていない様なので、気楽な感じではあるが、それでも矢張(やは)り負ければ後味が悪いし、学級(クラス)の皆にも申し訳ないと思う。()まり最初からこの競技は乗り気がしない。それでもエントリーされているからには出なければならない。

 第二走者の位置に付いて、第一走者からバトンを受け取り、そこからは全力で走った。然しドテドテと走っている彼女の頭には、他の走者達や応援している生徒達、及び保護者達の心の声がひっきりなしに雪崩(なだ)れ込んで来る。競技の最中にそれは愈々(いよいよ)大きく響き渡り、眩暈(めまい)と頭痛を誘発して、知佳は脚の出し方が一瞬解らなくなり、右足が左足首を蹴飛ばして、コース中央で盛大に転んで仕舞った。

 恥ずかしいと云う思いより先に、大きく後れを取った、皆に申し訳ない、と思った。必死に起き上がり、何とか次の走者にバトンを渡すことは出来たが、その後は頭痛と吐き気と気不味(きまず)さとで(うずくま)って仕舞い、中々立ち上がることが出来なかった。級友達が心の声を張り上げながら心配そうに周りを取り囲むので、愈々(いよいよ)しんどいのだが、これ以上事態が悪化するのを恐れて、何とか自我を保ちながら立ち上がり、「ごめんなさい、(つまず)いちゃって」とだけ云って、やっとのことで輪の中から逃れた。

 知佳の懊悩は益々(ますます)募るばかりである。この(まゝ)では本当に秘密がバレて仕舞う気がする。今日迄バレずに過ごしてきたことが、何故(なにゆえ)この運動会の日にバレそうだと恐れているのか。人の心が読める能力など、黙ってさえいればそうそうバレるものではないし、運動会だからと云ってバレ易いこともないだろうと、一般には考えられるかも知れないが、知佳の場合は状況が違う。なにしろこの能力、運動との相性が(すこぶ)る悪いのだ。

 体を動かしていると、思考の方が(おろそ)かになる。どうも知佳は、運動中に物を考えることが苦手なのだ。(もとい)、苦手になって仕舞った様なのである。

 元来考えることは得意だった。学校の成績だってそう悪くはない。試験(テスト)だって楽しんで受けてきた。然しこの能力を授かった時より、丸でその代償かの様に考えることが不得手になって仕舞った。体を動かすとそれはより顕著になり、特に体育の授業中等には殆ど頭が空っぽになって仕舞う。そこへ他人の思考が否応なく流れ込んで来るので、吐きそうな程気持ちが悪くなる。

 運動して思考が鈍ると、その隙を突く様に能力が活性化してくる。普段の体育の授業だってそこそこヤバかった。でも周りには級友(クラスメート)ぐらいしか居ない(ため)、未だ耐えられていたのだ。でも今日は、今日この日に限っては、全校生徒、全教師、保護者、賓客ども……ダメだ、考えただけで失神して仕舞いそうになる。

 それでも何とか気を張って、頑張って、運動会を乗り切ってやろうとも思ってみた。然し現実は酷だ。現に今、知佳は保健室のベッドの上だ。あの後大縄跳びで派手に縄を引っ掛けて、心配して駆け寄って来た学級の生徒全員に囲まれながら、遂に気を失って仕舞ったのだ。

 今、周りには誰も居ない。養護の先生も運動場に出て行って仕舞った。運動会の日に、知佳の為だけに保健室に残ってなどくれはしない。でもそれで好いのだ。人が居ない方が絶対的に楽なのだ。

 「今日はもう、ずっとここにいようかな」

 すっかり弱気になって仕舞った知佳は、静かに目を(つむ)り、その儘軽い寝息を立て始める。

 知佳が寝入って暫く経った頃、保健室のドアが静かに開いた。


 寝ていたのは数分間程度だったかも知れない。静かに目覚めた知佳が(ゆっくり)と目を開けると、其処(そこ)には見知らぬ男が立っていた。温和な笑顔を浮かべて、知佳を優しく見詰めているが、それが却って不気味な気もする。

 「あなたが知佳さんですね。――気分は如何(いかが)ですか?」

 彼の声は穏やかで、安心感を与える。同時に知佳は、そこはかとなく不安を感じていた。その理由はよく解らなかった。目を細めることで警戒心を表現しつゝ、知佳はくぐもった声で訊いてみた。

 「誰?」

 男は軽く微笑みながら、「私は神田と云います。あなたの特殊な能力に就いて承知している者です。あなたにとってその能力は、大きな負担になっているのではないでしょうか」

 知佳は驚きの余り瞬きを忘れて、大きく目を見開いた。初対面の見ず知らずの人間が自分の能力を知っているなんて、(およ)そあり得ないことだった。

 「どうして、そのことを」

 知佳の問いに、神田は少し間を置いて、「色々説明したいところですが、余り時間が無いんですよ。この後も遣らなければならないことが沢山あるので。――一つだけアドバイスしておくとするなら、あなたが持つ能力は或る状況下では非常に役に立つものです。その為にも、それをコントロールし、()つ有効に活用出来る様に導いてあげる責任が、私にはあるのです」

 半分位何を云っているのか理解出来なかったが、コントロール出来る様になる、と云うことだけは解った。

 「どうすれば……どうすればこの能力を抑えることが出来るんですか?」

 「そうですね。いきなりこんなことを云っても奇怪(おか)しな奴と思われるかも知れませんが……私と一緒に来て、お手伝いをして戴きたいのです。少しばかり長い旅になるかも知れませんが、その過程で、あなたは自分の能力を理解し、コントロールする方法を見つけることが出来ると思います」

 知佳は不安に満ちた顔で神田を見上げた。旅に出ると云われても、何のことだか全く理解出来なかった。この男と一緒に何処(どこ)かへ行く気なんて、当然毛程も無かった。一体この人は何を考えているのだろうと思い、そうして知佳は、先程から抱いていた違和感の正体に(ようや)く気付いた。この男の心が聞こえない。

 「あの……」

 然し知佳には、それをどう説明すればよいのか判らなかった。あなたの心が聞こえない、と云ったところで、そんなことは普通で当たり前のことだと思う。上手く説明する自信がない。否、この人はそれを理解していると云っているんだ。だったら通じるのか。抑々(そもそも)説明して何になるのか。その行為に僅かでも意味はあるか。

 知佳が云い淀みながらも、何とか説明しようと再度口を開き掛けた時、先に神田が言葉を発した。

 「不審に思われるのは(もっと)もです。その事に就いても、いずれ説明させて戴きます」

 この男も心が読めるのだろうか。益々警戒心は募る一方だが、然し不思議と悪い人間には見えなかったし、何処となく安心出来る様な感じもした。


知佳の命名は作者ですが、神田の命名は ChatGPT です。

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