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黒の街 小説版 1話「五席会議」

 


 豪奢(ごうしゃ)で繊細な造りの小洒落た部屋に明かりが灯る。

 中央の円卓に置かれた5本枝の燭台(しょくだい)に明かりを灯したのは、黒いドレスに白い眼帯姿の女性、マフィアの親分のような風体(ふうてい)の男、和装の男性、ピエロの格好をした大男、そして仮面で顔を隠す少女のような姿の人物の5人だった。

 まず、黒いドレスの女性が口を開く。


「またこの顔ぶれを見ることができて何よりだ。あんたの顔は見たくなかったけどね。スマイル」


 スマイルと呼ばれたのはピエロ姿の大男だ。


「ハハッ。そうつれないこと言うなよエルザ君。ボクのジョークがなくちゃ盛り上がらないだろ?ただでさえ辛気臭いのに」

「おい。無駄話はそのあたりにしてもらおうか。……レディ・ブラン。さっさと始めてくれ」


 スマイルの隣に立つ、マフィアの親分然とした男が、エルザのあだ名であ【レディ•ブラン】を呼ばわり、エルザに催促(さいそく)する。

 それを受けて、エルザが他の4人に向き直った。


「では、今宵も五席会議を執り行うこととしよう。まず最初の議題に入る前に、『マルコシアス・ファミリー』頭目、ファーザー・マルコシアスから一言、あるそうだ」


 ファーザー・マルコシアスと呼ばれた男は、アスコットタイを正すと話を始める。


「じゃあ、単刀直入に。……スマイル。最近ずいぶんと羽振りがいいな?何か申し開きは?」

「おいおい。それが君なりの単刀直入かい?ジョークだとしたら30点ってとこだ。ハハッ」

「じゃあ分かりやすく言ってやる。お前さんがウチのファミリーのシマで売りさばいた薬物。あれは違法だ。責任を取れ」


 2人とも顔こそ穏やかな笑みを浮かべてはいたが、一触即発の状態だった。


「ボク?ボクが?ヤクを?売りさばいたって?何を証拠にそんなこと」

「この街の生産と流通の全てを取り仕切ってるのはお前さんのとこのクソッタレギルドだ。誰が売ったにせよ、つくって(おろ)したのはお前さんだろうが」

「クソッタレギルドじゃなくて、『みんなのワクワクギルド』だ。言葉は正しく使えよお山の大将くん」


 そこに、和装の男から制止の声がかかる。


「お二方。承知の事とは存ずるが、会合の場での私闘はご禁制。慎まれるよう」

「ハハッ、流石はこの黒の街の治安を影から守り、裏の司法を一手に引き受ける『(からす)』の頭領、暮雨(くらさめ)殿だ。見習われてはどうかな?マルコシアス殿」

「待てよ。話をはぐらかそうったって無駄だ。どう落とし前をつけるつもりか聞かせろ赤っ鼻」

「ええー?しつっこいな。もう41なんだから、(いさぎよ)く身を引くことも覚えなよ。ねー?エルザ君」

「私と『白薔薇の団』はこの件には一切関与しない。五大組織間の問題は当事者同士で話をつけて欲しいね」

「他人行儀だなー 。そんな風に堅物クソ真面目だから27にもなって行き遅れるんだよ」

「あんたも独身だろ?年齢不詳ピエロ」

「こりゃ手厳しい!」


 マルコシアスが、5人の間にあった円卓に手を叩きつける。燭台(しょくだい)が揺れた。


「スマイル。次ふざけた口を利いたらそのイカしたメイクに赤色を足してやる。たっぷりとな。薬物の自主回収と謝罪、それから賠償金の支払いはいつだ」

「ハハッ。だからさ。ボクがつくった、もしくは(おろ)したって証拠はあるのかって。証拠だよ証拠。無いとは言わないよね?」

「いいか、この……」


 そこへ、静かに割って入る声があった。

 今まで一言も発していなかった仮面の人物だ。


「わたしのところよ」

「……なんだと?」

「わたしのところの子たちがつくって売ったって言ったのよ。おバカさん」

「ヘルタースケルター……。お前さんが?」


 マルコシアスがヘルタースケルターと呼ばれた仮面の人物に向き直る。


「お前さんのとこの無法集団がつくって売った?技術も設備も知識もないのにか?どんな手品だ」

「うふふ……。さぁ?あの子たちが勝手にやったんだもの。知らないわ」


 しばしの沈黙。

 そこへ、スマイルが茶化すように口を挟んだ。


「あぁ、謝罪は結構だともマルコシアス君。濡れ衣を着せられるのも悪い気分じゃない。ほら、ボクは何着ても似合うからね。ハハッ」


 エルザがとりなす。


「ともかくこの件は、マルコシアスとヘルタースケルターの両名で、のちほど話し合ってもらいたい」

「……あぁ。そうさせてもらおう。じっくりとな」

「ハハッ、勘弁してよマルコシアス君!なんでボクの方見て言うのさ!」


 暮雨(くらさめ)が口を開いた。


「エルザ殿。催促(さいそく)するわけではないが、会議の方を」

「ああ。分かってる。では最初の議題だ。最近、我が白薔薇の団の担当するライムライト輸送隊が襲撃にあった。心当たりは?」


 マルコシアスが最初に口火を切った。


「少なくともウチじゃないな。調べてもらって構わない」

「ああ、そのことだが。この件に関して、五大組織内は全て調べさせてもらう。ついでみたいで悪いが、この場で了承を得られるとありがたいね」

「だからなんでボクの方見て言うんだよ。もちろんボクのとこも調べてもらって構わないよ?エルザ君ならいつでもウェルカムさ。確か紅茶派だったよね?」

「せっかくだが用意してもらわなくて結構。他は?自主的に協力してくれるとありがたい」

(からす)も無論。というか、調べは我らが行うこととなるかと存ずるが?」

「その通り。(からす)と、白薔薇の団とで調査を行う。……あんたんとこはどうなんだい?ヘルタースケルター」


 ヘルタースケルターが室内なのにも関わらず差している日傘をクルクルと回す。


「好きにすればいいわ」

「そうさせてもらうよ。さて、了承を得られて何よりだ。それで?ライムライト輸送隊襲撃に関して心当たりがある者は?」


 しばしの沈黙。


「……いいだろう。では、情報のある者は」

「うーん、そもそも襲って来たのってどんな連中なんだい?エルザ君」

「報告では、黒いローブとフードで全身を隠していたらしい」

「うーん、それだとどこも怪しいね!案外自作自演なんじゃないの?」

「面白いジョークだねスマイル。口に気をつけないとナイフを飲ませるよ。種も仕掛けも無いやつを」

「ハハッ!心外な!ボクがいつも飲んでるやつは種も仕掛けもないよ!」


 マルコシアスが少し苛立った様子でスマイルに皮肉を飛ばす。


「ついでに言えば、こらえ性と脳みそも無いみたいだな。いい加減、口を閉じてろ。茶々ばかり入れやがって」


 スマイルがコミカルに、口にチャックをするジェスチャーで応える。


「で?レディ・ブラン」

「ああ。襲撃者たちは魔具を使っていたようだ。だから、首謀者は五大組織のどこかなんじゃないかと疑ってるってのが正直なとこだね」

「うむ。しかしライムライトを狙ったというのが()せぬ。他の自治区の者やも」


 暮雨が細いアゴに手をやり考え込む。

 エルザが円卓に手を付き、身を乗り出した。


「ライムライトは、ドライフラワー病を防ぐため、ひいては人間が生きていくために欠かせない物。日照時間が1年の内24時間しかないこの世界じゃ、ライムライトの疑似太陽光が無ければ、皆、飢えて死ぬかドライフラワー病になってしまう。それに通貨としても使われてるしね。何としても今回の二の舞は避けなければ」

「ああ。改めて言われるまでもなくな。よければウチの生え抜きを貸すぜ。レディ・ブラン」

「……いや。マルコシアス・ファミリーは、黒の街の内部のことに注力してもらいたい。街の外からの出入りに目を光らせ、怪しい顔がないか、警戒してほしい」

「分かった。任せな。ここは俺の街だ。荒らすやつがいたらとっちめてやるさ」

「頼んだよ。そして、ライムライト輸送隊の増強には、暮雨(くらさめ)。あんたんとこの(からす)の手を借りたい」

「無論。こちらから申し出るつもりであった。……今回の輸送隊の襲撃。我らも何も(つか)めておらぬ。不明を恥じるばかりよ。情報を供出(きょうしゅつ)できぬ分、働きで報いよう」

「ありがとう。で、スマイル。ヘルタースケルター」


 スマイルとヘルタースケルターが向き直る。


「なにかしら?」

「モウシャベッテモイイノカナ?」


 腹話術でおどけるスマイルを無視し、話を続けるエルザ。


「正直に言えば、あんたらを疑ってるからね。重点的に調べさせてもらうからしばらく大人しくしてな」

「好きにすればいいわ。うふふふ……」

「オスキニドウゾ!オスキニドウゾ!」

「はあ……。ったく。じゃあ、次の議題」


 黒の街の時計塔が、真夜中の鐘を打った。


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