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今日中に3話投稿します(1/3)

 絵、絵、絵。


 ぼくの前には絵がある。


 三角屋根の家、

 掘建て小屋のような家、

 豆腐のような平屋、

 立派なお屋敷。

 種々様々な家の絵が壁一面を覆い尽くしている。


 ぼくはそれらを見て回り、上を目指した。

 階段を上り、いくつものフロアを通り過ぎ、最後のフロアに足を下ろす。


 そこには一枚の絵が飾られていた。


 夏。

 高台から見下ろす町。

 二人の後ろ姿。


 絵の中にある夏の日々。

 ぼくはそこで時を過ごし、生まれ変わった。


 その夏は、ぼくが引き寄せた奇妙な出来事から始まった。

 振り返れば、本当はあのとき死んでいたのではないか、

 そこから赤子として生まれ変わり、

 成長した姿になって現実へと戻ってきたのではないか、

 とさえ考えてしまうほどの摩訶不思議な体験。

 その体験をきっかけに、生ける屍のぼくが、生ける自分の人生を歩み始めた。


 だからといって、この体験ばかりを特別扱いするつもりはない。

 自分を見失ったこと、

 家出したこと、

 溺れたこと、

 身内の死、

 その全てがあの夏の始まりへと繋がっていた。


 もっと言えば、

 この地に生を受けたこと、

 両親が繋がったこと、

 祖父母が繋がったこと、

 自分とは関係のなさそうな全ての事柄が今の自分へと繋がっていた。


 とはいえ、この絵の夏は、人生の中で最も特別な思い出である、としか言いようがないのもまた事実である。



「ねえ、パパ。何を見てるの?」

「パパにとって大切な絵さ。前にも話したことがあるだろう?」



 ここで一つ訂正しなければならない。

 この絵の夏は、特別な思い出のうちの一つである、と言い換えておこう。



「ママと描いたあの絵のこと?」

「そうだよ。お前が生まれたのも、この絵があったからなんだ」



 特別なことは人生に何度も起こる。

 妻と出会えたことも、

 妻と結ばれたことも、

 娘が生まれたことも、

 全てが特別な思い出だ。



「ねえ、パパ。この絵のことをもっと教えてよ。あの夏に何があったのか、パパの言葉で知りたいの」

「そう言ってくれる日が来てくれて嬉しいよ」

「だって、パパ。私、もう六歳よ」

「そうだったな。いつまでも子供扱いしていちゃダメだったな……ちょうどいい機会だし、せっかくならママも呼んできて、一緒に話そうか」

「じゃあ、私が呼んでくる!」



 そう言って階段を駆け下りていく娘。

 その首元では【青く輝く丸い石】が揺れていた。

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