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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
第二章:三人の老婆と死者の都
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第091話 「嵐の大風呂」

 魔女の言祝ことほぎ。

 その諺についてはよく知っている。

 魔女は言葉巧みに取り入って来るが、その目的は大概邪悪である。だから魔女の言う事を信じてはならない。

 すなわち魔女の言祝ぎとは、言動と行為が伴わない、裏腹であるという意味だ。


「嵐の大風呂、ストームバスですよぉ~。気持ち宜しゅうございましょう」


 私は大きな湯舟に浸かってため息を吐いた。もちろん暖かい湯は気持ちいいのだが。


「なあ、その棒でかき混ぜるのを止めろ。湯船に波が立って不愉快だぞ」


 さっきから老婆が棒を持って、魔女よろしくかき混ぜていたのだ。

 私が注意すると、老婆は逆に言い返してきた。


「いえいえこの程度ではまだ、ストームバスとは呼べませぬ。もっと混ぜますぞ! イィーッヒッヒッヒッ!」


 老婆がかき混ぜる速度を上げると、水面が大きく波打ち始めた。


「おい! 止めろ!」

「イィーッヒッヒッヒッ!」


 異変に気が付いたのはこの時だった。

 波は大波と化し、視界の果てまで続いている。まるで大海原に放り出されたかのようだ。


「おい! ちょっ、止めろバカ! おぉーい!!」


 私は波に飲まれてつんのめり、転倒する。

 波にもみくちゃにされながら転げまわり、何とか体勢を立て直して立ち上がった。


「くっ、何故だ?!」


 不思議な力が働いて、力が抜けて飛ぶ事ができん!


「老婆共ォッ! 聞いてないぞ! 何だこれはァーッ!!」


 私は怒鳴ったが、もう嵐で老婆の姿はおろか、周囲の様子さえ分からない。激しい雨と突風が吹き荒れ、波が迫り来る。

 その内に紫色の怪しげな水煙が水面から立ち昇り始めた。


「おいおいおいおい?!」

「怯えているのか? ケイオス……」


 煙は巨大な人の姿を形どった。そして私に問い掛けて来る。


「おぉーい老婆共ォッ! 何だこれはと聞いているゥーッ!!」

「大丈夫だ……お前に予言を授けよう……」


 人影は大きく野太い重低音で、予言とやらを告げようとしてきた。

 だがこれは危険だ。私の直感だが、コイツは悪魔や魔人の類であろう。それも何かやらかして、この風呂桶に封印でもされているのではないか。

 得体の知れぬろくでもない悪魔がどんな予言をしようとしているかは分からないが、先を告げさせる訳にはいかない。

 私は咄嗟に聞き返す事で、予言をさせまいとした。 


「貴様ッ、何者だ! 何の目的でこんな事をしている!」

「だから今、説明をしているだろう。お前に予言を……」

「おぉーい! 老婆共! どうなってるこれは! おーい! おぉーい!!


 私は必至に声を張り上げて邪魔しようとした。


「お前に予言を授けよう……」


 くっ、強引に始めようとしてくるな。


「要らん! 大方貴様は悪魔であろうが。私に契約を迫る気だな。そういう営業は他を当たってくれ」

「大丈夫だ。契約などする気は無い……」

「嘘をつけ! 口では何とでも言えるわ。する気は無くともさせる方法ならいくらでもある。そういうのを詭弁というのだ」


 悪魔はあの手この手で契約を迫ろうとしてくるからな。油断がならん。


「分かった分かった……契約じゃなければ良いのだろう? とりあえずお前に予言をしてやろう……」

「なあー! コイツやたら予言しようとするんだけど。怪しいんだよ」



「絶対に当たる予言だ。聞きたくはないか……?」

「絶ッ対に聞きたくないわ! どうせ不吉なヤツだろ。もういい、止めさせろ老婆共ォッ!」

「もういい、か。そうかいいんだな。では予言を開始する。本件はケイオス以下甲が、魔神以下乙に対し予言の履行を了承した事をここに宣言する……」


 自称魔神が、早口でまくし立てるように口上を述べ始めた。


「あ~ッ! コイツ勝手に始めた! 聞かない! 私は聞かないぞ! あーあーあー!

「……以上は甲の自由意志のもと、自己責任で視聴開始したと判断されるものである」

「お前それ契約文じゃないかァーッ!」

「これは契約文ではない……ただ始めにこう言う決まりになっている」

「嘘だッ! 悪魔は皆そう言うんだよッ!」


 私の猛抗議を悪魔はのらりくらりと躱す。

 これはどうにかしてここから逃れないと。そう思っていると、悪魔が気になる事を言い出した。


「嘘じゃない。私は嘘を言わない……お前は強い。この世界で誰も、お前には敵わないだろう」

「何? それが予言か?」

「そうだとも。誰もお前を殺す事は出来ない」

「フッ。当然だ。そんな当たり前の事は、一々言われなくとも分かっているわ」


 拍子抜けだ。

 私はてっきり不幸な予言でもされるのかと思って抵抗していたが、蓋を開けてみれば良い予言じゃないか。


「城が真っ二つにならない限り、どんな敵にもお前が負ける事は無いだろう」

「城だと? この城か? 今後私が、城を所持できるという事なのか?」

「その通り……今後お前が所持する事になる城だ……」


 その予言に私は色めき立った。


「おお、それは素晴らしい! いや待て、本当か?」


 こんな奴の言う事に、何を喜んでいるのだ私は。冷静になれ。


「本当だとも。私は予言の魔神だ。私の予言は絶対に当たる……」

「ぐぬぅ。そうか。ならいい」


 これが必中の予言だとしたら美味し過ぎる話だ。


「いいか?復唱するぞ」


 魔神は三つの予言を再度告げた。


「この世界で誰も、お前には敵わない」

「お前は決して殺されない」

「城が真っ二つにならない限り、お前が負ける事は無い」


 以上だ、と言うと魔神は煙のように消え失せた。

 気が付けば嵐の大風呂は静まり、元のサイズの湯船に戻っていた。


「ケイオス様、どのような予言が授けられましたか?」

「良い予言だったでしょう?」

「ケイオス様ばんざぁい!」


 老婆達がうるさく問い掛けてきた。


「ああ。私には誰も敵わないらしい。無敵だ。いずれ城を所有するとも聞いたな。この城の事だろう」

「それはめでたい!」

「死者の都の城が、貴方様を受け入れたのでしょう」

「ケイオス様ばんざぁい!」


 老婆達が言祝ぎを繰り返すのを聞いていると、私もつい乗せられてしまう。


「無敵の魔王となるか。私が黄金郷の王となるのか。ハッハッハッ!」

「「「おめでとうございまぁす!」」」


 私はすっかり上機嫌になり、先程までの怒りなど何処かへ行ってしまった。




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