第090話 「伝説の都」
黄金郷へ向かう途中、老婆が私に何か持って来た。
一旦、地上に降りてそれを受け取る。
「ほれ、魔導書を回収しておきました」
「おお! 私の魔導書ネクロギアではないか、ありがたい。む・・・・・・他の荷物はどうした?」
老婆は魔導書しか持っていない。
「この老婆には重すぎて、そんなにいくつも持てませぬ。他の物は捨て置きました」
「何だと?! 物の価値が分からないのか!」
人間化擬態薬やフィーバーポーションなど、私にとって必需品だ。希少な材料が必要で、中々作れない逸品だというのに!
私は取りに戻るから落ちていた場所を教えろ、と老婆に詰めた。
だが老婆は魔導書の気配だけ感知してそれを持って来たらしく、書が手元にある今となっては荷物の位置など分からないようだ。
貴重な錬金術用具も沢山あった。あれ等が無ければ、薬を作る事も出来ないではないか・・・・・・なんという事を。
「あんなガラクタなど使わなくとも、彼の地には何でもありますよぉ。擦りこぎ、乳鉢、蒸留器」
「希少な薬草、毒草、マンドラゴラ! 鉱物、魔物の素材、毒虫も」
「なにせ彼の地は黄金郷。錬金術の道具材料、なぁ~んでもございますとも! ヒャヒャヒャ!」
老婆達の余裕たっぷりな言い返し方に、私は鼻白んだ。
「ほ、ほう。そうか。……ならば良しとするか」
本当だろうな? 薬が作れずバンパイアハンターに追い回されたら、お前等にどうにかしてもらうぞ。
「さぁさ、参りましょう! いざ、黄金郷へ!」
私がまだ文句を言いそうなのを察してか、老婆達は私に先を促した。
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黄金郷は意外な場所にあった。
ウェストリコより西に大分行った所に、古代文明の物とされる遺跡がある。
その地下には墓、いわゆる地下墓地があって、説明が難しいのだが・・・・・・黄金郷は、その裏の世界である魔界に存在する。
普通にこの場所を訪れても、ただの墓でしかない。
私と三人の魔女は、地下墓地最奥にある魔界へのゲートを開いて黄金郷へと到達した。
「おぉ・・・・・・! これが黄金郷か!」
ここは地下世界のはずだが、魔界には空があった。太陽は無く、夕焼け色の空がいつまでも荘厳な街並みを照らしている。
街中は黄金の装飾が、至る所に施されていた。先程までの陰鬱な地下墓地の様相とは、まるで違う。
私達は広大な街並みを一望できる、高台の城に居た。最奥のゲートがある場所が、こちらでは城だったのか。
驚くべきは街並みだけではない。
道を行き交うのは全てがアンデッドだった。
ゾンビやスケルトンがひしめき合う中、大型の竜種の骨が荷馬車を牽引しているのが見える。
数えきれないゴースト達が、建物の窓や屋根の上を飛び交う。
ここはまるでアンデッドの国だ。
「黄金郷は錬金術の高度な文明であったと聞く。それ故に滅んだ、とも」
「然様でございます」
「人の欲は恐ろしいもの」
「永遠に富を得ようとしてこうなったのじゃ」
この古代文明がどのようにして今の有様になったのか諸説あるが、詳細は定かでは無い。
ただ文献に残る共通点としては、錬金術の秘術が原因で滅んだ、という点で一致している。
それは災害だとも、神の怒りだという説もあった。
いずれにせよ何かろくでもない事が起こった結果、ここは空間ごと封印されたのだ。現実の裏世界である魔界に。
「さて、景色を見るのも良いですが、ここへ来たからには今後を占うべきです」
「そうじゃそうじゃ、中へ戻りましょう」
老婆達が城の中へと誘う。
「何だ、その占いというのは?」
「ここには良いお風呂があるのですよぉ~」
「そうそう。湯船につかれば未来が見えますのじゃ」
相変わらず訳が分からない事を言う奴等だ。そう思いながらも私はついて行った。
「かなり大きい風呂場だな」
城の中に戻り案内された場所には、石造りの大きな湯舟があった。
カビ臭く苔むしたそれを、老婆達が掃除し始める。
「……大丈夫か。その、腰とか」
「儂等を気遣ってくれるのですか!」
「あな嬉しや!」
「ケイオス様ばんざぁい!」
私がちょっと心配すると、老婆達はウザい程に喜色満面になった。
「なんのこれしき!」
「ケイオス様の為なら、えーんやこらですじゃ」
「ケイオス様ばんざぁい!」
元気な婆共だ。まあこれだけ達者なら、やらせておけば良かろう。
私は魔導書ネクロギアでも読んで待つとしよう。
しばらくそうしていた。
「ケイオス様、掃除が終わりました」
む、早かったな。
「火を焚く準備は万全です」
「水は……汲んでおりませんが」
なるほど。水源は近くに無いのか。
ここは城だ。嘗ては大勢の小間使いや奴隷達が、水運びなどを行っていたのだろう。
「いや、それしきの事は私がやろう。ご苦労だった」
私なら水を創造する魔法など容易い。湯船に満杯になるまで水を注ぎこんだ。
ついでに風呂釜の薪に火をつけてやる。薪は勢いよく燃え始めた。
「あいや、ありがとうございます」
「儂等の仕事だちゅうのに、申し訳無い」
「ケイオス様ばんざぁい!」
湯の温度は任せたぞ、と私はまた魔導書に目を落とす。




